第15話 縁故交渉
幅広く長い通路をいくつか曲がった先に
ひと際大きな扉があり銃を腰に持つ凛々しい
二人の警備員が立っている。
彼らに開けられた部屋から大柄のスキンヘッドの
軍服をまとった人物が迎えてくれる。
「アルトゥール!お元気でしたか!」
赤石さんがそう呼ぶこの人は、国家新鋭軍連邦長官
だと紹介を受ける。赤石さんと同じ年でアルトゥール
さんが若き日を赤石家の鹿児島で過ごした様だ。
また丸十さんとも親しくアルトゥールさんは
Вася(ワーシャ)と丸十さんの事を敬っていた。
今回の彼らの訪問の目的は丸十製作所がGuam
(グアム島)のラボで研究を進める大麻草から作る
薬品のことだと言う。
「あなたたちはRispro(リスプロ:インスリン)
買うね!わたしも糖尿病よー」
華人系の日本語とはやはり違う。子音がロシア風なの
だろうでもしっかりとした日本語だ。
「日本語すばらしいです!はい。私たちは
インスリンあ・・リスプロの契約に来ました」
<感じたことはとりあえず言葉にする俺>
「私の日本語先生ですケン(憲)は。だから
下手ですね ハハハハハあぁ」
<ええっ 笑い声・・そっちぃー・・>
「失礼なー 毎晩焼酎飲んで勉強もしなかった
くせに俺のせいにするなよ」
「ハハハハハあぁ」
「ハハハハハあぁ」
「ハハハハハあぁ」
笑い声は染するものだとこの時にはもう解っていた。
「ハハハハハあぁ皆様は仲がいいのですね。
私たちの契約はどこで?」
意外と冷静なテイさん。
「そうですそうです ハハハハハあぁ 行きましょう。
Васяにも紹介なければー。イワノーフ
(保健省長官)は軍時代の私の部下です」
<色々と繋がりつつある・・>
また長い廊下を今度は反対へ向かって歩き始めた。
「赤石さん、丸十さんのその薬品ってすごく価値が
あるのですか?なんかそんな気がして・・」
「おうソンくん解るかい?そう癌から精神病まで
全部治してしまうくらい凄い!」
<ガン・・精神病・・とにかくやはり価値がある>
松田さんだ!・・つまり、ロシアのリスプロのTopは
イワノーフさんであり、そこへのお土産みたいな形が
丸十製作所の薬なんだ!give&take,win:winってこれ?
そんないろいろな情報から赤石さんを経由して・・
あっ・・あの時?そうだ間違いない。おやじが
ヒンの親父さんを連れてハマに赤石さんに会いに
行ったのもこの為だ!でも1週間も経っていない・・
この推測が正しければ凄すぎる・・松田さん・・
「すごい!」
口に出ていた。
「おぉ?」
「いえ・・すみません・・その・・
癌とか治っちゃう薬とか・・」
「大きな声では言えないけどね。
西側ではタブーさ」
赤石さんが俺の耳元でほんとうに小声でそういう。
<俺の中の好奇心がメラめく>
「教えてください。お願いします」
「今晩、一緒に食事をしましょう。そのときにね」
そンの時、
「ax,.. немедленно для・・」
向かえの大きな扉が開いたとき、
「Привет. Как ты?」
たぶんイワノーフさんだ。想像より紳士で
スーツ姿に赤石さんたちと同じピンバッジを
つけている。
「彼がイワノーフ。さあなかにどうぞ」
たぶんイワノーフさんの部屋だがズカズカと中へ
誘導するアルトゥールさん。
部屋の4つのデスクに合わない数の人々。日本語で
の挨拶があったりロシア語での歓喜的な笑い声で
雑雑とした数分が過ぎた。
「それでは先にRisproどうぞ。Ok? Ивано́в」
「дадада(ダ ダーダー)」
<yesだ!ダーは知っている>
多くの人だまりの中から一人に歩み寄ったテイさん
が話をしている。あの人だ!あの時の人。テイさん
いこっぴどく怒られてた。でも様子が違う。
テイさんは大笑いして彼は照れくさそうに手を指し
伸ばして。そう言えばここの人には違いが無いのだ。
あの人も居るわね。
ペンの、例の万年筆から出たと思われる青い
インクで俺のシャツが真っ青になっていたり、
松田さんの名前を書き違ってもう1枚の用紙を
用意させたり諸々あったが無事に契約を終え俺
と担当官、それにイワノーフさんも入って写真
を撮った。丸十さんたちの用には俺たちは参加
しなかった。テイさんがディナーをと、
レストランホビスに招待して解散した。
「帰ってシャツ着替えなきゃ・・」
「ハハハハハあぁ」
「ハハハハハあぁ あの赤いさん凄ですね
日本人なのに。ソ連ときから・・
できないよあれ」
<・・赤いじゃなく赤石・・>
テイさんが続ける。
「前(昔)あったですよ。日本商社は
強かったです。今の日本を創った人たちね。
香港人みんな彼たちから勉強しました。
でも残念ですね今彼たちはお金使えない。
それは大変ですよー それは
勝てないですよ。赤いさん強いねー」
<いやだから・・赤石・・>
さておき、テイさんが言うほど
凄いのだろうとは解る。
「周りを見てたら判りますがやっぱ偉い人
なんですねアルトゥールさんもイワノフさんも?
あの人あのテイさんが怒鳴った人。彼も
あそこでは全然目立たなかったですよね」
「ハハハハハあぁ 彼は小物です。でも
いいやつよ。お金いくら欲しいか?
聞きましたがハハハあ いらないって
いやついい奴ね」
<たぶん俺も・・断るわ・・>
「ハハハハハあぁ あいつどこにおったぁー?
居るん知っとったらじばぃ(殴る)たったのに」
「やめてください いいやつよ いい奴」
「ハハハハハあぁx2」
大きな噴水の前にはホビスさんが立っていた。
「フフフ 終わりましたか。さあ上がって
休むください」
貝貝さんが気になったが部屋に戻りパンツと
シャツを履き替えた。
と、いつから有った? コンドームがテーブル
の上に123・・5こ・・
<?あったかなぁ・・いつのま・・
てか何のためぇ?>
ドドドォー ガシャ!
<ヤベっ・・>
とりあえず隠す・・ポケットに・・
コンドーム・・
「ソン行こやぁーー早よぉーー」
「おぃおいどこによ・・」
「裏や。裏のあの建てもんなぁー あそこに
ようさん(沢山)女おるんやてぇーー!」
「どゆこと?」
「ええからぁーいくでぇーー」
よく見るとMaiちゃんもいる。
「Mai,. Điều này có nghĩa là gì?(マイちゃん、
どういう事?)」
「Đó là ký túc xá của chúng tôi.Có 50
sinh viên ở đó.Họ đều là phụ nữ.」
そこはMaiちゃん達の学生寮だという。
50人もの子が暮らしていると。
<・・行くのはいいけどコンドーム・・
ポケットにいっぱい・・>
「あらぁー帰ったのー」
<やばい・・さらにドッキリ!?>
「・・貝貝さん・・えと・・
なんか裏の建物が・・その・・」
<なんとかして隠したい・・ポケット・・>
「行ってもええんやろぉー?」
「ええ。いいわよ。じゃ私が案内するわ」
まだ知らない建物がいくつも在るのは知っていた。
「あれとあれはApartmentなの。
こっちが彼女たちの学生寮で向こうがStaffroomよ」
<・・スタッフルーム・・うちの団地なんか
より数段いいじゃん・・>
Mai達が過ごす建物に入るといい香りがして、
1階は正にホテルのロビーの様で奥には
Caféがあり数人の女の子が団欒している。
「なんやぁー ちょっとしか居らへん
やんけっMaiーー」
<何怒ってのよ・・笑い>
「学生って・・あれですかその・・
大学とか?」
「そうみんな Ломоно́сов
(ロモノーソフ:モスクワ大学)
の学生よ。成績がいい子をApartmentや学費も
パパが援助してるの。ここは女性だけ使えるの。
男は郊外に在るわ」
<ホビスさんの趣味?でも・・男もいるんだわ!
かぁーお金持ち!>
「ほなやっぱり女だけいっぱいおるんやなぁー
ここにぃー ハハハハハあぁ」
ヒンの声に皆が振り向き笑っている。
「おーーかわいいやん あっちいこや」
「そうね。Dinnerまでにはまだ早いから
座りましょ」
俺のポケットに突っ込んであった手を引き抜き
引っ張る貝貝・・さん・・
ポロポロッ・・
<げぇーーーーーー>
「あらなんでこんな物持ち歩いてるのー」
「・・・・いや・・これは・・
俺んじゃないっすーー」
「じゃだれの?」
「・・部屋に・・机の上に・・置いて有って・・
その・・」
「フフフ早く仕舞いなさいよフフフ」
もちろん慌ててポケットに詰め込んだ・・
「今夜は来なくていいわ。今日はわたしが選んであげる。
だから置いたのよ私が。 フフフ」
「ええええー・・えええ?」
<・・俺・・院山龍19歳男・・穴があったら
いつでもどこでも入りたい・・でも・・>
女子寮のカフェで甘いミルクティーを飲んでいると
次々と行き来する女性群にいちいち反応し始めてるが・・
ヒンも満足したのだろう。Maiちゃんに後でレストラン
に来るようにと伝えて部屋に帰って行った。
俺は貝貝に引き回されて川際に在るホビス家のボート
乗り場や別の建物を周り、部屋に戻った。
赤石さんたちが来る19時までまだ一休み出来そうだ。
ハチキレそうだったズボンも落ち着いたし、
何気に考えることはいつも次の場のシュミレーションで、
赤石さんや丸十さんに聞きたい事や松田さんと
の関係なんかを模擬っていた。
ドドドォー バサッ・・
「ソン 靴下かしてくれぇーー」




