第8話 モブ商人は傭兵ギルドから引き抜きをする
ヘンソンが記憶を取り戻してから2年。12歳となったヘンソンだが、所持スキルは未だ鑑定スキルのみだけだった。
「ヘンソンさん、自分を傭兵ギルドから引き抜いてもらえませんか」
「はい?」
いつものように森の奥でミーナの訓練していると、ミーナから自分を傭兵ギルドから引き抜いて欲しいと言われる。
ミーナは現在傭兵ギルドから傭兵として一人前として認められている。
既に様々な依頼を受けられる状態なのだが、ヘンソンとの約束を優先するためそのほとんどを断っていた。
本来、まだ新人であるミーナのそんなわがままがまかり通るはずがないのだが、ヘンソンにより傭兵ギルドでも2番目の実力者となってしまったミーナに口出しできる者は誰もいなかった。
そのため現在の傭兵ギルドの空気は大変よろしくない感じになっているそうだ。
ミーナの引き抜き発言はもちろん本人の言葉であるのは間違いないが、その裏には傭兵ギルドからのメッセージが隠されているとヘンソンは判断した。
ミーナが急成長を遂げた原因のヘンソンにこの事態の落とし前をつけろと暗に言っているのだ。
「ミーナさん、傭兵ギルドに行きましょうか」
ヘンソンとしてはミーナを迎え入れることは大歓迎だ。しかし傭兵ギルド側とは一度きちんと話をしなければならない。
ヘンソンとミーナは傭兵ギルドに向かう。
「ようこそ傭兵ギルドへ」
「すみません、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「はい、ギルドマスターでしたら部屋におります」
ヘンソンは直接傭兵ギルドのギルドマスターと話をすることにした。
「おう、お前がヘンソンか。見た目は軟弱そうだが中々良い目をしてるじゃねぇか」
受付からそのまま通されたギルドマスターの部屋には大柄の男性が座っていた。
傭兵ギルドギルドマスター、バンバ。
無精髭で筋肉隆々のTHE荒くれ者という言葉が似合うバンバはその見た目通りの実力者でネームドキャラの1人。
使用キャラではないがイベント戦に助っ人として登場し、その強さはメインキャラに匹敵する程でギルドマスターの名に恥じない活躍をしていた。
そんなバンバに次ぐ実力者として名を連ねてしまったのが現在のミーナだった。
「お前さん、ウチの見習いの面倒を見てくれるんだってな」
「はい、ミーナさんには後々大きな仕事を頼みたいと思いまして。今の内からお手伝いをさせてもらっています」
バンバの圧のある言葉に怯むことなくヘンソンは答える。
「まぁそれ自体は問題ないんだがな、それにしても限度ってもんがあるだろうよ」
「はは、ミーナさんは優秀なのでお手伝いにもつい熱が入ってしまいまして」
「聞けばお前さんまだひよっこの商人見習いらしいな。一体どんな魔法を使ったんだ?」
「それは企業秘密ということで」
「ま、それについてはどうでもいいんだ。それより俺が言いたいことわかってるよな?」
ギロリとヘンソンを睨みつけるバンバ。
「はい、僕がやらかしたせいで強くなりすぎたミーナさんの扱いに困っているんですよね?」
「ヘンソンさん!?」
「ははっ、わかってるじゃねぇか。なら話は早い。お前さん、早くこいつを引き取ってくれねぇか」
「もちろんです。今日はそのお願いをしに来ましたので」
「俺としてはそのまま連れてってもらっても構わねぇんだがよ、しかしウチにも面子ってもんがある」
「わかっています。それで条件は何でしょうか?」
「まぁそんなに難しいもんじゃない。お前さんにとっちゃ簡単かもな」
バンバから提示されたミーナの引き抜き条件は多額のギルド脱退金を支払うことだった。
その日以降、ヘンソンは普段以上に金策に精を出すようになる。
バンバから提示されたギルド脱退金はかなりの金額であったが決して支払えない額ではなかった。
それに貯めていた資金はミーナを雇うために使う分も含まれているので今放出しても問題ない。
そして2週間後。
「そう時間はかからないとは思っていたがこんなに早いとはな」
「元々ミーナさんのためにお金は準備していましたので、ちょっと頑張ったらすぐでしたね」
「これだけの額を支払うってのにそんな軽口を叩けるなんて大物だな」
バンバの机の上には大きな袋がドンと乗っている。この中には入っているのは全て金貨だ。
『アイテム屋マーリン』に預けていた分を全て引き出し、足りない分は足で稼いできた。
結果、ヘンソンの持つ資金を全て吐き出すことになったが後悔はしていない。
「自分はミーナと言います。今日からお世話になります」
「ミーナさんよろしく、俺はヘンソンの兄のハリソンだ。ヘンソンには色々苦労すると思うだろうが面倒みてやってくれ」
無事傭兵ギルドを脱退したミーナはヘンソンの家に住み込みで働くこととなった。
表向きはジムサンド商会の専属護衛となっているが、契約はヘンソンと直接交わしている。
「でだ、ヘンソン。そろそろお前がやっている隠し事について話してもらおうか」
今までヘンソンの行動について目を瞑っていたハリソンだが、元傭兵のミーナを家に連れてきたことでヘンソンが何をするつもりなのか追及することにした。
「はい、実はですね…」
ヘンソンが話そうとした時、バンと玄関の扉が開く。
「ハリソン!ヘンソン!元気にしてたか」
「と、父さん!?」
ハリソンとヘンソンの父が帰ってきたのだった。




