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EQ @バランサー  作者: 院田一平
第1章
28/71

第28話 順風

挿絵(By みてみん)




普通に武山さんの横に座ろうとした俺を、ふたり括りの松田ロールスロイスの後部座席の、

真ん中のひじ掛けの上に引きずり込まれ、俺を挟む順子さんと貝貝先生・・


「ほほほぉー」

目線を避けることができない真正面のバックミラー越しの武山さんの笑い声・・


「ソンが可哀そうよお姉さま。私が前に乗りましょうか」


「いいじゃなぁーぃ。ねぇソン」


<俺にふらないでぇ・・>


「いや・・俺が前へ・・」


「だぁめぇ~」


「本当に恥ずかしいわお姉さま」


「なぁにぃよぉー何が恥ずかしいのぉよぉー」


「日本人はそういう事を人前でしないの」


「あらぁソンはヴェトナム人よぉー。ねぇソン」


<・・武さんスピード上げてぇー・・>


「俺・・そうっすけど・・でも風習とか習慣とか・・俺・・日本人だと・・」


「ほら。そうよねソン。嫌よね。こんなデレデレしたおんな」


「なによぉーもうぉー」



復興が進んでいたものの、伊丹空港から神戸の松田家へは普段でも時間が掛ったのだが、

この時ほど長く感じた車中はない・・



Matsudaの門をくぐると大きな体に似合わない小さなホウキとちり取りを持ったヒンが見えた。


「おっかえりぃー!ポイポイはん、荷物はワイが運ぶんで置いといてぇー」


なんか?いつに無く色々が違うヒン・・


「どっか悪いのかぁ?」


「なにがやぁ?」


「いや、庭掃除とかよぉ・・」


「おう!いっつもお前がキレイにしとるからぁーなぁ 今日はワイやぁ ハハハハハあ」


「そうなのぉ?・・いいよ・・また明日にでも俺がするからよー」


「あかんでぇ。これからは順番やぁー順番」


「あんだよそれ・・・」


やはりどこか変なヒンだったが・・



玄関では松田さんが先生を迎えていた。


土産話があると連絡してきた、あの椿原社長も加わってのにぎやかな夕食となることが判り、

順子さんと俺は買い出しに。順子さんの運転はまあまま危なっかしく・・

狭い通りを抜けるスーパーまでの道では、車が行き交うたびに冷や冷やした。


「順子さん、帰りは俺が運転しますんで」


「大丈夫よぉー。でもおねがぁーぃ・・」


椿原さんが必ずいいワインを持ち込むはずだからと、合いそうな肉と海鮮をメインに、

チーズやハムやらを買え揃えた。


「ねぇ~こん晩からぁ私のお部屋で一緒に寝よぉねぇ~」


「アブないっすよーー・・」


<変わんなきゃよかったぁ・・運転・・>


片腕を拘束されて順子さんの重みを感じながらの運転・・


「俺・・松田さんに・・その・・どう言おうかと・・」


「そんなこと大丈夫よぉー。お父様には大儀じゃないわぁ。私が言っちゃうからぁー」


「いえいえ。だめっすよーそう言うのは・・そう言うことは俺からしないと・・」


「そうぉ?はぁい!じゃお任せねぇ」


思った以上に買い物に時間を掛けたせいか、俺らが帰ると専務と言われる弟さんをお連れになった

光一社長は既に来られていて、リビングで松田さんや貝貝先生がお相手をしていた。



キッチンに買い物袋を置き終えた時、


「ソン君、順子、ちょっと来なさい」


松田さん!

<・・もしかして・・!?>


「・・はい・・」



貝貝先生の手招きでその横に腰かけた時、


「順子、本気か?」


周りの緊張感とは裏腹に笑顔の松田さんが言う。


<あちゃ・・やっぱ・・>


「ソンの事ですかぁお父様ぁ」


「そうだよ」


「いえ・・すみません松田さん・・その・・俺が・・俺、順子さんと結婚したくてその・・」


「ソン君も本気なのかあ?」


「はい。本気っす。俺・・順子さんの様な人と・・・・」




「フゥン(笑い)。知っての通り順子は純粋な子でな、ソンくんに合うんじゃないかとは思ってたよ」


前にも一度見たが、顔をクシャクシャにした松田さん。


「あ・・はい・・その・・」


「ほぉらぁーねぇーソン。 お父様もそう思うでしょうぉー!」


「まあともかくいい旅になったって事だろよ。キャンベラがよ」


<!おおきい。やっぱこの人はデカい人だ!>



「ソン君、なんやワシらがチンコロしたみたいになってもてぇー ごめんなさいやでぇー」


松田さんのクシャクシャの笑顔が出るまで、緊張の趣きだった光一社長。


「いえ。すみません。逆にギコチ無くしてしまって・・俺、タイミングを見て松田さんに話そうって」


「ほー!大したモンやぁー。ホンマでんなぁ優二はん!」


<え?なにが?・・>


「そうか。ソンが俺の息子になるか。フゥン」


「ねぇお父様、もうよろしぃ?私はお料理をぉ」


「おうそうだな」


「ポイポイちゃぁんお手伝いしてぇー」


「ソンがしなさい。私は叔父様と大事なお話があるの」


「なぁにぃよぉもうぅ」


「はい。俺手伝います!」


この日の晩飯会は椿原ご兄弟も泊まって帰るほど遅くまで続いた。


ヒンが混ざった吉本新喜劇的な関西弁の応酬が場を盛り上げたが、話の中心は俺と順子さんだった。


「ハハハハハあ。そらそうとぅソン、結婚式とかぁどないすんねん?オカンやオトンに言うたんかぁ?」


<あ!だよなぁ・・>


「まだ何も言ってねえや・・」


「慌てることは無えだろよ。神戸はこんな時だし、

またいつサリン何かが撒かれるかもしれねえしよ。

こういう時はいいも悪いも重なるモンだけど、

何事もバタバタしちゃいけねえ。

腰を据えなおして足元を固める時よ」


<サリン・・>


「あの松田さん・・そんな事なんですけど・・順子さんともまだ話してないんですが・・」


「なぁにぃ?私に話してない事ってぇー」


「いや俺・・ベトナムで暮らしてみたいなって思ってまして・・」


「えぇーヴェトナムでぇー!? うんうん。いいわよぉーじゃいつから行くぅ?」


<いやいや・・一緒にとは・・>


「いや・・順子さんと一緒にとは考えて無くて・・」


「なによそれ 怒」


<・・やべ>


「いやいや・・そんなんじゃなくって・・ベトナムの・・

俺、ベトナム人の暮らしを経験したくって・・」


「ひとりで行くってことなの? 怒」


「いやだから・・そんなにそこまで・・まだ・・」


「ワイも行くわぁー。ワシら言うとってんなぁソン。

その内にベトナムやら中国やらで住もう言うてなぁー」


<・・それもチト違うくて・・でもサンキュー>


「・・うん・・まあ・・」


「おめえら人の話を聞いてんのか?でもまあ面白れえ考えかもな。よし。その件は預かった。

とにかくバタバタするなや」


松田さんはそう言ってその場での俺たちの話題は終わった。


途中出たサリンの話しで考えたが、俺だけじゃなく皆にとって異常な時を過ごしているのだと。

世の中がそんな時だからこそ自分達の足元を固めろと言う松田さんの世界観に想いを馳せていた。


片付けが終わり、順子さんはお風呂に入ると部屋に戻った。


その間に先生が点ててくれた普洱茶が、俺の身体の中のワインを洗い流してくれる。


「ソン、女は男より枯れるのが早いのよ。あのお姉さまだっていつかは枯れるわ」


「?は・・はい・・」


「でも結局、男次第なのよ。そういうのも」


「・・先生、男が・・いや俺は何をすれば順子さんを・・その・・」


「SEXよ。Stressは絶対に悪」


「・・はぃ・・」


<聞くんじゃなかったわ・・>


「どう?相性はいいの?」


<・・・・>


「・・相性とか・・わかんないですよ・・」


「白雪が言ってたわ。ソンは上手って フフフ」


「いや・・やめてくださぃ・・」


「ちょっと見せてみなさい」


テーブル越しに俺のそれを握りしめる貝貝・・先生・・




「こらぁーー!なによぉーあなたたちぃー 怒」

<!!!!・・・・>




流石に順子さんも疲れていたのだろう、その夜は静かに自分の部屋で寝込んだ。


俺は5時の目覚ましで起き、いつもの瞑想を終え庭からの掃除を済ませてダイニングでコーヒーを

飲んでいた。



「おうおはよう。早いな。今朝もソンが掃除か?シャオヒンは未だ寝てんのか?」


ドドドォー・・

「うぉーー!寝過ごしてもぉたぁー」


家中に寝坊をお知らせしながら走って来るヒン・・


「起きたみたいっす」



「ったく・・当分お前が掃除しろって昨日ゆったばかりだぜ・・」


<!そゆことかぁ!>


「いえ。俺が居る時は俺がやりますんで大丈夫っす」


「まあ任せるわ。お前さんらで話し合って頼むわ。誰かを雇うのもな。こんな時だしよ」


「はい。大丈夫です。任してください」



「おうそうだ。シャオヒンよーちょっと来いや」


寝坊を悪ぶれた顔も無く来たヒンと俺をリビングに座らせ、

「お前さんらヴェトナムで暮らしてみろよ」


唐突といえばそうだったし、前振りをしたのは俺たちでもあったが、松田さんはそう言った。


「詳しくはもう少し考えてからだけどよ、この状況の神戸に居るよきゃいい考えだと思ってよ」


「うおー!よっしゃぁー!ほなワシ、オトンに言うて来ますわぁー」


「まあまて・・お前だけは・・ったく。その時は俺からも挨拶に行くかんよ」


どういうベトナムでの生活をするとか色んな事が頭を巡ったが、遅かれ早かれその時が来るんだと、

またケツがムズムズとウズいて来た。


「ありがとうございます!向こうでどんな仕事でも何でもやります!」


「おう。大体イメージは出来てんだがよ。まあもうチッと時間くれや」


「はい!よろしくお願いします」


「やったなぁーソン!里帰りやなぁー ハハハハハあ。ワイはホンダ買うでぇー」


もしかしたら俺よりヒンの方がそのイメージが明確に有ったのかもしれないと思った。


以降は、ハマのオヤジやら連れやらから情報を取った。

現在のベトナムの考えられる全てを事前に学びたかったからだ。


同じくして松田さんも電話の前に居座ることが増え、

聞こえてくる言葉はヴェトナム一色だった。



そんな俺らを他所目(よそめ)に貝貝先生は、順子さんを誘って3泊で沖縄へと出て行った。






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