第53話 モブ商人は扱いに困られる
「皆様、私めは所用があるため席を外します。トモエ、後は任せました」
シノブは何やら用事があるようでヘンソンたちとは別行動するようだ。
「…承った」
ヘンソンたちはトモエの案内でエビスの街の観光に向かう。
エビスの領主の屋敷。
先程までヘンソンたちがいた部屋。
エビスの領主ことヨシナカはヘンソンに渡された書状を見ていた。
書状の内容は簡潔に言うと、王国に属するある程度の地位にある者からヘンソンの身元を保証することが書かれている。
書状を書いたのはヘンソンの父サムソンの他、マーリンやバンバ、レオンハート公爵といった人物たちだ。
エビスはある意味ヒノモトの外敵からの防波堤の役割を担っている。
王国についてもある程度の情報は入ってきている。
ジムサンド商会の名は聞いたことはないが、サムソンの名は風の噂で聞いたことがある。
極一部の者たちから『王家の懐刀』と呼ばれている人物だ。
そんな人物の息子であるヘンソンがヒノモトにやってきたのには何か理由があるに違いない。
更に『王国の英雄』たちからだけでなくあの『人魚の国』からの書状を持つことから、ヘンソンは重大な使命を持ってこのヒノモトへやってきたのではないか。
ヨシナカはそう睨んでいた。
「失礼致します」
シノブが部屋にやってくる。
「おお、来たか」
シノブが言っていた所用はヨシナカに会うことだったようだ。
「率直に問おう、そなたから見てヘンソン殿はどういった人物だ?」
「はい、これまでヘンソン様と共に旅をしてきて…」
シノブはヘンソンと共に旅したこれまでのことをヨシナカに報告する。
「ふむ、そなたも中々面白い経験をしてきたようだな」
「はい。ヘンソン様には大変お世話になりました」
ヨシナカは内心驚いていた。
身内以外には厳しいあのシノブがどうやらヘンソンには心を許しているのだ。
「これは近い内にそなたの後任を探さねばなるやもしれぬな」
「お戯れを。姫様のお相手は私め以外には務まりません」
「おおっ、そうか。あいわかった」
軽い冗談のつもりがシノブの圧に思わず気圧されるヨシナカ。
ともかくヘンソンについては理由はどうあれヒノモトにとって益のある人物だということはわかった。
滞在の許可を出す方向で話を進めることに決めた。
「ところでだが、シノブよ」
「はい、何でございましょうか?」
「殿にこのことを伝えるべきであろうか?」
「いえ、今はまだ早計かと」
「そうであるか…」
ヨシナカはヘンソンのことをヒノモトの上役に話すべきかシノブに相談するが、シノブからは難色を示された。
「…それにヘンソン様は放っておいても無自覚に注目を集めるお方なので遅かれ早かれその名は国中に広まることになるでしょう」
シノブのその言葉の通りヘンソンはエビスの街で騒ぎを起こしていた。




