第9話 モブ商人は家族会議をする
「久し振りだな息子たちよ」
「2人とも元気だった?あら、お客様がいるの?」
玄関の扉から入って来たのはヘンソンの父親、サムソンと母モニカだった。
「おかえり、父さん母さん。帰ってきて早々で悪いんだけどヘンソンのことで話があるんだ」
ハリソンは両親に席に着くように促す。
「ふむ、聞こうか」
「あらあら、いい話かしら」
帰って来た両親を加え改めてハリソンはヘンソンに話を聞く。
「ヘンソン、お前が隠れてやっていることを教えてもらおうか」
「はい、実はですね…」
ヘンソンは将来学園には行かず『ヒノモト』へ行商の旅に出るべく資金集めをしていることを告白する。
「なるほど、ミーナさんはその護衛という訳か」
「はい!自分はヘンソンさんに仕えるために傭兵ギルドを脱退してきました」
「ヘンソン、凄いじゃないか。あの傭兵ギルドから優秀な傭兵を引き抜くだなんて」
「はは、僕としてはそんなつもりじゃなかったんですけど結果的にそうなっちゃいました」
「あら残念。ヘンソンのお嫁さんじゃなかったのね」
「母さん、ミーナさんに僕なんか釣り合わないよ」
「そんなことありません!ヘンソンさんは凄い人です」
「あらあら、まあまあ」
「んんっ!ところでヘンソン、その準備ってのは今どれくらい進んでいるんだ?」
脱線しそうなところでハリソンが仕切り直す。
「実は傭兵ギルドへの支払いで集めてた資金はほとんど使っちゃったから、また集め直さないといけないんだ」
「おい、大丈夫なのか?」
「うん、問題ないよ」
「まだ旅に必要な物は揃っていないんだろう?いくら護衛が必要だからといっても、もう少し何とかならなかったのか」
「ハリソン、それは違うぞ。ミーナさんを引き入れることがなにより最優先だった。そうだなヘンソン」
「はい、ミーナさんは今や傭兵ギルドのギルドマスターに次ぐ実力者ですので手持ちとちょっとで済んでラッキーでした」
「っ!ミーナさんはそんなに凄い人だったのか!」
「だからミーナさんがいれば何とかなると思うから大丈夫だよハリソン兄さん」
「お任せ下さい!ヘンソンさんの身の危険は自分が全て排除します!」
ミーナがいれば道中の危険はほぼないといってもいいだろう。
なのでヘンソンは旅の用意は最低限用意できれば何とかなると思っていた。
「しかしだな…」
しかしハリソンは納得いかない様子だ。そんな中、
「ふむ!決めたぞ」
サムソンが立ち上がる。
「ヘンソン、お前にはジムサンド商会から正式に『ヒノモト』の現地調査を依頼しよう!」
ヘンソンはサムソンから正式な仕事として『ヒノモト』行きを依頼される。
これによりジムサンド商会から資金援助を受けられるようになったヘンソンは『ヒノモト』行きの資金援助はもちろん、他にも旅に必要な物資の調達などもジムサンド商会から用意されることとなった。
「父さんいいの?」
「おい父さん、ウチにそこまでの余裕はないぞ」
ヘンソン、ハリソン共に疑問の声をあげる。
ジムサンド商会はそれなりの規模の店ではあるが『ヒノモト』までの旅の費用を出すとなると少し厳しい。
これはジムサンド商会がギリギリの経営をしているからではなく、単純に王都から『ヒノモト』まで距離が遠く、その旅路にかなりの金額を捻出しなければならないからだ。
だからヘンソンは今まで必死になって資金集めをしていた。
「なぁに心配はいらないさ。むしろそれだけでも足りないくらいだと私は思っている」
サムソンがヘンソンに出資しようと決めたのには理由があった。
商人にとって独自の仕入れルートを持つことは商売において大きなアドバンテージとなる。
それを1つ手に入れるだけでも大変なのに、ヘンソンは『カール農園』の他にも手に入りにくいアイテムなどを仕入れる独自のルートを複数持っているという。
そんな商人にとって一番の武器をヘンソンはジムサンド商会に全て譲ると言った。
これらは今後ジムサンド商会を発展させていく上で重要なものとなっていくだろう。
「ヘンソンからもらうコネクションは今後大きな利益を生み出す。だからその先行投資みたいなものだ」
「でも父さん、その管理はどうするのさ。この件に関しては下手な奴に任せられないぞ。俺や父さんは忙しいし」
「そこはニールソン兄さんにお願いしようかと思っています」
ヘンソンは次男ニールソンに引き継ぎを頼むつもりらしい。
次男ニールソン。現在は王都の学園に通っており、来年には学園を卒業する予定だ。
ニールソンはヘンソンと同じ鑑定スキルを持ちで、体力仕事は苦手だが学業の成績は優秀で聡明な生徒として学園での評判はとても良い。
「ニールソンにか。確かに適任かもしれないな」
ヘンソンは元々、王都での活動の後始末を全てニールソン押し付ける予定だったのでちょうどいい口実ができたと内心喜んでいた。
「確かにニールソンなら適任かもしれないな。俺はその案でいいと思う。父さんはどうだ?」
「ふむ、問題ない」
こうして本人不在の中、ニールソンがヘンソンの仕事を引き継ぐことに決定した。




