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モブ商人は生き残りたい  作者: わたがし名人


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第5話 モブ商人は兄と乗馬の練習をする



「ヘンソンが俺に頼み事なんて珍しいな」


 ヘンソンは今、長男のハリソンと共に王都にある馬の厩舎に来ていた。


 ここにはジムサンド商会の馬も預けてあり、ヘンソンは乗馬の練習のため兄ハリソンと共に厩舎に来ていた。




 ヘンソンが記憶を取り戻してから1年が過ぎた。


 ヘンソンは相変わらず露店を巡りつつ、マーリンの依頼をこなす日々を過ごしていた。


 順調に資金は集まっており、次のステップとして旅に出るための準備も始めることにした。



 旅に出るからには馬車が必要で、当然自分で馬に操れるようにならなくてはいけない。


 ミーナに任せる案というもあるが、彼女は傭兵なので護衛をメインに据えたい。


 それに商人を名乗るからには馬くらいは自分で操れないと格好がつかない。


 その練習をするにあたりせっかくなので先輩商人である兄ハリソンを頼ることにした。



 長男のハリソンは父からジムサンド商会を継ぎ、商会長として日夜奮闘している。


 ハリソンはまだ若手ではあるが既に父と遜色ない仕事振りを発揮している。


 ちなみに現在両親は他の領地に支店を出すべく実地調査に各地を回っており、次男は王都の学園の寮で生活している。


 商会で雇っている従業員は皆王都住みで家からの通いなので、現在家ではハリソンとヘンソンの2人で生活している。


 ちなみにハリソンにはいくつか縁談がきているらしいが、本人はまだ結婚するつもりはないそうだ。




「ハリソン兄さん、店を放っておいて本当に大丈夫なの?」


「ああ問題ない。今は大きな商談もないからな。それよりもヘンソンの頼み事に応える方が大事だ」


 記憶を取り戻して以降のヘンソンは家の手伝いや食事以外の時間はほとんど家を空け動き回っていた。


 ハリソンはヘンソンが1人で何か始めていることは知っているが、ハリソンをはじめジムサンド商会に頼る事なく動いているので様子を見守ることにしていた。


 そんなヘンソンから初めてともいえる頼み事。


 そんなレアイベントに応えない訳が無い。理由を話すとジムサンド商会の面々も快く送り出してくれた。




「王都にこんな場所があったんだね」


「ここは王都で一番の厩舎で本来ならウチみたいな中堅商会が入れる場所じゃないんだけどな。親父が色々頑張ったらしいぞ」


 ヘンソンたちがやってきた厩舎は王都の中で一番の厩舎であり主に貴族や騎士団が利用する所だけあり、馬が駆け回れるよう広い放牧地が隣接している。


 この厩舎を利用できる商会はごく僅かでその1つにジムサンド商会が含まれていた。


 本来ならばジムサンド商会のような中堅商会が立ち入れる場所ではないのだが、僅か一代で王都で通用する商会を立ち上げた父は各所に顔が利くらしくこの厩舎を利用することができるのだという。


 父の偉大さを改めて知るヘンソン。




「こいつがウチの馬だ」


 厩舎内にいるジムサンド商会の馬に会う。


 手入れが行き届いておりとても健康的な馬だ。


「早速外に出て練習するか」


 馬を連れ放牧地へ向かう。


「それじゃあヘンソン、早速乗ってみようか」


「わかった」


 ヘンソンの乗馬経験は小さい頃に父と一緒に乗ったくらいで、本格的に1人で乗るのは初めた。



「中々良い感じだな。次は馬車を使ってやってみようか」


 ヘンソンの乗馬の練習は順調で次に馬車を使い練習をするようだ。




「まいったなぁ」


「昨日はあんなに元気だったのに」


 ヘンソンたちが一度厩舎に戻ると厩舎の職員たちが何やら困っている様子だ。


「どうしたんですか?」


 ハリソンが厩舎の職員たちに声をかける。


「この子の調子が良くないみたいなんだよ。食事を全然取らなくてさ」


「昨日はそんなことなかったんだけど今朝から様子がおかしいんだ」


 ヘンソンが馬房を覗き込むと1頭の馬が元気なさそうに横たわっていた。


 厩舎の職員たちには馬の不調の原因に心当たりがないとのこと。


「病気って感じでもないし原因がわからなくて困っているんだよ」


「明日にはこの子の主人が来るってのに。このままじゃだと俺たちクビになっちまうかもしれない」



 馬を知り尽くしている厩舎の職員でもわからない馬の不調。


 ヘンソンは横たわっている馬をこっそりと鑑定してみる。


 するとその馬はとある状態異常にかかっていた。


「あの、その馬の不調の原因がわかったかもしれません」


「本当か!」


「先に謝っておきます。その馬を勝手に鑑定しました」


「君、鑑定が使えるのか。それよりも原因は何だったんだ?」


「いつ受けたのかわかりませんが、その馬には弱体化の状態異常が出ています」


 馬のステータスには弱体化の状態異常が表示されていた。


「それで何をしたら治るんだい?」


「ある薬草を与えれば完治しますがここにありますか?」


 馬の受けている弱体化の状態異常はとある薬草を与えれば完治するのだが、


「ここにはないな」


「そんな薬草聞いたことないな。あんた、確か商人だったよな。持ってないか?」


 厩舎の職員がハリソンに聞くも、


「申し訳ありません。ウチでは取り扱っていない薬草ですね」


 どうやらジムサンド商会では取り扱いのない薬草のようだ。


「あの、僕その薬草のある場所知っているので持ってきますね」


 ヘンソンはそういうと厩舎から飛び出していった。




 しばらくして、


「持ってきました」


 ヘンソンが戻ってくる。


「君がこの馬を鑑定したという少年かね?」


「はいそうです」


 先程はいなかった老人がヘンソンに問いかける。


「ふむ、なるほど。君の鑑定レベルはかなり高いようだね」


 どうやら老人はヘンソンのステータスを確認したらしい。


「君の言う通りこの馬は弱体化の状態異常にかかっている。それで持ってきた薬草を見せてくれないかね」


「はいどうぞ」


 ヘンソンは持ってきた薬草を老人に手渡す。


「ふむ、確かにこれなら治せるだろう。さぁこれを食べるんだ」


 老人は馬に受け取った薬草を食べさせる。


 すると横たわっていた馬は徐々に立ち上がり、


「ブルル」


 元気になりお腹が空いたのか置いてあったご飯を食べ始める。


「おおっ!」


「よかった、元気になった」


 厩舎の職員たちは一安心する。


「では僕たちはこれで失礼します。ハリソン兄さん行こう」


 ヘンソンたちは去っていく。




「ふむ、ジムサンド商会か。注目すべきは父親だけかと思っていたが、どうやら息子にも目を配った方が良いのかもしれないな」


 老人が呟く。


「ところで君たち、この馬は昨日までは問題なかったというが、他に誰かここに来たりしたかね?」


 老人は厩舎の職員たちに尋ねる。


「今朝方厩舎に来た貴族の方がいましたが、ここに入ったかまではわかりません」


「ふむ、そうですか」


 おそらく『お嬢様』が可愛がっているこの馬を狙ったどこぞの馬の骨がちょっかいをかけてきたといったところか。


 幸い先程の少年のおかげで大事には至らなかったが、ちょっかいをかけた者たちにはしっかり落とし前をつけてもらおう。


 老人は厩舎を後にした。



 その後、とある貴族が横領賄賂といった数々の不正行為により爵位を剥奪された。





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