第42話 モブ商人はクラーケンを討伐する
バリスタから放たれた矢はクラーケンに直撃する。
轟音と共にクラーケンの周囲に水しぶきがあがる。
アラヤがクラーケンの状態を確認すると、
「よし、効いてるぞ!」
バリスタの矢はクラーケンに大きなダメージを与えることに成功する。
「皆さん、次の矢を放ってください!」
ビビたちは1度目の矢を放った直後すぐに次の矢の装填を準備していた。
続けざまにバリスタから矢が放たれる。
矢は先程同様クラーケンに一直線へ向かう。
しかし、
「受け止めただと!?」
クラーケンは大きな2本の触腕で矢を受け止める。
先の攻撃で脅威を感じたのかクラーケンはバリスタの矢にしっかり対応してきた。
「姐さん、どうしますか?」
「えと、あのちょっと待ってください」
ビビはヘンソンの元へ向かう。
「ヘンソン君どうしよう、バリスタの矢が止められちゃったよ」
ビビがヘンソンの元へ戦況を伝えに来た。ヘンソンはこんな状況でもアクアたちのライブを鑑賞していた。
「やっぱり通常の矢じゃ倒しきれなかったか。うん、これくらいバフがかかればいけるかな。ビビ、マルコに船に戻るように伝えて」
「うん、わかった」
ビビは赤い煙の発煙筒でマルコに船に戻るように合図を出す。
「ヘンソンさん戻りました」
ミーナを乗せたマルコが戻ってくる。
「おかえりなさいミーナさん、マルコ」
応援法被にハチマキ、体中にベルトで固定したペンライトを巻き付けたライブ鑑賞装備のヘンソンが出迎える。
「マルコ、戻ってきたばかりで悪いけどもう一仕事付き合ってね」
マルコはコクリと頷く。
「皆さん、準備お願いします」
そう言うとヘンソンはマルコに抱きつくような体制で乗る。
「うん、しっかりバフがかかってる」
「ヘンソン君、本当に大丈夫?」
「うん、テストで問題なかったから大丈夫だよ」
「ヘンソンさん準備できました」
「ミーナさんありがとうございます。マルコ、行こうか」
ヘンソンを乗せたマルコはバリスタの上に移動する。
どうやらバリスタを使いマルコを直接クラーケンにぶつけるつもりようだが、何故ヘンソンがマルコに乗る必要があるのか?
危険なことを嫌うヘンソンらしくない行動だ。
しかしそれにはちゃんとした理由がある。
アクアたち人魚の歌スキルにはある条件が揃うことで特殊なバフ効果が発生する。
まず歌スキル使用者はアイドル衣装を装備しライブステージで歌う。そしてバフを受ける対象者はライブ鑑賞装備を着用し、更に戦闘には一切参加せずライブを鑑賞し続けることで特殊なバフが受けられるというものだ。
これはゲーム時代、『トップオタ』『オタの鏡』と呼ばれたものだ。発生条件はふざけているがその効果は馬鹿にできないほど強力で、使うタイミング次第ではレイドモンスターをワンパンできるほどのバフがかかる。
現在そのバフはヘンソンにかかっており、ヘンソンがマルコに乗ることでマルコも同様の恩恵を受けることができる。
つまりヘンソンはマルコの強化パーツとして必要なのだ。
「ヘンソンさん、マルコ、いきます」
ミーナがバリスタを起動させる。
マルコの体が赤く輝きはじめる。
そしてバリスタからヘンソンを乗せたマルコが弾丸のように飛び出す。
赤く輝く弾丸は先程の矢よりも早く瞬く間にクラーケンへと直撃する。
クラーケンは反応することもできずマルコの渾身の体当たりを受ける。
マルコの勢いは落ちることなくクラーケンの体を貫く。
ぽっかりと空いたクラーケンの体から砕けた石のようなものが見えたかと思うと、クラーケンはぐらりと倒れる。
「マジか…、あいつらやりやがった」
アラヤは当初ヘンソンの作戦を聞いたとき正気を疑った。戦闘スキルを持たないヘンソン自ら前線に立つというのだ。
本人はただのサポート役で何もしないというが、実際は体を張った危険を伴う役回りだ。
バンバからの手紙にはヘンソンの好きにやらせた方が上手くいくと書かれていたので半信半疑で任せてみたがその通りの結果になった。
「そりゃバンバとマーリンが認めるわけだ」
アラヤはバンバの他にもマーリンとも旧知の仲でマーリンからも手紙が届いており、手紙はバンバと似たような内容だった。
「よっしゃ、野郎共!帰ったら盛大に宴を開くぞ!」
おそらくヘンソンは嫌がるだろうが今回の主役は彼らだ。存分にもてなすことにしよう。
こうしてヘンソンたちはクラーケンの討伐に成功した。




