第26話 錯綜
ハマの団地の古本屋で買ったナポレオンヒルの
思考は現実化するをボロッぼろになるまで読んだ
学生の時から5年、昨夜ほどそれを実感したこと
は無く、それが短期間であっても深層心理での
会議に登場する人物との間に、マインド伝達が
されているという・・
心底からのそれに片思いなど無い!
そんなことをノートにしたが・・
本当に書き残したかったことはあの順子さんの唇・・
乳房・・それに・・
ともかく忘れられない夜だった。
さて大事な会議だ。
集まる予定のブレックファーストべニューには
ヒンが既に満足げに座っていた。
「おはよう」
「お!おはようさぁーん。順子はんはぁ?」
「ああ・・まだみたいだね・・」
「なんや?なに照れとんねんお前が?」
「いやー テレてねぇよ別に・・」
「ごめぇーん。おそくなったわぁー」
普通に、普段の様子で登場する順子さん。
<・・やべぇ・・顔みれねぇや・・>
「何時に出発するん?」
「9時に出ればいいと思うの」
「ほーい。ほんならわし先に部屋帰るわぁー」
<いやまってぇー・・2人にしないでぇ~・・>
「あら?あなたも未だ食べて無かったのねぇ」
「はい・・今さっき来たんで俺も・・」
<普通すぎる・・>
「ビュッフェ取って来るよぉー
あなたは何がいい?」
「いや・・俺も行きます」
女性っていう生き物がそうなのか?彼女がそうなのか?
が分からないまま、普通に最終の打合せをしてAKCへ
出向き、途中ナイトさんからの応援の電話もあり、
思った以上の順子さんの活躍でMOU(基本合意)を
目的とした協議会だったのだが、
DA(Definitive Agreement=最終契約書)の細部調整
まで進み、後の本契約を約束して会議を終えた。
「お疲れ様でした!順子さん凄かったですね!」
「疲れたぁー。だってあれだけ準備したんですものぅー。
でもLam叔父様に助けられたわぁー」
「確かにあの電話の後から何かトントン拍子でしたよね」
「うん!お父様もお喜びになるわよぉーきっとぉー」
「ナイトさんだったり、ホビスさんとか・・やっぱ
松田さんが凄いっすね!」
「えぇー私わぁー?」
「いや・・だから・・順子さんも凄かったっすって・・」
「冗談よ冗談。それよりごめんなさいねぇ・・
途中は通訳をする間が無かったわぁ・・」
「いえいえ大丈夫っす!大体は何と無く分かったんで。
でも・・
そう、あんな大事な協議なのに、なんか?あんまり難しい
英語じゃ無かったですよね?」
「理解できたのぉー?そうなのよ。英語ってねぇ、
契約とかのああ言う場では特にああやって
誰もが分かる言葉を選びながらお話をするのよぉー」
「なるほどー。へぇーそういうことなんですね!」
「わしゃそんなんもこんなんも分からんわぁー
ハハハあー。
順子はん、とにかくあれやろぉー?明日は予定通りにぃ、
シドニーでええんやろぅ?」
「そうよぉー! あああーーー!
チケット忘れたぁーー!」
今日のこの日の準備に、相当なエネルギーと気を
使ってきたのだろう。
昨夜のあれももしかしたら・・
とんでもない緊張感の中からの間違いだったのかもと
考えた俺だった。
ホテルで済まそうと夕食の最中に、難なく取れた
シドニー行のエアーチケットがフロントに届いた。
昨日のうちについている筈のMaiに、シドニーでの
ホテルや行動の手配を任せることとなり、
ヒンがその間に立ち、連絡の為部屋にこもった。
「乾杯しようよぉー。私のお部屋でぇ」
<あちゃ・・またあのお色気モード・・>
「うん・・順子さん・・俺・・本気で好きになって
もいいんですか?」
「お嫁にもらってねぇ!」
<○▼※△☆▲※◎★●・・・・!?>
逃げるように部屋に帰った昨日とは違い、その夜は
腕の中に順子さんを置いたまま過ごした。
「マイ達は昨日からもうホテルに居るらしいわぁー。
そやから空港迎えに来うへんから、
直接ホテルに来いやてぇー」
出発の朝めしの時にヒンが言う。
「いいじゃない。どこのホテルなのぉ?」
「いんたーこんちねんたるー言うとこやてぇ。
順子はんしってますぅ?住所は・・」
「わかるけどぅー・・本当に?インコネシドニーなのぉ?」
「インコ? いんたーこんちねんたる。ですわぁー」
「クスクス・・へー凄いわねぇ・・マイさんは
お金持ちなのね。
お父様が居るのに昨日からホテルなの?」
「あれだろ?親父さんも一緒に泊まってるって事
じゃないの?Mai達ってさっきヒン、
言ったよね?」
「お!?ほんまやなぁ・・確かに『私達』ってぇ
いうとったでぇー!? ハハハぁ。まあええやん」
「みなさんお金持ちなのねぇー。羨ましいわぁー。
でも1回泊まってみたかったのよぉー」
「そんなにいいホテルなんすか?」
「うん!サーキュラーって最高のロケーションだし、
シドニーハーバーが見渡せるのぉー。素敵よぉー」
<予算大丈夫なのかな・・>
「高いんでしょうね・・ここより・・」
「あー心配いらんで。ホテル代は全部マイが
払ろたぁ言うとったでぇー」
<・・あそ・・てか大丈夫かよMaiちゃん・・>
「それが1番素敵ぃー!マイさん最高ねぇー
シャオヒン!」
「えへ・・ハハハハハあ」
<あんでお前がテレんだよ・・>
フライトが遅れに遅れて、ホテルの送迎バスに
乗った時には暗くなっていた。
チェックインのフロントで、ハーバービューラウンジ
でお待ちと言われ、
荷物を預けたままラウンジに向かった。
「なんやあいつぅー 生意気やなぁー・・
あっち来いこっち来い言いやがってぇ・・
ごめんやでぇ順子はん」
<真面にしおらしい態度なヒン・・笑い>
「いいじゃなぁーい。遅れたんだしぃー」
案内の後についてMaiちゃんの待つラウンジの
大きなガラス窓が見え!?
<おおおおーぃうそぉー・・!?>
手を振りながら寄って来るのは・・白雪だ!?・・
<あんでぇ?・・まじやめてぇー・・>
「哥哥!(おにいさーん)」
「你为什么在这里?(なんで?居るのー??)」
白雪に抱き着かれながら感じる後ろからの
ドンヨリとした重い空気・・
「あらー?マイさん?なんでソンくんに飛び着くのぅ?」
「ちゃうでぇーこの子はマイとちゃうでぇー ハハハぁ」
<・・ヒン・・たのむぅ・・>
「順子お姉さま!お元気でしたか?」
<○▼※△☆▲※◎★●・・・・!?>
「ポイポイちゃん!どーしたのぉーもうーなんで
教えてくれないのよぉー」
<・・・・・・・・>
「お姉さまが居ると聞いたので付いてきましたの」
「そう!嬉しいわぁー。元気そうねぇー。また
綺麗になったねぇ!」
「さあ食事にしましょう。あちらで席を用意しています」
「うん。お腹へっちゃったわぁー」
俺は顔をあげることができないまま席に着いたが・・
ヒンやMaiを責める事もできず、白雪を突き放す事も
出来ない・・まして師匠に・・
水ものどが通らない時間が過ぎていく・・
「ソン、キャンベラは上手くいったの?」
「あ・・はい」
貝貝先生から急な振り。
「そうだ!ポイポイちゃんがうちのソンの先生
なんだってねぇー!?
すごく褒めてたわよぉ師弟だってぇー」
「はい。ソンは面白いのよお姉さま。私の事を
なんでも知ってるの」
「なんでもぉ?あらそうなのねぇー」
<・・お願いだから話題を変えてくれーー・・>
「わたしのblood type(血液型)も当てたの」
「へぇーそうなのぉー。あなた私の血液型って
知ってたっけぇー?」
<・・ほんと・・すびばしぇん・・>
「いえ・・はい・・B型ですよね・・」
「あら!言ったっけかなぁ?」
「いえ・・そうかなと・・」
「ほら!面白いでしょこの子。ねえお姉さま」
「それで?その子は誰ぁれぇ?」
<きたぁ・・>
「・・あ・・えと・・前回のロシアの・・
その・・」
「イヤらしいのよこの子達。私の前で抱き合ってるの。
コンドームもいっぱい使って」
<!!!も俺・・最悪・・>
「へぇー・・聞いてないわねぇ。中国人かなぁ?
まだ子供じゃないのぉ?」
「・・いえ・・その・・」
「それで?今日もその子とHするのぉ?」
<・・勘弁してくだすわぃ・・もう・・>
「もちろんよお姉さま。シドニーまで呼んだのですから。
ソン、コンドームあるの?あげようか?」
「いや・・先生・・俺は呼んだりしてませんし・・」
「だめよ。病気でもうつったら大変。私の時は
着けないんだからぁー」
<・・・・涙>
「お姉さま!?ソンとそういう関係ですの?」
「そうよ。お嫁にしてくれるってぇ。ねえ『ソン』」
<もうどうにでもしてぇー・・>
「あ・・はい・・」
「なによそれぇー。嫌なのぉー?『ソン』」
「いえ・・そうじゃなくって・・その・・はい。俺、
順子さんを奥さんにしたいと・・」
「そういうことですね。なるほど。ソン、
お姉さまに似合う人に成りなさいね。
お姉さまをよろしくお願いよ」
「・・はい。俺、頑張ります・・先生・・あの・・」
「なに?」
「この子(白雪)をどうしたらいいでしょうか・・」
「なるほど。そうね。大丈夫。私に任せて」
貝貝先生までもが来ていたことで、ホテルチョイスや
費用などがMaiに負担が無い事なども
判ったのだが・・
あの地獄の時間が過ぎ、先生の部屋に白雪が寝る
ことになり、配慮なのか?変わらず独りの夜が
嫌だったのかは別にして先生はそれを楽しんでいた。
3夜を予定したシドニーの間、ヒンはMaiのオヤジさん
の家へ行き、順子さんと先生、
それに白雪の3人はそのほとんどをショッピングや
観光に出掛けて、
俺はホテルとその周辺で独りの時間を過ごしていた。
そんな時に例のハーバービューラウンジから聞こえて
来た日本語に引き寄せられて覗いてみると、
大きなワイン樽が幾つも並び、大勢の人たちで
賑わっていた。
「日本の方ですか?」
Cellar Doorと書かれた旗の下で聞きなれた関西弁を
話すラフではあったが、
どこか気品を纏う男性に声を掛けた。
「そうですー!あなたも日本からですかぁー?」
「はい。神戸から来ました。ここは今、
何をしているのですか?」
「おお!神戸ですかぁー!私たちも神戸なんですよ!」
「ええ!そうなんですね!こんなところで神戸の方と
会えるなんて思ってなかったです!」
「ここに泊まっとんですかぁー?」
<おお!まさに神戸弁!>
「はい。昨日キャンベラから来ました。3泊の予定です」
「へーお若いのに大したモンですなぁ!よかったら
ワイン飲んでくださいなー」
「このワインを・・えと、セラードア?って言うのですか、
主催しているんですか?」
「そうですねん。うちらのパートナーがハンタバレーの
老舗のお城でしてなぁ、
うちはワインがメインの貿易屋ですねん。
今夜は遅うまでやってますんでゆっくり飲んで喰う
てしてくださいなぁー。
この名刺渡しときますから、これ見せたら自由にで
きますからぁー」
ポイント商会という名刺には椿原光一と書かれてあった。




