第12話 落胆
貝貝さんが横に立つとヒールの分
俺より高かった。
「170・・174センチですか?身長・・」
「すごい!4cmまで当てられたのは初めて」
「・・いえ・・俺と同じかなと・・そのヒール、
5センチかなって」
「へぇ~あなた観察すごいね。それで1cmも
間違わないフフフ」
<笑い方は親子・・でもぜんぜん違う・・
かわいい・・>
「・・あの・・貝貝さん・・お母さまは・・
おかあさんも中国系ですか?」
「フフフ 後でゆっくり話しましょ。さっぁ
行きましょう」
<いや・・やばい・・>
「いあぁ・・ちょっと待ってください・・」
<もう手を取られてしまって・・>
「何を待つの」
<・・そういうものなのか?・・いやホビスさん
の顔が浮かぶ・・>
「いえ・・もう気分が良くなったので・・
あそこでお話しませんか?」
<Barでとにかく・・・・>
「いいわよ。でも今夜はかならず私の部屋に来てね」
「・・・・は・・い・・・・」
<と・・言ってしまってた・・>
俺はBarカウンターを指差していたが、座らされた
のは例の大きな木のちゃぶ台だった。
バーの横の小さなスペースだけが見えていたが
座ってみればまるでお茶屋の様で、黒白黄みどり色
から花茶まで7つに色分けされた列には、銘柄と
年数が書かれてあり、
ホビスさんが点ててくれた普洱茶も
大中小が並んでいた。
「お酒よりお茶にしましょ」
武夷山大紅袍原木と書かれた葉を独特の作法で
お茶を点てる貝貝さんは、背筋を伸ばして凛と
美しく、ちゃぶ台を照らすスポットライトが
程よくその顔を輝かせている。
「きれいです貝貝さん」
<ええぇ?・・言っちゃってた・・>
「フフフ ありがとう。あなたも素敵よ」
<なぜだろ・・俺 落ち着いてる>
「おかあさんのこと、ここには居ないの?」
「香港に居るの。歌手よ。ママはBritishと香港人
のhalfbloodで本当に綺麗よ・・
でも・・」
<歌手!・・ブリティシュ?・・なんで
寂しそうなんだろう・・>
「・・でも・・どうしたんですか・・?」
「・・なにもない。長い間会ってないだけよ。
ねえ ソンは何歳?」
「19です。あっもうすぐ20です。そうそう
貝貝さ・・・・あっ」
「あっ?なに?」
<順子さんに怒られたことを思い出した・・>
「いえ・・貝貝さんが俺よりおねえさんかもって。
なんかよく分かんないのです・・女性の歳って・・」
「25よ」
<! そう言われてみればそうなのだと>
「あっじゃやっぱお姉さんですね。でも同じ
くらいかなって思ってました」
<順子さんは喜んでくれたので・・俺・・
まあまあ嘘つきかも・・>
「あら失礼ね!そんなに子供にしないで!」
<えっ・・怒られてる・・>
「いえいえ・・その・・・・」
「joking just kidding!フフフ」
<・・ともかく・・笑顔がかわいい・・>
「好きです。・・あ いや・・年上のその・・」
<馬鹿か俺・・なに言ってしまってる・・>
「フフフ私も好きよ」
「・・・・・・」
お茶を、今まで貝貝さんが注いでくれてた
お茶を自分で注いで飲み干した。
「ソンの彼女はどんなおんな?」
「えっ・・俺 彼女いないっす・・」
「そう。じゃ私がなってあげる」
<・・・・ぇぇぇえー・・もうどうにでも
してくれー>
ゴォゴーと向こうの扉の音が鳴ったと同時に、
「ハハハハハあぁ」
にぎやかな5~6人ほどが、ヒンを筆頭に
帰って来た。
<こっちに向かってる?>
「あーーーソン そこに居ったんかぁー?」
<マジ部屋に帰ってくれ・・>
「うん ここだよ・・」
「なんやぁー俺らもバーで吞もう言うてなぁー
あ!ポイポイはん!居ったんかぁいなー」
「フフフお元気ですね。どうぞ座ってください」
「ソンもう吐いたぁんかぁー?ハハハハハあぁ
・・あれェーあの子はぁ?」
<どれだけ飲んだのか?いつもに増して
声がデカい・・>
「・・うん・・俺もう大丈夫だからその・・
多分・・帰ったと思う・・」
「なんでやぁー えらいベッピンさんやったやん!
なんで帰らすねん 勿体無いなぁー」
「私が帰したの」
俺が答える間も無く・・
「お・・えぇ?・・あぁそうですかぁ?」
<頭の中で整理中なのだろう。
声が小さいヒン・・笑>
「フフフ ではみなさんゆっくりくださいフフフ」
と、ホビスさんは階段を上がって行ったがテイさんは、
「さあさあ乾杯するよ」
また違うウィスキーを手にしている・・
「あら叔父様、ソンはもう飲めないわ。ソンに
ベトナム語を教えてもらってるの。いいわ。
私たちは部屋に戻るわ」
<・・っ痛てぇ・・俺の手の甲をつねってる・・>
「ぁ 唔好意思ぅ唔好意思
ハハハぁ・・」
<テイさんも声が・・小さい・・貝貝さん・・
こわいかも・・>
「行きましょソン」
引きずられるまではいかないが、かなり強引に
手を引かれて階段を上る。
「・・ここです・・」
<・・俺の部屋・・じゃないの・・>
「いいの。私の部屋に来て」
<いや・・パンツを履き替えたいし・・
ホビスさんの顔やみんなの顔が浮かぶ・・>
美術館の様な例の玄関を見下ろして、多分このあたり
の真下がヒンのいるBarだろう通路を歩き、コの字の
右奥が貝貝の部屋だった。
数えれるだけで11部屋ある。どこが誰のまたは、
何の部屋なのか判らないがとにかく
貝貝の部屋に入った。
俺の部屋とは全く違い、正面の大きな窓から
モスクワ川が見え、ピアノがありキッチンも在る。
「ねえソン・・わたし・・ひとりが怖いの・・」
<・・そこに順子さんの様な色気は無く・・>
「ghostとか?nightmare・・それとも・・あ!
誘拐?」
「うん・・ゴーストも嫌だし悪い夢もよく見るわ・・
でも・・ちがうかな・・」
<・・さっきまでのあの強い感じの
貝貝さんじゃない・・さみしそうな・・>
「なんだか寂しそうですね・・酔っ払い?
吐きそう?」
「・・そうよ。寂しいのよ・・独りが嫌なの。
いつも誰かといたいの」
「ごきょうだいとか・・貝貝さんは一人っ娘
なんですか?犬とか猫とか飼えばどうです?」
「うん・・ママには2人の子供がいるわ私以外に。
パパとママの子供はわたしだけ。だから
ずっとひとり・・パパはそう、パパは犬も虎も
飼おうとしたわ。でもわたし、allergyなの。
動物の特に毛がダメ」
<?お母さんに2人・・貝貝さんはひとり?なの?
・・え? 虎って言った?>
「それってホビスさん・・あごめんなさい・・
イリアさんとおかあさんはもう別々の
家庭ということですか?」
「хоббист(ホビス)でいい。パパもそう呼ばれる方が
嬉しいみたい。ママは・・ここ(ロシア)に来たことが
無いわ。2人子供は私と1歳と2歳 下なの。
それだけではないわ。あのパパだから・・私は
何回もママに連絡したわ。でもママは
連絡をくれないの・・私はschoolの成績は悪い。
でも馬鹿じゃないわ。パパが教えなくても・・
全部解るのよ」
<俺も・・理解できてる・・たぶん・・>
「ママはママですよ。間違いなく貝貝さんの
おかあさんですよ。でも・・よくわかんないん
ですけど・・俺・・思うんです。家族って、
男と女って、もちろん大事だって。でも・・
一番大事なのは自分じゃなきゃ・・自分を
大事にできるから男は女を、家族を、大事に
できるんじゃないかって・・だから・・
たぶん・・おかあさんも・・」
「そうよ。ママは自分が一番大事なの。
そうよ・・そうね・・」
<俺はそんなことを言うつもりじゃ
なかったんだけど・・>
どこか腑に落ちた様子の貝貝はスッと立ち上がって、
「いない人をいつまでも恋しがるのはやめた」
<やっぱスタイルいい!かっこいい!>
座ったままの俺から見た貝貝はこの上なく
綺麗だった。
「ソン お酒飲もう!」
「・・いや俺・・」
<流石に酒は口にしたくなく・・>
「Okじゃ寝る?」
今やよく使われるギャグ的このフレーズは
この時の貝貝から産まれた!・・はず・・
貝貝の部屋の中に扉は更に4つ在った。
リビングの大きな窓際の扉を開き、
「私のBedroomはここね。ソンはあっちね」
「えっ!・・」
<えって 言っちゃった・・>
「なに?どうしたの?」
「・・いえ・・俺 自分の部屋へ帰ります・・」
<・・あんなことこんなこと・・
考えてた俺・・>
「だめよ。ひとりはいやなの」
<・・別々の部屋で・・もはや・・
ひとりじゃん・・>
「はぃ・・じゃ・・おやすみなさい・・」




