第27話 愛確未来
今回のオーストラリアでの最後の夕食は、Maiのオヤジさんが招待してくれた。
指定されたSurry HillsのShakespeareHotelに行くとホテルの名前のままの
パブが在り、Mai達が座る重量感のあるソファーや古ぼけた木の柱が歴史を感じさせていた。
少し遅れて来た順子さん達も合流して、オヤジさんの挨拶で乾杯した。
「Tôi đã nghe về bạn từ con gái tôi. Bố mẹ anh có khỏe không? Lần tới hãy giới thiệu cho tôi nhé.
(娘から聞いたよ。ご両親は元気?次回は紹介してね)」
「Đương nhiên rồi. Tôi rất vui được giới thiệu. Đây là nhà hàng tuyệt vời nhỉ!
(はい。紹介させてください。ここは素敵なレストランですね!)」
俺やヒンはベトナム語で、先生や順子さんは英語でそれぞれにKhaさん(カー:オヤジさん)と話す。
「It's a really nice pub! There are so many kinds of beer. Which beer do you recommend?
(ホントに素敵なパブ!ビールが沢山ありますね!なにがいいかしら?)」
ビールの飲み比べをしようと、オヤジさんの特別オーダーで小さなグラスに沢山の種類が
テーブルに広がった。
やたらとビールに詳しいMaiのこのオヤジさんはその筈で、オーストラリアやニュージーランドから
正にこのビールの原材料である麦芽やホップ、オーツ麦などをベトナムへ送り付ける貿易をし、
そのシェアはベトナム産ビールの9割に及ぶらしい。
あと、それら原材料や砂糖などの先物取引もしているという。
また奥様はベトナムのダナンに常駐していて、リゾートNo.1.のBãi biển Non Nước
(ノンヌオックビーチ)などで多くのホテルを運営しているという。
「なぁヒン、彼女さ・・お金持ちじゃんよ」
「お?そうみたいやなぁー ハハハぁ」
「おまえさぁ彼女とマジでつき合えばいいじゃん」
「おお。付き合うもなんも、結婚するんやぁー。そのうちなぁー ハハハハハあ」
ヒンとの話はヒソヒソとはできない・・
「いいねー。賛成よぉー。ねぇソン」
俺の右腕にしがみ付きながら順子さん・・
「ん?順子はん、なんやソンと怪しいなぁー!? ふたりぃ できとるんちゃいますかぁー?」
「そうよ。私たちも婚約者よぉー。ねぇソン」
<・・白雪の視線が痛い・・>
「う・・うん・・」
「おおお!!ホンマかぃなぁー!いつの間にそんなことになったんやぁー ハハハハハあ
まあそれはええわぁー」
順子さんの頭が俺の方の上に・・
「あらお姉さま。あまり見せつけないでください。私もソンが好きなのよ」
<・・せん・・せい・・>
「なによぉーそれっ。だめよぉーだめだめぇー」
「I’m just kiddingフフフ」
<でた!>
「Hả? Có chuyện gì vậy? Anh không sao chứ?(なになに?どうしたの?大丈夫か?)」
「Không. Không sao. Chúng tôi sẽ kết hôn. Cô ấy là hôn thê của tôi.
(大丈夫です。彼女は婚約者でして・・)」
「wow! Great ! Let's toast to them.(それはいいね!乾杯だ!)」
このオヤジさんが娘さんのMaiとヒンの事をどう思っているのかとか
、いろいろ頭を巡ったがヒンの事だからどうなろうが平気だという答えにたどり着いた。
大きなロブスターやオージービーフで腹が膨れ、たっぷりのホイップが乗った
シフォンケーキが出された時、
「Can I order wine?(ワインをいただいてもいいかしらぁ)」
「Sure,sure! Absolutely!(もちろん!)」
<あ!ワイン樽!>
「あー!順子さん、ホテルで今日、ワインの試飲会があって、これを・・」
例のCellar Doorの話をしながら、もらった名刺を順子さんに見せた。
「あらぁー!光一社長のお名刺じゃないのぅ!どういうこと?光一社長がホテルに居るのぉ?」
「?え! 知り合いっすかぁ?」
「おうちにもよくお越しよぉ。お父様のご友人よぉー。ワインの世界で光一社長のお名前を
知らない人はいないわぁ」
「まじっすかぁ!?」
「じゃ二次会はホテルでワインにしましょうぉー」
「お姉さまは本当にワインが好きですね。変わりないわ」
「Tonight our friend is holding a wine tasting at the hotel. Would you like to go there with us?
(友人が私たちのホテルでCellar doorしてるから一緒に行きましょう!?)」
「Sounds good! I'm very interested in that. Let me join you.(いいね!ご一緒させてください!)」
Khaさんが運転する車に俺と順子さんと先生が乗り、その他は手配の別の車でホテルへ。
車中、気になって聞いた。
「順子さん、オーストラリアは酒飲んで運転してもいいんすかぁ?」
「そうね・・日本はだんだん厳しくなって来たものねぇ・・
So,.. Can I ask you one thing? Is it illegal to drink and drive here?
(オーストラリアは飲酒運転してもいいの?)」
Khaさんの説明によると、違法で24時間の免許取り上げは聞いたことがあるが、
Standard drinkという自己責任的な基本が重視されていて然程、飲酒運転が重い罰ではないという。
※注釈:1995年の物語であり現在とは異なる。
「お姉さま、ソンに引っ付き過ぎですよ。イヤらしい」
「なによぉー。ヤキモチぃ?」
「いいえ。私まで恥ずかしくなるわ。人前で。日本人らしく無いわ」
「なに怒ってるのよぉ・・それこそポイポイらしくないわぁー」
「怒っていません。恥ずかしいと言っていますの」
「はぃはぃ。なによぉ・・」
<・・なんかしあわせぇな感じ・・>
ホテルの戻ると俺らを車に残して順子さんは一目散にワイン会場へ走って行った。
「ソン、今晩は私の部屋に来なさい」
俺の腕にぎゅっと絡みつきながら言う貝貝先生・・
「・・いや・・先生・・それは・・」
「馬鹿。あなた、白雪とお話しすることがあるでしょう。本当にあなたの事が好きだったみたいよ」
「あ・・はい・・あの・・なんて話をしたら・・」
「自分で考えなさい。女と男については今回、私から充分に話してあげたわ。大丈夫。彼女も強い子よ」
「は・・はい・・ありがとうございます・・」
突き放すわけにもいかず片腕を拘束されたままCellar doorの幟が掛かるラウンジへ入る。
「ソン、こっちよぉー!」
順子さんの横には昼間の椿原社長がいる。
「にぁにぃそれぇ離れなさいよぉ」
「大きな声でみっともないわよお姉さま」
<・・トホホぉ・・>
「モテモテですなぁー!まさか優ちゃんとこの人とは思わんかったですわぁー。ソン君ですねぇ?」
「はい・・いやその・・順子さんがワインを飲もうって・・それで・・」
「まっまあさぁさぁ皆さんもどうぞどうぞー」
しばらくの間は順子さんが中心の話しで赤いワインを飲み、皆の手に白いワインが渡った頃から
Khaさんと椿原社長が互いに真剣な眼差しで話し込んでいた。
後で知ったのだが、Khaさん情報の近く暴騰が予測される砂糖の話しに椿原さんが
釘付けになったとか、互いに酒類を扱う商社としてKhaさんはベトナムや欧米ルート、
椿原さんは日本への流通網を共有し合うようになったそうだ。
静かに人々が散らばった会場には俺たちしか残って居なかった。
酒がそうさせてくれたと思うのだが、俺は順子さんに白雪と話をする了承を得て、
彼女の手を取りラウンジの大きなガラスの扉の外に連れ出した。
「白雪、对不起。我伤害了你。我爱的只有顺子(俺は順子しか見えないんだ・・ごめん・・)」
「不要弄错。我没事。但是你要一直做我哥哥。好不好
(ごめんは不要。私は大丈夫。でもあなたはずっと私のお兄さんよ)」
貝貝先生の言う通り、白雪は俺なんかよりずっと強い人(女)だった。
松田さんが言う聖地となるべきベトナムへの第一歩の為に来たオーストラリア。
目的は予想以上に果たし、2つの都市に立って判ったオーストラリアという国に、
まさかの貝貝さんとの再会をはじめとした色々な出逢いも充実した。
何より順子さんとの将来が明確に視得たこと。
僅か1週間のこの旅でも俺には大きな糧となるだろう。
翌朝、皆がそれぞれに帰国するのだろうと思っていたが・・
「お姉さまはGold coast(ゴールドコーストブリスベン空港)transitでしょう?
私はここから直接、東京に飛びますわ」
「えぇ?なによぉそれぇ?あなたも日本に来るのぉ?」
<え!・・なんで・・なにしに・・?>
「私も叔父様に会いたくなったの。ソン、東京でpick me upよ」
「あ・・はい・・」
先生と順子さんのバトル的やり取りのあと結局、伊丹便に乗り換えて来るという事となり、
松田さんへの順子さんとの事を含めた大事な報告も出来ないまま
、武山さんの運転で貝貝先生を迎えに出た。もちろん横には順子さんが張り付いている・・
ある種の試練の時間は続く・・




