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EQ @バランサー  作者: 院田一平
第1章
18/71

第18話 帰来新生

挿絵(By みてみん)




ドモジェドヴォ空港を出てフランクフルトでの

トランスファーで、日本便の3時間遅れと搭乗前の

ヒンがトイレから出て来ない事件はあったが、

1995年3月20日18:10pm成田に降りた。


松田さんへ無事の電話を入れ、急な出発で寄れなかった

我が家の団地へヒンと共に帰り着くと、

ニュクマムの香りが漂っていた。


「んん?なんやこの匂い~ えぐぃ(キツイ)のぉー」

<お前もベトナムの血引いてんだろうぉー・・>


「これがうちの匂いよ」


「あーヌクマムかぁー ハハハハハあ」


と、ヒンの笑い声が届いたのだろう階段の上から

おふくろの声、


「おかえりぃー!」


涙までは出なかったが安心感とこっぱずかしさ

で尻がムズムズした。


「ただいま。 ヒンだよ」


「あらーよく来てくれたわねぇー 

さっ中でご飯食べてー」


「おじゃましますぅー」


中ではもうおやじが真っ赤な顔をしていて、

赤石さんから送られたあくまきに黄な粉と、

よもぎ餅に薩摩芋水飴という変な肴で

ネップモイを口にしていた。


「お疲れさま! おっヒンくん! 

飲もうよ」


酒の肴のせいもあり、赤石さんの話しから

始まった報告会のような晩飯は長かったが、

風呂に入って寝たのは12時になって無かった。

我が家にはヒンの為の部屋はなく、

俺のベッドにヒンを寝かせ俺は下に寝たが

心地よく寝れた。


一回も目覚めず起きた朝には直ぐに新幹線に乗り

、未だ復旧しない大阪⇔神戸間を代替えバスで

逆戻りして御影駅で降りた。


<ん?・・順子さん!?>

それは間違いなく順子さんだった。


「たっだいまぁ~!」


<あぁあーー先に言いやがったぁーー・・>


「ただいま。迎えに来てくれたのですか?」


「そうよ。おかえりなさい」


<・・時間・・なんでわかんの??>


新横浜からの新幹線の時間は伝えていたが、

当時(震災直後)は代替えバスは頻繁に運行

されてはいたが、行列の人々でどのバスに

乗れるかは定かでは無かった。つまり、

相当な時間を待って居てくれたのか、

時間を読み切ったか・・


帰りの飛行機の中でも新幹線の中もふとした

時には順子さんを想い、その度にホビス家での

(やま)しさと葛藤して、まともに顔を見れるか?

とか何を話そうとかを考えていたが・・

それはあくまで松田家の玄関先での想定で、

ここに居る意外な出来事でぶっ飛んでいた。


「なんで?この時間にここに着くこと・・

いや・・いつ来られたんですか?」


「今さっきですよ。そんな事に驚いてるの?」


「いや・・だって時刻表なんか当てに

ならないじゃないですか・・」


「とにかく早く乗って」


「そんなもん順子さんが来てくれはったらあの坂

 歩いて登らんでもええんやし 

ええやんけぇ~ ハハハハハあ」


<・・そゆ問題じゃないっしょ・・>


確かに歩くと速足でも20分は掛かる登りも

5分後にはMatsudaの門を跨いだ。


玄関に入ると松田さんが迎えてくれた!


「おかえり。一緒に昼を食べよう」


気が付くと背筋が痛いくらいの直立の俺、

ヒンも松田さんの前では小さく映る。


「飯ですかぁーー はーい!」

<・・小さくない・・>


ダイニングに腰かけるとすぐに料理が並ぶ。


「あの順子さん、やっぱり時間読んでたんですね」


「え?何がー」


「駅に着く時間です」


「あぁそれくらい調べれるわよー。

ソン君そこに拘るねぇ」


「はい。新幹線はともかくバスは分からないはずと。

それにお料理の準備もされてますし。

どうやってバスの時間調べれるのかと感心します」


「何度も電話してたよ。あれはバス乗り場だろ。

なあ 順子?」


「はい。込み具わいを訊きながら・・

3回目からは声を変えて聞いてましたぁ 

クスクスっ」


<クスクスなんだ!かわいぃ~>


「すみません。色々ありがとうございます」


「お礼なんていいから早く召し上がってぇ」


契約書の控えを渡し、報告をするまでもなく

全てを掌握している様子の松田さんは、

それでも俺たちの話を最後まで聞いてくれた。

まだ聞きたいことが山ほどあったが、

お出かけになると言うのでお預けとなった。


明日は何もなく明後日の8時にここに集合だと言い、

今月の報酬は前払いだと渡された封筒を

受け取り久しぶりの部屋に入った。


「ソーン!」


隣の部屋から聞こえるヒン。

バシャ ドドドォー


「なんぼはいっとったぁー」


「なにがよ?」


「封筒やぁー」


<そいえば・・>


「まだ見て無いよ まってぇ」


詰め込んだ背嚢(リュック)からそれを

取り出し封を切った。


<ん?おおくね!!>


「えっとぉ1234・・50!」


「いっしょやなぁー。わし一回

 家 帰るわぁー」


ドドドォー・・



このお金が毎月もらえるのか?んな訳ないよな。

中村さんの倍以上だし。

でも、それでなくても居候なのに・・

部屋代とかめし代とか払った方がいいのか?

いや、ロシアまで行ったら?それにすぐに

澳門マカオだから?・・聞けばよかった・・

いや、そんな間が無かっし・・


そっか!順子さんに聞こう!

と、訊ねたが、知らないから松田さんに聞けと・・

結局、親父に電話を入れて、

何があるか分からないから、

自分でしっかり管理しろと。

とりあえずキープとした。



その日は順子さんも泊りで友人と過ごすと

言い残して出て行き、ヒンも帰らなかった。

腹が減ったので順子さんが言ってた様にメモを

見ながら魚を焼き、みそ汁を火に掛けながら

野菜を炒めて食った。


リビングでテレビを見てると、キッチンから

チャイムが聞こえた。

松田さんが帰って来たはず。


鞄を持とうと慌てて外に飛び出たが、

松田さんは手ぶらだった。


「おかえりなさい!」


「ただいま。居たなら丁度いい。

すぐに行くから応接間に居てくれ」


「はい」


すぐ後ろを見ると運転手さんが鞄を持っていて

松田さんに渡し、俺にお辞儀をして、

彼はそのまま奥の扉に入って行った。


<あの人も住人か!?>


点けっぱなしていたテレビを切り、座ったソファーを

正して、どこに座って待とうかと考えても答えが出ず、

ダイニングの椅子に腰かけて待ったがなかなか来ない。

と、電話が鳴った。


「はい・・松田です」


「ソン君すまねえな。下だ下。階段を下りておいで」

<内線か・・>


「あ・・はい」


俺はこの家をまだよく知らなかった。

このダイニングとリビングと風呂とトイレ

それに俺の部屋とヒンの部屋・・


通路の真ん中の階段を降りると、そのまま上と

同じ神戸の街が見渡せる大きな窓のリビングだった。

2つ目の。


「すまねえ。ここは客人用の応接間だ。

知らなかっただろうな。まあ座りなさい」


「いえ・・あ・・はい」


「今日シャオヒンは自分家(ジブンチ)

寝るそうだ。ソンに伝えろだとよ」


「はい。わかりました」


「ソン君も横浜に送ったのかい?お金を」


<・・ヒン・・そういうことか>


「いえ。父には50万円ももらったと

電話をしましたが・・

何があるか分からないのでと・・その・・」


「そうか。シャオヒンとこも同じ様なことを

黄さんが言ってたよ。どうだ多いと思うか」


<ヒンも同じ?・・>


「はい・・びっくりして・・色々考えました・・

松田さん、あのお金はお給料ですかそれとも・・」


「今月ひと月の報酬だ」


<・・いや わからない・・>


「それって・・その・・」


「分からないよな。今頃、シャオヒンは黄さん

から聞いているだろうけど、ソン君には

俺がしっかり話をしないとな」


「はい。お願いいたします」


「ソン君は保険証は持ってるだろう。それは

宝商事の社保だ。つまり宝さんの会社の保険だ。

その保険証をまだ持っている意味は、

ソン君はまだ宝商事の社員だってことなんだ。

ここまで理解できるい?」


「はい。だいたい・・はい。大丈夫です」


「よし。それじゃなぜ俺んところで仕事をして

報酬を得たかだ。そうだろう?」


「はい。あの・・それと多すぎかと」


「ふん、多いか?まあ額のことは一旦置いといて、

ソン君とシャオヒンを俺が預かると兄弟たちと

話し合った時には、当分の間は今の所属を

変えずに後にまた相談しようぜとなっいる。

簡単に言うと、二人とも前の会社の社員のままで、

うちに出向してるという事だ」


「はいわかります。出向社員ですね!? 俺ら」


「よし。そこでだ。あっ宝商事とうちの事務処理

は心配するな。50万が多い少ないの話だな」


「はい。50万も毎月いただけるのかと・・

それとも・・その・・」


「よしわかった。当分の間は毎月50万円だ。

もちろん外に出る時は必要な金は別に持たせる。

どうだ?」


「いえ・・お金が欲しい訳では無くて・・

その・・」


「いいかいソン君、俺がロシアに行っていたら銭を

いくら使ったとは、考えなかったか?」


<・・ん?・・もしかして>

「考えたことなかったです。でも・・

ホテル代や食事代や・・多分松田さんなら・・」


「フゥン。

ソン君が考えれるざっと倍は使うだろうよ」


<俺の頭の中の電卓がはじき出したのは200万円!>


「二百万円!位ですか!?」


「どうだったよ?向こうでのソン君シャオヒンへの

配慮は?何か不憫を感じたかぃ?」


「・・いえ・・皆さんとてもよく・・

親切にしていただきましたし・・

どこに行っても・・」


「怖くなかったか?恐怖を感じなかったか?」


<あ・・かえりたかったし・・逃げたかった・・>


「あ・・はい、そうですね・・警備の・・

護衛の人たちのお金を入れてませんでした・・」


ずぅーと笑顔の松田さんの目が少しだけ大きくなって、


「よし。まず冷蔵庫から水を取ってきてくれ」


この階も上と同じ造りだったので、横のダイニング

からミネラルウオーターのボトルとグラスを

2つ取り、松田さんに水を注ぎ俺も水を飲んだ。

そのほんの1~2分の間に俺の頭の中の引き出しも

箱もガサガサバサバサと開け閉じした。


「すまねぇな。順子が居ねぇと紅茶も出ねぇな」


「いえ。順子さんに教えてもらって次からは

私がやりますので」


ずっと笑顔の、今日はハナッから笑顔の松田さんの

顔に更にシワが増えた。


「そうだな。まずは遠慮せずにここくらい全部周れや。

どの部屋にも入っていいんだ」


「あー。松田さん、運転手さんもここのお住いですか?」


「おお!そうだな。そうよ。

また明日にでも話してみなさい」


<やっぱそうか!>


「はい!」


「よし。じゃやり直しだ。ルールは遠慮なしだ。

俺が間違っていたらソン君は自分の考えを言いなさい。

まだ難しいだろうが、俺を親父(おやじ)(アニキ)

思って欲しんだ。気に入らなきゃ殴る蹴る

してかかってこい。とにかく遠慮なしが

俺たちのルールだ。いいか」


<・・殴る蹴るできるわけねぇし・・>


「・・はい。じゃ・・その・・

ソンと呼んでください・・」


「おぉ。そうだな。よしわかった考えておく」



その後、俺の示した数字のホテル代や飯代に

護衛に諸々が全部、松田さんのそれには含まれてなく、

それらは全部ホビスさんやテイさんの心という金だ。

という話し。


理由は、等しい心と金を松田さんが彼らに費やして

いるという話し。


それに、俺とヒンがあの場、そうロシアで過ごした

あの時間、経験という学費は、銭金では

試算できないと言った。


あと、お金ほどモノを言う物は無い。金は大事にして、

使う処には惜しみなく全てを使えと言い、

無駄遣いはするなとも言い、無駄という言葉に

定義が無く、自分の価値と照らし合わせろとも言った。


その日の松田さんは、今まで俺が溜めていた疑問や

聞きたかった事にも、全て丁寧に答えてくれた。



俺は部屋に帰ってからも、松田さんとの対話を

ひとつひとつをノートに追加しながら、

頭の中の引き出しに仕舞い、箱を整理し、

計算機の桁を増やしたりもした。

そして今日のノートの末尾には、



『10年で俺は松田に成る!』

と、締めた。





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