第41話 モブ商人はライブ鑑賞を楽しむ
「みんな、いっくよー♪」
アクアの合図でライブが始まる。
音楽が流れ、ステージがライトアップされる。
煌びやかなステージの上でアクアたちは見事な歌とダンスを披露する。
今回のクラーケン討伐では人数よりもバフデバフが重要だとヘンソンは考えていた。
クラーケンには再生能力があり、小手先の攻撃は通用しない。倒すにはクラーケンの弱体化と強力な攻撃手段が必要だった。
ヘンソンは今回の戦いのメインにアクアたちのスキルと『とある武装』の2つを採用した。
アクアを筆頭に一糸乱れぬパフォーマンスをステージの上で披露する人魚たち。
彼女たちはゲーム時代、アクアのスキル演出で登場した人魚たちだ。ヘンソンは彼女たちを演出の一部だと思っていたが、現実には実在していた。
ヘンソンは他に同じスキルを持つ人魚がいないかアクアに聞いたところ、やってきたのがアクアの後ろで踊る彼女たちだった。
彼女たちはアクアと同じスキルを持ち、ゲーム演出のモブではなく、この世界で生きる住人として1人1人存在していた。
どこか心の中でこの世界のことをゲームと同じだと思っていたヘンソンは反省した。
「ハイッ!ハイッ!」
そんな反省の現れかどうかはわからないが、アクアたちのステージに熱の入ったコールを入れるヘンソン。
実はアクアたちが今歌っている曲はヘンソンの一番のお気に入りで、作戦準備期間に皆にコール表を配り、コール練習の予定まで考えたところで本来の目的はクラーケン討伐だったことを思い出し暴走は未遂に終わった。
実際ライブを見る余裕があるのはこの戦いで出番のないヘンソンくらいで他に観客はいない。
それでもアクアたちは戦う皆のために歌い続けていた。
ライブに夢中になっているヘンソンを余所に他の面々は準備を進めていく。
「野郎共、行くぞ!」
「「「おうっ!」」」
水上バイクに乗り込んだアラヤたちが船から出発する。
アラヤたちにはアクアたちの歌とヘンソンの用意した応援法被の効果でたくさんの強化バフがかかっている。
「マルコ、自分たちも行きましょう」
「ミーナさん、マルコ頑張ってください」
マルコに乗ったミーナも出発する。
アラヤたちの向かう先には山のような大きな影が見える。クラーケンだ。
近づくにつれ、その姿ははっきりと確認できるようになる。島のようなサイズのイカがアラヤたちを待ち構える。
クラーケンはアラヤたちを認識すると2本の触腕を動かし攻撃を始める。
「おっ、イカ野郎の動きがいつもより鈍いな。そんで俺たちの身体は絶好調だ。これがアクアの嬢ちゃんの力ってやつか」
アラヤたちはクラーケンの攻撃をかわしながら船に近づけないよう牽制する。
「マルコ、自分たちも続きましょう!『カマイタチ』!」
マルコとミーナも空中からアラヤたちを援護する。
「私めもおりますのをお忘れなく。『乱れ斬り』」
シノブは忍術で直接水上を走り、クラーケンの周りを駆けまわる。
一見すると順調にダメージを与えているように見えるが、クラーケンにはほとんど効いていない。
しかしそれで問題ない。彼らはあくまで囮役であり本命の攻撃は別にあるのだ。
「み、皆さん、準備お願いします!」
「わかりました、姐さん!」
「うぅ、やっぱり恥ずかしいよ…」
ビビが残った船員たちに指示を出すと、船員たちは船首の上で作業を始める。
今回オケアノスのために用意したアイテムや装備類のほとんどはビビが作成したもので、それを知ったオケアノスの面々はビビのことを姐さんと呼び、慕うようになった。
それを知ったヘンソンは自分が仕切るよりビビに任せた方が上手くいきそうだと思い、船員たちへの指示をビビにしてもらうことにした。
そして手の空いたヘンソンはアクアたちのライブを独り占めしていたのだった。
組み上げられていくのは船首からはみ出すくらいの大きなバリスタ。
そしてバリスタは完全に展開される。
「姐さん!準備できましたぜ!」
「は、はい。合図を出しますのでセットしてください」
「了解!」
船員たちは丸太のような矢をバリスタにセットする。
ビビは発煙筒を取り出し使用する。船から大きな煙が立ち上ると、
「おっ、準備ができたか。野郎共!船の正面から離れろ!」
船からの合図に気付いたアラヤが指示を飛ばす。アラヤたちは散り散りになりクラーケンと船の射線を開ける。
「姐さん、いつでもいけます!」
「お願いします!」
バリスタから矢が放たれ一直線にクラーケンへと向かっていく。
そして矢は見事クラーケンに直撃する。




