第23話 沈黙交易
ふと周りを見渡すと、あの群衆より多いポリスと救急隊員が来ていた。
子供たちには一人一人に救急隊員が付き、あのベトナム語を話す女性とその他多くの人が警察と話をしていた。クワンジャニムは拒否したが、救急隊はヒンの応急手当もしてくれた。
そして、警察が俺たちにも事情を聴きたいと車に乗る様に言われたが、飯屋に金も払っていない事とまだ飯の途中だった事を話すと、その飯屋で話を聞きく。となり、ポリス2人と共に拍手と歓声の中、海鮮店に戻った。テーブルの上はそのままだったが、店員さんは作り直すから待てと、すべての料理とビールまでも新しいものに取り替えてくれた。
俺は両方が半端だったので、ポルトガル語と広東語でクワンジャニムとヒンが対応した。
1時間以上ポリスと話をしたが、その間も注目のこの海鮮店の前には人だかりが絶えなかった。
そろそろ帰ろうと乾杯して、席を立とうとした時、さっきの船の前に俺たちを立たせたカメラマン男性と、同じ腕章をした女性が警察と入れ替わりで入ってきて、
「日本人ですねぇー?」
と、日本語で話しかける女性。
「そやでぇー なんや?どうしたん?」
今まで広東語でポリスを相手にしていたヒンが今日はおしゃべりで続ける。
「あーーあんたらぁーテレビの人かぁー?」
「いえ。私たちは新聞社の者で・・」
と、ネームカードを俺らに渡した。それには、
明報(Ming Pao)澳門局 副总编辑 Maria E.Linとあり、
「リンさん?マリアさん?どう呼べばいいですか?日本語で大丈夫?」
「マリアと呼んでください。日本語が話せます。お疲れのところ恐縮ですが、もう少しお話しするお時間を頂けませんでしょうか?」
「ええでぇー ほなモッかい(もう一度)乾杯しょーやぁー 再来5瓶青島啤酒ぅー!」
マリアさんたちの分まで来たチンタオビールに嫌とも言わず、
「お久しぶりに青島を飲みました。美味しぃー」
と、一気にグラスを飲み干した。
「そやろー 日本のビールとちごて(違う・・)、なんぼでも飲めるわぁー」
<・・だからー・・そゆことじゃなくて・・>
「で?どの様なお話ですか?」
「ああーはい。今回の人身売買は私たちが何年も追っている事案の一つです。想像ですが、今日の様な現場は有っても私たちには情報が届きません。15人の子供たちが見つかり、13人の犯人が捕まった現場は今日が初めてです。この事をしっかりとした記事にしたいのです」
「人身売買いうぅてなんやー? 売られたんかぁー あの子らぁー?」
「いえ経緯はまだ分りません。私たちの調べでは、売り手と買い手の組織同士の取引があることは判っています。でも・・あの子たちが・・売り手の組織が・・どのようにしてあの子供たちを手にしたかは複雑なのです・・」
「親かぁーー!親が売ったんかぁー?」
「・・はい。それもあります・・でも大多数は何者かが様々な手段で子供たちを盗んで、小さな組織から大きな組織へ渡ります」
「こどもを盗人するってなんやぁー!どいつもこいつも死刑じゃぁー こらぁー」
<つよく同意だ!>
「ブラジルもよーさん(沢山)あるんや。ポリーシャ(警察)とかも信用でけへんでぇー 特にドゥトィ(医者)が悪いのが多いねん。ドゥトィは子供の身体の情報を売りよるねん」
<んごい話になって来た・・>
「ブラジリアンですか?あなた?」
「ブラジルの事をよぉー知っとう日本人やぁー」
<なぜ嘘つくのそこ・・てか見た目もちがうしぃ・・>
「では皆さん日本人なのですね。私たちの情報には日本にも大きな人身売買シンジケートがあります。子供や臓器を目的にした5つのカルテットが、一つのシンジケートに組織されたと聞いています」
「日本もかぁーぃ?」
「はい。間違いありません。日本は私が担当していますので情報は確かです」
「誰やぁー ワイがイてコマしたるぅー(やっつけてやる・・)」
「簡単な事ではありません。全てにおいて力のある組織です。そのバックには世界の巨大な権力が存在します」
<やべぇ・・よな・・>
その後も、この店から現場へ走った詳細から連中の話しや、俺たちのマカオでの目的や行動などを聞かれて答えた。絆薬品についても多く話したが、観光に来た日本人と、記事にするという事で了承した。
日本に帰ったらまずは身近のところからそれらを周知して、マリアさんとも情報交換をしながら、俺らができることは協力するということで、この話は終え、今回の救出劇を明日の紙面に記事に載せるという事も承諾をして別れた。
【三個日本人非常活躍!】
3人の日本人が大活躍!
と、俺たちの写真が大きく載った新聞が澳門でも配られていた。俺は役に立たなかったのだが・・
「你們很強啊!真帥啊!請在這裡簽名!(みんな凄いね!カッコいいわ!ここにサインしてー)」
と、海湾餐庁の飯の時はシーシー(詩詩)にも、金龍のホテルのフロントにも、その常連にも、その後しばらくはスター扱いされた。
マリアさんからもこの後を気を付ける様にと言われていたが、問題があるが先ずは報復に備えろと松田さんからの指示もあり、帰国を伸ばしたクワンジャニムも含めて、セキュリティーが行届いたサービスアパートメントに宿を移した。
布団もベッドもテレビも、お皿から箸まで揃っていて、他に何も要らない。
3ベッドルームの一室は陳さん、もう一室にクワンジャニム、俺とヒンは同じ部屋に入っが、サービスルームと言うハウスキーパーさん用の3畳位の部屋がある事が判り、俺はそこで寝た。
「少しミーティングをしましょう」
ドモら無い陳さんの号令でリビングに集まった。
「明日からの予定の病院回りやドクターとの会食には私独りで行います」
「えぇーーめし会もかぁー?」
<そこ?>
「はい。念の為、行政機関への書類提出やその関係者との会食もやめておきましょう」
「何でやのぉん?陳はん1人でしんどい(疲れる)やろぉー?」
「大丈夫です」
「陳さん、じゃ俺たち何をすれば?もう・・」
「はい。今から松田さんに電話しますね」
このミーティングはずっとドモらない陳さん、つまり今のピクチャーは既に動画化されているのだ・・
<松田さんとは重々打合せ済みってことか・・>
トゥルルートゥルルー・・スピーカーから呼び出しが聞こえる。
「おうチェンみんな居るか?」
「はーい松田さん、聞こえてまーす」
「チェンから聞いたと思うが、今回のマカオでのお前さん達の仕事は終わりだ。外に出回らず明日にでも帰っておいで」
「明日ですか・・あ・・はい・・」
「もう終わりぃー言うてホンマにもうええんですかぁー?」
多分、ヒンのそれと俺のショックは違っていたと思うが・・
「そうだな。心配するなー。皆が要らないって事じゃねえんだ。電話じゃなんだからよ、おいチェン、もう少ししっかり話してやんなよーみんなに」
「ははは・・はい。いいい・・今から、せせせ 説明します」
松田さんの急な振りにはお決まりのドモリだったが、電話の後、
「それでは詳しく説明します。先ず初めに、今回の皆さまの児童救出は素晴らしい行動で、私も松田さんもリスペクトしています。しかしながら問題も発生しました。第一に、あの様な連中は必ず大きな組織の傘下です。それは、あなた達の顔写真が広がった事であなた達に危険が生じると言う事です」
「ほんなモン大丈夫やでぇー ハハハハハぁ」
「ヒン、まぁ陳さんの話を最後まで聞こうよ・・な・・」
「ほーぃ すんまへん」
「ヒン君、あの様な連中を使う組織を侮ってはいけません。それは松田さんからの注告です」
「ほーぃ わかりますたぁー」
「では第二に、その見えない組織に関係します。絆薬品(会社)は、病院を含む医療機関が営業相手です。そしてその許認可のを出す政府行政機関も大事にしなければなりません。警察も然りです」
ドモリも無く丁寧に話してくれる陳さんの言葉に、マリアさんとクワンジャニムの会話がダブってきた。
「陳さんそれって、その病院や行政がその組織と繋がりがあると言う事ですか?」
「はい。まず間違いないでしょう。確率は99%」
「ほやでほやでぇー(そうだそうだ)、ブラジルとおんなじやぁー」
<いや・・病院に政府・・警察までそんな事マジかよ?・・>
「よぉーわからんわぁー 何でそんなとこ(病院など)が子供をサラう連中と組んどるんじゃー」
「Businessです。大きなマネーが動くビジネスだからです。人の身体は全ての部位がお金に変わります」
「解ってるんでしょうか?その・・病院とか・・人身売買だって・・あと、警官とかも」
「いい質問です。それは93%が知りません。只々、乳児の血液型と健康状態をlinkするだけで30USD位の報酬が入る。行政で役割ごとに働く人も同じです。警察官は例えば行方不明者の捜査から現場での取引まで自分たちの匙加減で報酬を得たりもしています。しかしそれは、その先に人の運命や生命が関わることだとは考えもしていないのです。つまりトカゲの尻尾たちです。それが93%です」
「クソぼけどもがぁー あとの7パーセントはなんなん(なに)?」
「ななな・・南南?とはどどど・・どういう意味ですか?」
<あちゃ・・>
「残りの7%は解ってやっているのですね!?」
「いえ。尻尾に指示をする人たちです。もちろん、その中には薄々は理解している人も存在するかも知れませんが、その上役もまた、組織からすれば尻尾に過ぎません。それほど巧妙で巨大な組織が存在するのです」
その後も人の部位がどのような使われ方をして、子供たちがどの様に扱われるかなど、陳さんの話は遅くまで続いた。
吐き気のする話だった・・




