第10話 夜総会
ひと際高い(長い)コックハットのシェフが
何やらホビス(イリア)さんに声を掛け、
続々と料理がテーブルに並び始めたる。
色とりどりで凄いボリューム。
<ロシアも残す文化かな?にしても多すぎる・・>
と思っていた時、
「なんやぁ?いっぱいおるでぇー」
俺は見えなかったが、ガラス張りの通路を指差すヒン。
<フフフ>とほころんだ顔をうなずかせて手招きする
と、摺りガラスのドアが開き、ぞろぞろッと部屋を
埋め尽くしても入りきれない女性群・・
「・・・えっと・・・」
<ホビスさんテイさんの顔を見て、どういう人たち
なのかを聞いたつもり・・の俺>
「フフフ 食事は多いほうが美味しい。どの女と
一緒に食べたいでもどうぞ」
<少し変な日本語には耳はいかないが・・>
「おぉお!そこの椅子をうめたらええんですかぁ?」
大興奮のヒン・・
「フフフ 椅子はいくつでも用意しますよ フフフ」
「ヒンさん彼女はどうですか?」
容姿も服装も十人十色だったが一人だけアオザイを
着た人を指差したテイさん。
「あんたベトナム人かぁ?」
それくらいのベトナム語は知ってる筈のヒンが関西弁
・・しかもデカい声・・
「・・・・」
もちろん返事が無いので念のため俺が、
「Em・・ Chị có phải là người Việt không?
(あなたはベトナム人ですか?)」
「・・Vâng, tôi là người Việt.・・(はいそうです)」
「おおお!」
と、立ち上がって彼女を引っ張りながら自分の
席に座らせるヒン。
「ヒンさん、彼女だけでいいですか?」
「ほんなら こっちにも誰か
座ってもらいますわぁ~」
と、興奮の割には然程、多くの女性群を見ることも
なく前列のアジア系女性を座らせた。
その間も笑顔のホビスさんは俺を見ながら、
頭とアゴで<お前も選びなさい>と合図している・・
「わたしは・・その・・」
「日本語がわかる人?」
と女性群にむかってテイさん。
「・・・・・・」
いないようだ・・
「有会说中文的人吗?(中国語は?)」
と、続けるテイさん。
「我 我 我・・・」
わたしわたしと半分ほどの手が上がり、
テイさんが指差しながら、
「你・・还有・・你!来来」
と、どうみてもロシア系の二人を俺の横に座らせた。
ホビスさん手で合図しながら女性群の中の4人を
指名し部屋の残した。
それでも尚有り余る軍団が通路へと引き上げていく。
「さぁ乾杯しましょう」
と、ホビスさんが持つ手には
<MOUTAI貴州茅台酒50年>という
金のラベルが光っている。
「乾杯!」
<初めて口にする酒で、ネップモイとは全く
異なる口当たりと跡口・・キツイ・・>
「ウォッカですかぁ?」
<ヒンが言う様にロシアだし、そのくらい強い酒・・
でもラベルは中国語じゃん・・と心の中でツッコむ>
「白酒ですよ。いいお酒ですよ。
貴州省の・・・・・・・・」
<テイさんが産地などなど説明してくれているが、
腹が減りすぎて耳に残らない・・>
「うまいですわぁ~」
テイさんの説明も聞かず、両隣の女性から挟み
撃ちで料理を口に入れられながらのヒン・・
「そうですか。辛くないですか?」
ホビスさんがニコニコしながらヒンに聞く。
「エエぐらいの辛さですわ~。
四川料理ですねぇ?」
「はい。そうですね。でも少し違います。
湘菜です。湖南料理です。
毛沢東の出身地ですね」
「へぇ~ こりゃ旨いですわ~」
<たしかに旨い!でも隣の女の子が気になるし、
なによりテイさんやホビスさんの事を知りたい>
「あの・・テイさんとイリア(ホビス)さんは
どの様に知り合われたのですか?」
「古いよー・・ながいよー・・」
ニコニコとほくろむホビスさんを見ながら
テイさんが続けてくれた。
「ホビスのおとうさんと私のおとうさんは兄弟です。
おとうさん達はこの料理と同じ湖南省で産まれました。
みんな貧乏だった。ハハハあぁ」
「親戚ですか・・従兄弟ですね。・・
どうりで似てますよね」
「いとこ といいますか日本語? はいそうですね。
似てますか?」
「はい少し違いますが似てます。イリアさんはいつも
笑顔ですがテイさんは少し怖いです・・
すみません・・」
「ハハハあぁ」
「フフフ」
「あっ そうです。笑い方がぜんぜん違います」
「おぉ ハハハハハあぁ フフフ・・・・」
「おっ ハハハハあぁ~」
<なんでお前も笑う・・>
「あと・・松田さんとは・・どのように、いつから
友達なのですか?松田さんからはテイさんは
兄弟みたいなものだって」
「私は、1969年に神戸大学に留学しました。
同学面(トンシメン:同級生)に誘われて行きました
アルバイト。その仕事はゴミを埋めた山の上の
開発工事でした。うるさい恐い男達がいっぱいですよ。
私はその時はまだ日本語下手ですよ。
いつも恐い男に怒られます。その時、
優二さん逢いました」
「松田さんも一緒にその仕事をしていたのですか?」
「はい。しかし優二さんは少し違う仕事ですね。
でもいつも私たち留学生のアルバイトに親切でした。
だからいつの間にか恐い人達も
私達に優しくなりました。」
「松田さんがそうさせたのですね」
「多分そいです。優二さん1番こわいよ ハハハハハあ。
・・ある日私は優二さんに日本のお墓の話しをしました。
お墓の石の事です。私のおかあさんは福建省の出身で、
家は山の中に在りました。今その山はもうありません。
日本のお墓の石になりました」
「・・・・テイさんが・・松田さんが・・日本に
輸入した?という意味ですか?」
「あああーその話 聞いた事あるわあー!
墓に使う御影石でしょ!松田はんが関ヶ原と
四国のどっかの人らと!」
<・・少し妬いた・・ヒンは俺の
知らない事を知っている・・>
「あああーテイはん もしかして、俺
抱いて須磨の水族館に連れていってくれた人かぁ?」
「あああーそうですそうですよ!行きましたねー
ハハハハハあぁ 覚えてましたかあー」
「ハハハハハあ!テイはん はじめてちゃうやん!
・・はよ言うてくれたらええのにぃー」
「小馨が来る事は優二さんから聞いて
いましたが、あなたはもう私が知るシャオヒンでは
ありませんでしたので遠慮しました。
ハハハハハあぁ」
<羨ましいと感じたが、俺も嬉しくなっていた>
テイさんが続けた、
「あの石の仕事は大変でした。その仕事(石の輸入)
するな!ってもっと恐い人達がいっぱいです。
私は20歳、優二さん19歳ね。優二さんの親方が
凄かった。日本人、お墓大事ね。もちろん
中国人もそれは大事です。日本人は中国の御影石を
お墓に使うことは嫌ね。でも安いよ。硬さも充分ね。
つまり優二さんと親方は賢いのです。凄いのです。
今はどうですか?
多分もう半分は中国のものでしょう?」
「そら知らんけど、もう加工技術も中国に任してええ。
んで、更に安なったって松田はんが言うてはったわ」
<・・よくわからないがや同じ品質で安いなら
売れるのだろうと思った>
松田さんの話しをし出すと止まらないテイさん、
「ハハハハハあそうそう、逆も沢山ありました。
K重工のLow gradeステンレスを神戸から
中国に入れる時、中国は欲しいでも日本は
出すダメとか・・だからローグレードならOKね。
面白いね日本。買うというのに売らない。
でもそれが仕事(Business)ね。それを出来る
ようにするの優二さん上手ね」
<・・よくわからないが・・でも俺たちも>
「いろいろと松田んさんと・・いろいろと仕事を
ご一緒したのですね。・・
私にもできるでしょうか?」
<解らないながらも やりたい
と言う感情が先立った>
「できます。なぜなら、あなたもシャオヒンも
Senseあるね。朋友あるね。あとは、
みんなと・・みんなの意味は朋友より外の
人たちの事。つまり他人。つまりその他、
大勢の人ね。この人たちと仲間の違いを
感じてください」
「・・はい・・つまり・・・・」
<たぶんすごく大事な話をしてくれているのだ
と感じた。でも・・言葉を解く時間が欲しかった>
「ハハハハハあぁ だいじょぶダイジョブ」
「ハハハハハあぁ ソン、何を難しぃ話し
しとるんやぁー 飯 冷めるでぇー」
<ヒンの声と2人の笑い方はいつもリセット
させてくれる>
「そうだね。食べるよ。テイさんイリヤさん、
私は出来ることから頑張りますので
よろしくお願いします」
「フフフ 来来!吃飯 吃飯 !
彼女たちにも食べるあげるください」
「ハハハあ 昔話はいつでもしますね、
まだまだ沢山よ さぁ食べて食べて」
そんな折、日本からの電話という案内の
もとテイさんが受話器を持つ。
「優さん待ってましたよ・・・・そうですか。
早く動きましたね・・・・
はい。ではそうしましょう」
テイさんは今日一日のを説明していたが、
何やら松田さんにも動きがあった様子。
話をしながらホビスさんに大きくうなずいた。
「フフフ 明日は警備を帰らせるかな フフフ」
<普段にも増して笑顔のホビスさんを見て、
良い知らせであることは分った>
受話器を置きながらテイさんから、
「優さんは相手を落としました。
早ければ明日に契約ね」
「いいじゃん ですかぁーー!
ハハハハハあぁー」
「ハハハあー はいそうです。
オージャンない。いいじゃんねー」
「ハハハハハあぁーー」
そこは必ずハモル2人・・
<何が?日本で・・松田さんが・・
何があったのか?・・>
「あの・・でも・・なぜ日本に居る
松田さんが落とした?・・どういう意味ですか?」
「フフフ」
声に出してほころぶホビスさんはテイさんに
説明しなさい。と、言わんばかりにアゴを突き上げた。




