第16話 虎視眈々
赤石さんを迎えるために玄関先でタバコを
吹かしていた。外はもう真っ暗だ。
頭の上の方でカーンカーンと小さな音だが
鐘が鳴ったので、見上げるとスゥーと
窓が開き貝貝が顔を覗かせた。
「あらソンそこにいるの。すぐ行くわー」
間も無く噴水の向こうから車のライトが2台、
こっち近づいて来るのが見えた。
<これを知らせる鐘かぁー!>
「ソンそこの電話でテイおじさまに来たわと
伝えて。急いだから忘れてたわ」
電話・・部屋の番号?・・掛け方が
分からなかったが2階から大きな笑い声が・・
2人見えた!
「あーーテイさん 来られましたよーー」
止まった2台の後ろの車から赤石さんと
西郷さんが降り、車はそのままパーキング
へ止められた。
「赤石さん!お二方ですか?
えーと丸十さんは?」
「そうすみませんねーソン君、彼はアルトゥール
と一緒で今日は私たち2人で
お邪魔に上がりました」
「ようこそいらっしゃいました。私はホビスの
娘 貝那です。
さあ中へお入りください」
「赤いぃさーんまた会えてうれしいですね!
ハハハハハあ」
<だから・・赤いじゃなくて・・>
貝貝の案内で玄関の例の美術品ケースを
ひと回りしてレストランへ通路を渡り、
今日はいつもの個室の厨房の反対側の
部屋に入った。向こうよりひとまわり大きいが
同じ様な個室だ。貝貝は椅子を引いて
それぞれを座らせ、自分は俺の横に
付いて話し始める。
「本当ならお父様がご一緒しなければ
なりませんが、用があり居りませんので
私がお邪魔いたしますがよろしいですか?」
「いえいえ貝那さんが居てくれれば安心です。
こちらこそよろしくお願いいたします。
これは詰まらないものですが日本からの
手土産です。こんな立派なところで食事を
呼ばれるのにこんな物で恐縮です・・」
いつもの様に長いコックハットの料理長が挨拶の後、
次々に料理が運ばれてくる。これもいつもの様に、
テイさんの無理押しの白酒やウィスキーも注がれ、
酒は飲める方だが今日は遠慮するつもりだったと
言うお二人もテイさんの乾杯音頭に合わせて
ボトルが空いていき、貝貝の合図で押し寄せた
女性群からも押し引きはあったが3人の
ロシア系美女を座らせた。そして何気にヒンの
隣にはMaiがポツンと腰かけていた。
<貝貝さん・・俺に・・俺の相手は・・>
俺の右には席が1つ空いていて、左に貝貝が
ドッシりと居座っている・・
「貝貝さん・・ここ・・この席は・・」
「なに?」
まあまあ恐い顔。
「・・・・」
テイさんがカラオケの本を持ち出したので・・
ヤバい!
「あのー赤石さん、昼間に言ってた薬って・・
大麻草から作る薬って違法じゃないのですか?」
<ここで聞いとかなきゃ・・>
「あーそれね!・・どう説明しようかなー。
そうね複雑でね、基本に大麻の成分って有ってね。
まあ何にでも成分があるんだけど、大麻草って
葉も茎も根もすごい成分の塊なのよ。
捨てるところなんて無いんだわ」
「どれも、大麻って名が付いたらですよー
扱ってはならんとです。ぢゃもんで、
わいわれ(我々)もグアムでしか
研究ができんとです」
<西郷どん!テレビでしか聞いたことが無い!
生鹿児島弁だ!>
「だからグアムなんですね!西郷さんの会社は
薬メーカーなのですね?」
「タイマーいうたらあれやろぅ タバコみたいに
吸うやつですわねぇー クワンジャニムも
言うてたわー あれはビール飲むより
体にええってぇー」
<タイマーって・・>
「おおお そがいですか。じゃばってん
あれじゃ無かとですけん。あれは成分の一つが
しょちゅ(焼酎)で酔っ払ったごたるするモンでぇ
わいわれの使う成分とは ちご(違う)ですけん」
<ヒンの関西弁と西郷どんの鹿児島弁
コラボ中!>
「確かに説明が難しそうですね。俺たち素人には」
「ハハハハハあぁ じゃっどジャッド!
いっど(一度)グアムにおじゃったもんせ」
<じゃっど&いっど もわからないが・・
西郷どんの笑い声・・そっちぃー>
と、ついにテイさんの歌声が響きだした・・
「わーすれられないー あのおもかげよー・・・・
何日君再来ぃー ホーリーチンツァイライ・・」
そんな中でも赤石さんは真面目に、小声ながら
大麻草のあの成分をこう使う、この成分はこう
使うなどなど事細かく教えてくれた。
それに西郷どんの会社は実は大企業で薬や
医療機器の分野などは、ほんの一部の事業だとも。
メモは持ち歩かなきゃいけないとつくづく実感した。
長い夜だったがロシアン3人共と、赤石さん西郷どん
を載せた車を見送って、貝貝と2人になった玄関で、
「ホビス・・おとうさんはまだお戻りじゃないの?」
「パパは居るわよ」
<おっといつの間に・・>
「食事とか・・大丈夫でしょうか?」
「ソン あなたやはり面白いわね。今、パパの事が
気になるの?」
「いえ・・ホビスさんはここでしか食事はしないって・・
余程の時以外はって・・」
「そうよ。パパは何処にも行ってないのよ。
あまり人に会わないの。特に政府に近い人にはね。
なぜか解る?」
「特に政府関係・・ですか・・・・」
<電卓も使い、頭の中の色んな箱も開けてみたが・・
わからない・・>
「何でなんっすか?」
階段を登り切って俺の部屋と貝貝の部屋との
別れ角に立ち、
「下でお茶飲む?それとも私の部屋?」
<あああーしまったぁー・・こここぉコンドーム・・
置いてきたぁ・・>
「いやあのその・・」
「何慌ててるのよ。そうねお茶 飲もっか!」
<それでもいいような・・どうやって
取りに帰ろうか・・>
Barカウンターのロシアの女性は今日は居ない。
静かなちゃぶ台の俺の席に座ると、貝貝さんは
今日もスポットライトに照らされる席に座り
お茶をそそぐ。綺麗だ・・
「それでホビスさんは何で政府の人たちと
会わないの?」
<スキをついてコンドーム・・を・・>
「考えてみた?わからない?」
「うん・・多分・・ロシアも越南
とかチャイナと同じで、政府とかそういうの・・
大事じゃないかって・・」
「そうね。それで?」
「だから・・その・・それなら赤石さんとかさ、
ほら、露日協議会ってくらいロシアの政府と
交流がある訳だし、今日もね、軍のTopとか
保健省とかの人たちと相当仲がいいみたいだったし。
だから・・ホビスさんもそんな赤石さんとも
会って交流すればって・・」
「そうね」
「・・・・」
<そうね・・だけ? あー俺・・
アヤされてる?>
「ソン パパの事どう視てる?」
「どうって・・・・凄い人だと思うよ。
テイさんの親戚でこんな家に住んでて、
学校を・・学生を助けたり・・」
「お金も力もあるわ。もちろん政治力も」
「はい・・もちろん・・だからその・・」
「ソン覚えておくのよ。ここはロシアなの。
そうあなたの言う通り大陸も
ベトナムも多分そう、日本もそうよ。森の中には
territoryを守る虎が沢山いるの。争い合って
自分のテリトリーをつくるの。だからいつも
森の中は争いが絶えない戦場なのよ」
<虎がクルクルまわって・・
バターになった・・>
「虎の様に力(権力)のある人がいっぱいいて・・
権力争いを繰り返す・・そういう意味ですか?」
「そう。でも森の中では影に潜んで、いつでも誰の
テリトリーでも取れるように狙っている
虎が1番強いの」
<俺の中の箱から光がーー!>
「あ!それがおとうさん!」
「ちがうわ」
<・・光らなかったぁ・・箱・・>
「・・ええっと・・」
「森は森よ。どこにでも、ほらベトナムにも
日本にも沢山あるでしょ。パパは森に入らないの。
でも森の外から森を支配するの」
「争わないで取る。という意味?」
「そう。森の外から隠れている賢い虎を見つけるの。
中で争ったり走り回ったりして小さなテリトリーを
広げても無駄でしょ。だって最後は静かに狙いを
定めているその虎に取られる訳だし」
「外から・・賢い虎を見つけるのですか・・」
<あ!また光が!>
「その時、その場所で一番強い虎=人物を手懐けて
欲しいものを取りに行く!ということですね。
そして、その1番強い人ほど表に出ない。つまり、
おとうさんだ!」
「フフフ50%」
<・・また暗くなるかも・・>
「隠れている虎は、表に出てきた1番強い虎に
勝たなければならない。つまり、相手より強い
虎のことを隠れた虎というの」
<今度こそ光るぜ俺!>
「ホビスさんは我先に走り回って
あちらこちらに残り香を残さないで・・
いやむしろ、存在を消して・・あーそうだ!
赤石さんたちと一緒にアルトゥールさんや
イワノーフさんと会うことで、ここは我々の
テリトリーよってバレない様に・・いや・・
じゃなんで・・」
<しょぼショボゥーっと曇る光・・>
「アルトゥールおじさまもイワノーフさんも
良く知ってるわよパパは。でも今日の契約は
優二おじさまの手配よ。その為に赤石さまが
来られたなら会ってたわ多分。でも彼らは別の
お仕事にも関係しているのでしょ。その森には
入らないの。パパは」
「なるほど・・」
<・・輝かないままの俺の頭の中・・>
「教えてあげる。ソンに全部教えてあげるわ。
わたしはパパのすべてを継ぐわ。私はあなたの
より先に行く筈でしょ。だから私がソンの
人生の先生よ」
「うん・・ありがとう・・」
その後も、来月にも日本に来るという貝貝の
話しから、松田さんの話しや懐かしい
ステーキハウスのスタッフの話し、温泉に行こうよ。
などと過ごし、
「ソン 今日は約束通り独りでいいわ。おやすみ」
<・・コン・・どむが・・遠ざかるぅ・・>
「うん。おやすみ」
森の虎さんのたとえ話が複雑すぎて、今晩こそ
穴があったら入ろう計画も忘れて紙に森を書いて
虎を書いてをしていた。と、
トントントン・・
<だれ?・・ヒンでは無いのは確か>
「阿・・你好・・我是白雪、我是
按照经理的指示来这里的 我要和你过一夜」
<マネージャーに言われて?・・ってもしかして貝貝・・>
「・・嗯・・好的・・请进」
<・・どうぞ・・と言うよね 俺>
とにかく女の子が・・一晩ここで過ごすように言われて・・
来たのだ・・白雪ちゃん!
どこいったーーーーおーーぃ
コンドーム君達・・




