第24話 栄枯盛衰
痛快なひと時をヒーロー気分で過ごしたところから、奈落の底へ落された様な後味の悪い澳門
(マカオ)を後にする際には、陳さんが念の為の用心にと、港澳嗎頭(香港島の埠頭)まで
ヘリを手配してくれた。
海上の高速船が亀の様にぶっ飛ぶヘリコプターに乗るのが初めてだった俺は
、ケツがムズムズしながらもその優越感を味わった。
入管を過ぎるとテイさんが待って居てくれた。
「ハハハハハあぁ ハハハハハあ 大変なことをしましたねぇー」
今回ご家族は見えなく、代わりに3人の目つきの悪い護衛を従え、
2台の車で一直線で空港へ向かった。
車中テイさんは、『見えない聞こえない』も時には必要だ。
といい、優二(松田)さんでも触れない世の中に存在する大きなの闇を改めて説いたが、
俺も多分ヒンも腑に落ちなかった。
「ただいまー」
武山さんの運転でクワンジャニムとヒンを黄家に降ろし、俺は一人で松田家へ帰った。
「おかえりなさい。あらソン君一人?」
早すぎた帰国にも何も変わらない順子さんの笑顔に、どこかに残っていた嫌な気分が吹っ飛んだ。
「はい。ヒンは自分の家で降りました」
「そう・・夕食余っちゃうわね。まいっか!来週のキャンベラは私も行くのよー」
「はぁぃ?キャンベラ?ですか?どこですかそれ?」
「オーストラリアよーえぇー知らないの?わたしねー英語は得意なのよー。お父様が行っていいって!」
<ああ首都だ!・・>
「は はい・・えっと・・順子さん・・旅行ですかぁ?」
「何言ってるのー あなた達と一緒に行くのー」
「はぁーー?来週ですかぁー?聞いてませんよー・・」
「あらそうなの?」
<どゆこと???>
その夜、松田さんがいつもの様に丁寧に話をしてくれたキャンベラ行きの訳。
ヴェトナムでのインシュリン事業にあたり、オーストラリア企業AKCが投資をする現地Bach Mai病院との合弁会社に、オーストラリア側として参加することが目的だという。
「松田さん、なぜオーストラリア側に参加なのです?ベトナムの事業ならベトナムに直接・・その・・」
「理由は5つだ」
と、松田さんが言うには、
最初にAKCとの強いコネクションからだと。
2つ目に、AKCが長年掛けて現地と折衝したリスクの少ない相乗りで、ベトナム唯一となる国際病院だからだと。
3つ目に、AKCはファンドマネーの運営に過ぎず、病院運営には興味が無く我々が動きやすいこと。
4つ目に、出口戦略が困難なベトナムにあり、すでに売却先という出口を持つ事業であること。
最後に、ヴェトナムという国で我々が直接投資などは考えられない。と・・
「コネクションとはAKCに知り合いがいるという事ですね?」
俺はメモを見ながら順にそれを細分化するために聞いた。
「AKC自体にはコネはねえんだ。あそこの金はイギリスから100%流れててな、
まあファンドの大元の金主だ。おう、ホビスもそこに大金を入れてるんだぜ」
「!ホビスさんもですかー!」
<なるほど!>
「ナイトって奴がいてな。今回のキャンベラには居ねぇが、また何処かで会うだろうよ」
「そのナイトさんが今回のコネってことですね?」
「ナイトも香港人よ。まあイギリス人でもあるが、ナイトもホビスと同じであだ名だな。
覽Lamが名前よ」
「あと・・俺・・知らないことが多すぎて・・すみません・・」
「何がよ。世の中、知らない事だらけよ。知ったつもりも知っちゃいねぇ。いつも勉強よ。聞けばいい」
「はい・・じゃ・・そのAKCは長い間と・・その、折衝ってそんなに大変なのでしょうか?」
「ドイモイは解るよなお前さんは?」
「はい。オうちのヤジなんかもドイモイ以降はベトナムからのオファーが急に増えたと」
「北と南が1つになって崩れた需要と供給のバランスを民間に頼った政策よ。但しだ、
北の意向がそのまま反映されたマーケット内でのことだがな。
まだまだあの国は人が治める国よ。法治国家なんぞ程遠い人治の国よ」
「・・はい・・
確かに何をするにも共産党員の顔色を窺がわなければ何も出来ないってオヤジも言ってます・・」
「お前さん達にヴェトナムを語るにはこっ恥ずかしいが、
増えてきたあの国への投資話には乗るな!っのが、俺たちの合言葉よ。
気を悪くすんじゃねぇぞ。
俺たちじゃあの国の連中には勝てねえって事だからよ」
「いえ。わかります。理解できます。
だからAKCに乗るのですね。相当な努力の賜物のAKCに!」
「そうだ。ヴェトナムはこれからどんどん良くなる。そこで俺たちがその時に出来ることをする」
「はい!これで5つ目もノートが完成しました!」
「まあ足りねぇ所は徐々に埋めなよ」
<そっか・・もうちょぃ隙間を空けてりゃよかった・・>
「あと2ついいですか?」
「病院運営のことか?」
「はい。そうです。うちらが運営するのですか?」
「いや違う。俺らはあくまでリスプロをヴェトナムに持ち込むことが目的だ。
AKCが病院の運営に興味がないって言ったのは、国際病院となる場で自由にそこに集まる医者や
医薬関係者と接する機会があるという事よ」
「それってマカオと同じ様な働きかけでは無く・・
そんぽ一歩手前の段階って考えればいいのでしょうか?」
「一歩前か二歩前かは別にして、そう考えればいい。
あっちでマカオの様に会社を立ち上げるのもまだ早い。
ヴェトナムではまだまだ準備期間だ。ただし、メモにしっかりと書いておけよ。
おそらくヴェトナムが俺らの最大の聖域になる成る。とな」
松田さんのこの言葉が深すぎて、そのこと自体も聞き出せず、出口戦略のこともメモに残せなかった。
<・・聖域か・・松田ファミリーがベトナムを重視ってあんでよ・・
オヤジや黄さんと兄弟になったから?・・いや俺もヒンも・・
俺は両親ともがベトナム人だから間違い無く俺もベトナム人なのだろう・・
耳にする事があって、ベトナムを知っているつもりだが実は何も知らない・・
そもそも俺は本当にベトナム人なんだろうか・・いや、まぁともかく・・
松田さんが聖域になると言う意味は何だったんだろう・・
ベトナムって・・
人口8000万人、国土は南北へ日本を縦にした様で8割程の面積で・・気候はまったく違う・・
似てるちゃ似てるか・・日本をこじんまりとした感じか?・・
日本と比べりゃみんな貧乏で給料も安い・・でもみんな元気だわな・・
うん。そうか!人かな?やっぱり・・
俺くらいの歳がわんさか居て、年寄りはあの戦争で死んじまって・・ん?だから何?・・
わかんねぇや・・やっぱ・・
あそこで暮らしてみたら俺の血が沸る事があるのかな・・>
オーストラリア行きの細かな打合せは明日にヒンが帰ってからと、
部屋に入ってノートを前にそんな事を考えていた。
その夜はマカオの整理をメモと共にし終えたが寝付けなかった。
頭の中ではベトナムx聖域を繋げようと火が噴き出しそうだったし、朝は早起きして庭の水撒きなどなどを考えると寝なくっちゃいけないと言う焦り何かも交差しつつ。
結局一睡もせずに未だ薄暗い庭に出てはき掃除をしたいた。
ドドドドォー
<イノシシ!?>
「おおお!ビックリしたぁーー 何しとんねん!?」
「ひぇぇぇー・・ヒン・・かよ・・」
<冷汗ったぁ・・>
「ひゃぁーや あらへんやろ〜 泥棒かぁ思ったわー。もうちょっとで殴るとこやでぇー」
「・・いや・・猪かとビビったよ・・」
「アホか こんな男前なイノシシがどこにおるんじゃぃ ハハハハハぁー」
「・・・・みぇねぇし・・」
朝ランついでに走って帰ってきたヒンにコーヒーを点ててやり、
オーストラリア行きの事と昨夜の松田さんの話しから眠れなかった事などを話した。
「まぁあれやなぁ わい(俺)なんかは、中華同文学校出て周りには中国人ゆわれるけんど、
台湾人のオカンとベトナム人のオトンの子やしぃ、実際、神戸で生まれ育った神戸っ子やし、
今やで、もし今な、
台湾やベトナム行ってそこの奴らと考え方やら感じ方が一緒な訳あらへんでー・・・・」
朝の早くからあのヒンが真顔で長々と語りはじめたのは、やはり環境的な、
俺たち在日外国人は一体なに者でなに人なのか?という所だった。
「なのよ。だからもしさ、松田さんが俺が・・あ ごめん 俺たちがさ、
ベトナム人だからベトナムで聖域を求めてたら違うんじゃ無いかっとかさ・・
俺ら普通に日本人じゃん そゆとこさ・・」
「いこやー 一回。落ち着いたら何年か住んでみよやーベトナムでもええし台湾でもアメリカでもぉー」
「だな」
順子さんが座るこの椅子の座り心地が悪いはずも無く、
でも ケツがウズウズと居ても立っても居られない感が・・
この時から俺は初めて、
ベトナムに普通にベトナム人として住んで暮らしてみたいと強く思う様になった。




