第25話 爛漫
順子さんが中心となったオーストラリア行の
打合せを終え、AKC社との協議には早かった
が3日前にブリスベンを経て
キャンベラへ着いた。
そのままチェックインした大きな鉄格子の
門が開きアールデコという造の
Hotel Kurrajong
は、今までの旅で最高の部屋だった。
「順子さん流石っすね!このホテル。
前に来たことがあるのですか?」
「ううん、お友達が良かったって
勧めてくれたのよー」
「なんか木が多くていいっすね!
もっとビルがいっぱいなイメージ
だったんですけど・・首都って・・」
「そうね。私はメルボルンとシドニーしか
知らないのよ。意外といいわよね!」
「あとどないするん?なんも無かったら
わしチョット電話してくるわぁー」
「夕食まで何も考えてないわよー」
「OKほなまた後でぇー」
「ヒン、どこに電話すんのよ?」
「マイやぁー 毎日せな怒りよるねん
ハハハぁ」
<そゆことか!>
「OKじゃあとでなー」
「マイ? 女の子なの?彼女?」
「いや・・はい。彼女何でしょうね多分。
ロシアのホビスさんのとこで知り合ってぇ」
「あーら!そうだったのぉー!へぇー」
「ベトナム人なんですよ。モスクワ大学の学生で」
「そうなのねぇーそれで?ソンくんは?」
<あちゃっ・・>
「え・・な・・何がですか・・」
「なに慌ててるのぉ?向こうでお友達は
出来なかったのぉって聞いてるのぉ」
<・・・・>
「あ・・はい・・それはあれです・・
友達というか・・その・・」
「はいはい。バレバレぇー クスクスっ」
「いえー・・違いますよぉー・・その・・」
「ポイポイ(貝貝)には逢ったぁ?」
<心臓炸裂中・・>
「いえ・・あ・・はい。ホビスさんの
娘さんでお綺麗でお嬢様で・・
その・・」
<ぁぁあ・・何言ってんだ俺・・>
「おキレイでおジョウさまで?それからぁ?」
「いえ・・だからその・・」
「馬鹿ねぇーポイポイの事はあなたより
知ってるわよぉー クスクスっ」
<・・だよな・・>
「あ・・はい・・」
「好きになったのねぇー?わかるわー。
いい子よぉー」
「・・いえ・・そんなんじゃなくて・・
その・・」
「何も無かったって事はなさそうねぇー
クスクス」
「あ・・いえ・・マジで何にも無いっすーー
マジっすーー」
「あらそうぉ?じゃ電話してみるかぁー
クスクス」
<・・いやだめぇーーーやめてぇーー>
「いや・・そんなことしなくても・・
マジ何も・・なく・・」
「クスクス 何があってもいいのよぉ
いい子なんだしねぇ」
<・・いや・・それもそんなんじゃ無く・・>
「貝貝さん・・その・・凄くて・・
凄いんです・・」
「すごくて凄いぃ?あそぅ」
<あちゃ・・>
「いえその・・何と言うかその・・
師弟なんです俺たち。そう!
先生なんです貝貝さんは俺の!」
「なによそれぇー?ポイポイが何の
先生なのよぉー?何が凄い先生なのよぉー?
イヤらしいわねぇー もぉー」
<はぁ?・・えええー?・・
いやいやそうじゃなくって・・>
「いや・・そんな・・そんな意味の
先生じゃなくって・・色々有ったんです。
それがすごく濃くて・・その・・」
「へぇー、いろいろ濃いことがあったのぅー
ほんとイヤらしいわぁーもぅー」
<だから・・そじゃなくて・・>
「いや・・聞いてくださいよ・・
貝貝さんは凄くて・・あ いや・・
その・・
俺の事とか・・先先と判るんです。
何て言うかその・・先手先手で
読み抜くって言うか・・
こうすればあーなる とか・・その・・
俺が目指してる人間像なんです。
貝貝さんは・・」
「ん?へぇー。なんだか日本に居た時の
ポイポイとイメージが違うわー。
あっ!? そうねぇーそうかも!・・」
腕組みの右手にあごを乗せ
考え込む順子さん。
<かわぃいーー>
「日本に居た時ってどんな感じ
だったんですか?貝貝さん」
「カナダの大学を辞めて来たのよ。でねぇ、
初めて覚えた日本語が『私は馬鹿です』
よぉーなのぉ。
クスクスっ」
「はぁ・・なんすかそれ・・?」
「それを伝えたいからって言うのよ。
だから私が教えたのよー クスクス・・
でねぇ、何故そんな事を人に言いたい
のかって事だけど、
初めはカナダでの失敗を恥ずかしがって
の事って言ってたのよ。
でもね違うわぁ。そうよ・・」
「なん何んですか?」
「その時にも思ってたんだけど忘れてたわぁー。
『私は馬鹿です』って言った後の相手の反応を
鋭く観察していたわ。うん。そうそう。
そのあとねぇ、ロンシーのバイト仲間には
『私は貧乏だからここで働いています』
ってぇー クスクス・・」
<・・貧乏って・・笑い・・?ロンシー?>
「ロンシー?」
「ロンシーよ!? あれ知らない? ポイポイは
お父様のお店で働いてたのよぉー」
「あー! ステーキハウスですよね?」
「そうそう。そっか。お店の名前を
知らないんだねぇー・・
そっかそっかぁ。龍子ってね。
お父様の育てのお母様のお名前なのよぉー。
それこそ凄い人だったそうよー」
<松田さんのおふくろさん?育ての?・・>
「そうよ!いつもねぇ、ポイポイったらそうよー。
日本語が解る様になってからもオトボケなのよ。
でもそう!お店のお客様にはご指名が掛かる
くらい接客上手だったわぁー。
多分気が利いてたのよぉ。そう。気配りって
誰にでも出来る事じゃないわぁ。
相手が望むことをしていたのよぉー。
ご指名よぉークスクス・・
ただのホールスタッフだって言うのにねぇー
クスクスっ・・・・」
色々と想い出しながら貝貝さんの話を続ける
順子さんに笑顔が絶えなく、その仕草に
見とれながらも松田さんの育った環境が
気になっていた。知りたかった。
「順子さん、松田さんのお母様ってそんなに
凄い方だったんですか?りゅうこ(龍子)って
凄くないですかっ!? 女の名前で」
<話し割ってごめんなさぃ・・>
「ううん・・龍子お母様はお父様が若い
ころに知り合ったそうでぇ・・
実のお母様やお父様のお話は余り知らないのよ・・
聞いたことはあるんだけどね、とっくに
死んでしまったとしか言うわないのよぉ・・」
「松田さんは神戸で産まれたのですよね?ほら、
ヒンのオヤジさんとかと幼馴染って聞きました」
「たぶん・・そう・・だからそう言うことを
お話しするのが嫌みたいなのよ・・
だから聞かないのよ・・」
「やっぱ不思議な人っすね。あちこちでの
武勇伝は色々聞いてますけど・・
ほら、言葉なんかも俺らと同じで、
関西弁じゃ無いですし」
「ソンくんから伺ってみれば今度ゆっくり」
「そうっすね。やっぱ色々知りたいですし。
聞いてみますよ俺」
「うん・・わたしにも教えてねぇー。
ねえねぇーお外に散歩に出なぃ?」
「あ・・はい!」
順子さんと2人で散歩というデート気分で
背筋が伸びた瞬間・・
ドドドォー・・
「じゅんこはぁーん!こっちの予定教えてぇー」
まだ30mは向こうからのヒン・・
「なんの予定なのぉ?」
「マイが来るぅー言うとんねぇーん!
あいつんとこオトン(親父さん)が
シドニーに居るねん。
ビザとかも要らんらしいねん!」
<そゆこと・・>
「シドニー!いいわねぇー!
じゃ私達もここが終わったらシドニーに
行こうよぉー!
そうねぇ、5日後でどう?」
「いや・・そう言うのって松田さんに
聞いた方がいいんじゃないっすかぁ?」
「大丈夫よぉー だってお父様はゆっくり
して来いって言ってたし。そうね。
じゃ連絡して来るわぁー」
「よぉーし!んならマイ呼ぶでぇー」
「うん。呼んであげなさいよぉー。
私もお逢いしたいわぁー」
ドドドォー・・
なんだか可笑しな旅になって来たが、ヒンが
Maiに相当入れ込んでいるのが判ったし応援
もしたいしと、順子さんとの散歩デートの
お預けにも仕方なしと、順子さんとヒンを
待った。
先に戻ったヒンが急に、
「おまえぇ順子はんのこと
好きなんちゃうかぁー?」
「え・・なんでだよ・・」
「ええんちゃうかぁー ベッピンさんやし
料理も上手いしぃー ハハハハハあぁー」
<ばれてるわ・・>
「うん・・順子さんが好きとか嫌い
じゃなくってさぁ・・
あぁゆう奥さんがいいなぁーってさ・・
俺さ・・」
「ええやんけ!順子はんと
結婚せんかぁーぃ!」
<・・単純がすぎるだろぉ・・>
「・・そゆわけにいかねぇだろぉ・・」
廊下の向こうから腕で大きな〇をしながら
歩く順子さん。
<やっぱかわいぃぃ・・>
AKCとの協議会迄の3日間を観光ツアーに参加したり、
バリーグリフィン湖を周るディナークルーズで
食事をしたりとオーストラリアの首都を満喫した。
俺の順子さんの英会話力には感心したがその他は
いつも通りの順子さんで、
普段のあの思考に仕草や態度や人との接し方にも
飾りが無いことが判った。
そして協議会の前の夕食後、
「ソンくぅん、1時間ほどしたら資料を
綴じるの手伝ってぇー」
「もちろんです。まだ出来上がって
無かったんですね?」
「添削したのよ。英文のチェックも完璧
じゃなかったしねぇ。私のお部屋に来てねぇー」
「あ・・はい。じゃ1時間後に行きます」
特別な感情はその時は無かったのだが、順子さん
の言葉に今まで気付かなかった色気を感じた。
「おじゃましまーす」
<わっ!・・>
バスローブ姿でソファーテーブルからデスクに
ベットまで散りばった資料を
仕分けしている順子さん・・
<やべ・・>
「あの・・もうシャワーを・・」
「うん。普通でしょうぉー。だって
汗かいたんだものぉー。ソン君
シャワーしてないのぉ?」
「あ・・はい・・まだ・・」
「やだぁー汗臭くなぁいー?
浴びておいでよぉー。私やっとくからー。
ここのお風呂使ってもいいよー」
「いいいやー・・俺大丈夫っす。
終わってから浴びますんで」
「あらー。後で少し吞もうよぉー。
だからゆっくりお風呂に入っておいでよぉー」
「あ・・はい。じゃぁ・・入ってきます・・」
<・・・・>
部屋に戻り湯船に湯を張り掛けたがシャワーで
済ませて気合のパンツに替えた。
「ただいまー」
「あら早かったわねぇー」
それでも2-30分は経っていたと思う。
散りばった資料も半分くらいが綴じられていた。
英文の苦手な俺には何が書かれてあるかは
理解できなかったが、はじから順番に
とじる作業は難しくなかった。
手際よくワインのコルクを抜く順子さんに
勧められるままに地元オーストラリア産という
赤いワインを飲んだ。
「ねぇソンくぅん・・私の事どう思うぅ?」
<!!!!>
「・・えっと・・どうって・・その・・
どういうふうにその・・」
「女としてよぉ。お父様の子でも無くって
家族の一員としてでも無くってぇ。どう?
もうおばさん?」
「ああーいえいえー・・そんな事ないっす!
素敵です。綺麗です。かわいいです。
それに・・その・・」
「まぁー!ほんと?それで?そのは何ぃ?」
「いえ・・その・・」
<腹決めろーーー俺!・・>
「好きですし・・順子さんの様なお嫁さんが
居たらいいなって・・その・・あれっす。
フォーを作ってくれたじゃないですかー!
あの時に・・その・・」
「あぁフォーねぇー・・あの時に何ぃ?」
「いや・・あの時に・・あの時から好きです俺・・
順子さんの事。でも俺なんか・・その・・」
「ありがとうぅ。ううん。俺なんかじゃないわ。
私もソンくんが好きなの。私ね、
お父様の家に居るから男に人を知らないの・・
昔から恐い男の人ばかり見て来て、ソンくん
みたいな人に・・
ソンくんみたいな優しい人が理想よ」
<!!!!>
「・・嬉しいっす・・でも俺なんか・・」
「私もう30よぉー・・そろそろお嫁に行け
無くなるんじゃないかしらって思うのぉ・・」
<あっやっぱ30だ!>
「いえいえー。順子さんならどこにでも
いつでも行けますよ」
「うんん・・疲れちゃうのよねぇ・・
相手を知るのも、私を理解してもらうのも・・」
「・・そんなモンなんですか?」
「うん・・ソンくぅんどう?やっぱり年上の
私はダメぇ?十歳も違うもんね・・」
「いえ!ぜんぜん関係ないっす!順子さんなら
10だろうが20だろうが歳なんて関係ないっす」
「ほんとぅ?」
「マジっす!本当です!」
「ねぇーソンくぅーん・・抱いて・・」
<○▼※△☆▲※◎★●・・・・!?>




