第17話 利権
腕が重くて目が覚めた。
白雪は大陸の内蒙古自治区
(ネイモンクォ)の出身でホビス寮から
モスクワ大学へ通う一人だった。
父親が漢族で母親が朝鮮民族というそのエリアでは
珍しくない中国人だといい、大陸三語(
普通語、台湾華語、広東語)とハングル、
ロシア語を話せるという。
親父さんがやり手の様で石油化学の工場を
営みながらプラスチックや合成繊維などを
ロシアへ送り、ロシアでは鉱山を掘り、
鉄鋼や貴金属を中国へ入れる貿易会社も持つという。
ファッションモデルを目指しているそうで、
ホビス寮に住む理由を貝貝
が居るからといい、貝貝はモデル事務所を
経営していることも判った。
06:45 時間がわかることがここに来て
改めて貴重なことだと気付いた。
そっと腕を外し、今朝はまだ暗いカーテンを
開けると遠くの方から明けて来るのが見えた。
シャワーを浴び新しいパンツを履き、テーブルの
上の森の絵の続きを書いていたら白雪が
起きてきて俺の横にくっ付いた。
「早chu・・」
<おnewのパンツがーー・・>
白雪を抱え起こした瞬間、ギィーぃ!と
ドアが開く・・
「あらいやらしいわねー」
足音も無かった・・
<いや・・聞こえなかった?・・>
「あぁぁ! おはようございます・・」
慌てて白雪をその場に降ろして直立不動の俺・・
「何枚つかったの?」
「・・え?・・」
「コンドーム見せなさいよ」
<尋常じゃない・・この人・・>
「いや・・あの・・そこに・・」
「フフフDon't take it so seriously.」
たまに混ざるイングリッシュの貝貝は
今朝は化粧をしていない。
<はじめて見た素顔・・キレイ・・>
「貝貝さん綺麗です」
「馬鹿なの?」
「・・・・」
「他是什么样的人物?喜欢吗?
(彼はどう?気に入った?)」
<・・・・>
「他是非常温柔聪明的人。我喜欢上他了
(優しくて賢明よ。好きになりそう)」
<!!!!>
「好吧,那你就在他回日本之前待在一起吧
(じゃずっとこの後も一緒に居なさい)」
「好好好!(はい!)」
<・・嬉しいような悲しいような・・>
「あらこれ何?」
俺の例のテーブルの上の森の絵を手に取った貝貝。
「あ・・それはその・・
昨日の話が難しかったので・・」
「フフフ ソンあなたって本当に面白いわね」
「いや・・絵にかけば解るかなと・・」
「わたしもね、あれから勉強したの。
ソンに教える為に日本語をね」
<!・・先生・・流石!>
「どんな日本語をですか老師(先生)!」
「あったわ。利権という言葉よ。
そう森は利権なの」
<窓から差し込む太陽の光の様に
俺の頭の中の箱が輝いたぞ!>
「そうか!俺ずっと森はエリアで
場所だと思い込んでたから」
「多分そうね。私がterritoryの話をしたから
ソンはareaとパパを重ねたのよ」
<先生だ!俺の頭の中を全部、全部見透かしてる!>
「老師、どうかご指導をお願いいたします」
俺は白雪の前でも恥も外聞もなく土下座していた。
貝貝に疚しい想いを持ったこと、
お嬢様的な視線で見ていたこと、それにしょせん女
だとも思ってしまっていた事などを
心底詫びたかったし何より、俺が目指す物や人が
この人から視えた瞬間だった。
「やめなさい。そういうの好きじゃないわ。
・・でもソンは好きよ」
<ほらぁ・・それ・・>
「・・・・」
「早く服を着なさい。Breakfastにいきましょ。
你去洗澡吧。那之后吃早饭吧
(早くシャワーを浴びなさい。朝食よ)8時ね」
「はい・・」
「好的・・」
<あああー俺・・パンツ一丁で土下座・・>
Guest room phoneの説明書きを見てヒンを
朝めしへ誘い、白雪と部屋を出たら貝貝老師(
ラオスゥ:先生)が先に階段を下りていた。すると、
「パパー!」
朝食時には朝は食べないと現れたことが無い
ホビスさんが玄関のソファーに腰かけていた。
親子で何やらの話しの後、
「ソン 赤石さんが来るわよー」
07:50 時計を見直した俺。
「マジっすかぁー?」
老師は白雪を先にレストランに行くように言い、
俺には一緒に赤石さんを迎えるよう残した。
間も無く、電話が鳴り老師が通すように伝え、
すぐにカーンカーンと上の方から鐘が鳴る。来た!
ホビスさんと共に赤石さん一行を迎え、ここが
初めてだった丸十さんの為にと赤石さんが美術品を
ケースを案内している間、ずーと笑顔のホビスさん。
「すごいコレクションですねー!畏れ入りました!」
多分お世辞ではなく心からの言葉だと分る
感動の様子の丸十さん。
「ありがとう フフフ」
「こちらでお茶をお召し上がりください」
大きな木の例のちゃぶ台でお茶を注ぐ
老師の前に皆が並んで腰かけた。
「緑茶です。どうぞ」
明るい朝でも薄暗いここでは、やはりいつもの
スポットライトが貝貝を照らしている。
赤石さん、丸十さんに西郷どんまでがしおらしい顔と
態度である理由は俺にはよく解る。
「美味しい!いい香りですねー」
「これは素晴らしいお茶ですね!」
「んにゃこいわよか!」
3人3種の言葉だが、褒めているには違いは無いが
俺にお茶の味はわからない・・
「王魁成というお茶です。
緑茶の産み親と言われる人の名前です。
太平猴魁という緑茶の
中の特別な物です」
「うーん!これは本当に素晴らしい!
買い求めたいですが・・買えないでしょうね?」
と、言う丸十さんに即答の老師。
「どこにも売っていませんわフフフ」
「中国茶の怖ろしさは知っています。福建省岩茶
の4本の木からしか取れない大紅袍というお茶が
10グラムで100万円もすると言いますから」
「フフフ これがその木の大紅袍です」
<あああーそれ!一昨日飲んだーー!>
老師が差し出した武夷山大紅袍原木と書かれた器を
見せられた丸十さんはお茶が余程好きなのだろう、
お辞儀をしながら両手で器を取り蓋を開けて香りを
楽しんだ。何故ここに朝早く来たのか?
本題が視えないままこの大紅袍を味わっている。
「ホビスさま、失礼が無ければお話を
させていただいてもよろしいでしょうか」
真横に座り話し辛かったのか、お茶で和んだ
雰囲気が話に繋げたのかは分からないが
赤石さんが口を開いた。
「フフフ Артурка(アルトゥール)
から聞いています」
「はい・・では詳細は丸十から」
「この度はご面倒なお願いをいたしまして
申し訳ございません。アル(アルトゥール)が
軍の立場の自分では動けないと、
ホビスさまにご相談に上がる様に
と参上いたしました」
「Артуркаはズルい男あるですね。
赤いさんと兄弟あるね?フフフ」
<ホビスさも赤いと・・あ!そうか・・
テイさんから情報を聞いてるんだ!>
「いや・・お恥ずかしい・・」
赤石さんがホビスさんのその言葉を
どう受け取ったのかは定かでは無いが
ホビスさんが続けた。
「司法省に貸すも借りるも良くないね。
Артурка賢いね。私できるよ フフフ」
「あああーありがとう御座います!」
<視える。話が。多分 俺>
「これBusinessあるね?」
ホビスさんのあの笑顔が消えた!
「・・はい。と、申しますと?」
「フフフ 私いくら投資する?
それ私何パーセントか?」
「じゃばってん うちどもわですよー・・」
西郷どんの口を押えながら丸十さんが続ける。
「ああなるほど。失礼いたしました・・あ・・
いや投資を求めているのでは御座いませんで・・
その・・」
「フフフ では私なにする?」
「いや・・ですから司法省の許認可を
いただけましたら・・その・・
そのお礼はしっかりさせていただきます」
「おお フフフ 私お金要らないよ。
私Business欲しいね。私参加するSchemeを
答ください。フフフ」
「失礼いたしました・・はい。
事業にご参加いただけるならば
有難いお話でございます」
<すごい!さすがにキレる人だ
丸十さん カッけ!>
持ち帰って事業内容を含めたあらゆる資料と共に、
ホビスさんのReturn on Investment(投資利益率)
を示す数字を作り、改めて来ると約束し
帰って行った。
「ソン食事にしましょ」
「うん・・いや・・はい!」
「いいわよ 普通に話しなさい」
「あ・・はぃ・・」
「フフフ」
1時間ほど経っていたがレストランでは、
いつもと違い騒々しく、あちらこちらの
テーブルに東洋系と西洋系の人々で賑わっていた。
白雪もヒンたちもまだ例の個室で団欒していた。
「ええ!phở (フォー)食べたのー!Nước mắm
(ニュクマム:魚醤)もあんじゃん!」
3人の前にはそれが残っていた。
「おお いろいろ喰うたけどマイが
フォー食べたいぃ言うたら、作ってくれたわぁー
お前も喰えやぁー うまいでぇー」
「今日からまたオープンしたのよ。
MENUの物をオーダーすればいいわ」
<なるほど どうりで・・>
朝から多すぎるメニュー表に悩んだが、
俺も食べたいと貝貝が厨房にそれを伝え、
二人でフォーをススリながら、
「貝貝先生、結局・・
お父さんと赤石さんたちが会いましたね」
「保健省がOKでも司法がダメなら仕事に
ならないことを今頃判った
アルトゥールおじさまが悪いわ」
「そういう事なんですね?」
「そうよ。まさに森が視えて無かったのよ」
「利権!」
「あとでパパに詳しく聞くけど、
保健省の扱う森と司法省の森の重なる円なのよ」
「あ!俺が書いた森の絵の円だ!そうか。
俺の絵の円はエリアのつもりで描いたけど、
正に利権も重なるんだ!」
「なにそれ」
<えええー・・ガッくしぃ・・>
「ソンの絵がうまかったのじゃないわ。
私が探した言葉がfitしたのよ」
「・・はい・・たしかに・・」
「うそよJust kidding フフフ」
<・・いんぐりっしゅ~・・>
先に香港へ帰るというテイさんを空港で見送り、
俺たちは余裕を持って買った帰りのチケットまで
の3日間を貝貝と白雪、ヒンとMaiの5人で
観光やショッピング、どうしても行きたいという
ヒンの我がままでモデルさん達がレッスンする
スタジオにも行ったり、
アイススケート場でも楽しんだ。
俺たちの搭乗には、貝貝、白雪、Maiが
並んで手を振って送ってくれた。
名残惜しいが・・日本も恋しく・・




