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モブ商人は生き残りたい  作者: わたがし名人


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第34話 モブ商人は精霊王に貢ぎ物を差し出す



「皆、ついたよ!」


 しばらく森の中を進んでいたヘンソンたち。フィーナが立ち止まり目的地についたとヘンソンたちに知らせる。



 ついた場所は一見何もないように見えるが、


「皆さんいらっしゃいませ~、フィーナちゃんもお疲れ様~」


 何もない空間から1人の女性が現れる。


「お姉ちゃん!」


 おっとりした女性はフィーナの姉、フェリス。精霊王の巫女を務めるサブヒロインだ。


 彼女がいるということは、


「モッ!」


 フェリスの後ろからトコトコ現れた1匹のマーモット。


「あっ、ココ様が自分で歩くなんて珍しい」


「ココ様なんだか張り切っているのよ~」


「モッ、モッ」


 ヘンソンに向かって手をあげるマーモットことココ様。


「あっ、どうもはじめまして」


 ヘンソンはココ様と握手する。


「すごーい!お姉ちゃん、ココ様が自分から挨拶するなんてはじめてなんじゃないかな?」


「そうねぇ~、里の皆が知ったらきっとびっくりしちゃうからフィーナちゃん、内緒にしておきましょうねぇ~」


「うん、わかった!」


 ヘンソンが握手しているこのマーモットはただのマーモットではない。彼こそがエルフを守護する偉大な精霊王、ココ様なのだ。




 ヘンソンたちが連れてこられたのはエルフの里から離れた場所にある精霊王をまつる祠のある場所。


 フェリスに案内されヘンソンたちは奥へと進む。透明な薄い膜のようなものをくぐると、目の前には色とりどりの花々が咲き誇り、清浄な空気に包まれた幻想的な場所に出る。


「わぁ、キレイ」


「森の中なのにとても静かです」


「なんだか王城にある庭園に似ていますね」


「それはですね~、ここを参考にしているからですよ~」


「それは初耳です。ということは昔ここに王家の方々がいらっしゃったことがあるのですか?」


「そうですよ~、おばあちゃんが若い頃にいらしたことがあるっていってましたねぇ~」


 フェリスの話によると昔、精霊王の祠に王族が訪れたことがあるのだという。これはヘンソンも知らない情報だ。確かに王城にある庭園とこの場所が似ているという指摘はあったが、ただの使い回しではないかというのが大多数の意見だった。


 公式からの回答もなかったので真相は闇の中だったが、まさかこんなところで新事実を知ることになろうとは。




「モッ!」


 祠の中にある座布団に座るココ様。


「それでここに連れてこられた理由を聞いてもいいでしょうか?」


 ヘンソンは本題を切り出す。


「それはですねぇ~、あなたの持つとある物をココ様が欲しいそうですよ~」



 フェリスが言うにはヘンソンの持つあるアイテムをココ様は所望しているとのこと。


 そんなものを持っていたかと考えていると、


「ヘンソン君、アレじゃないかな?」


「アレって?」


「ほら、あの果物の形をしたキレイな宝石だよ」


「ああっ!」


 ここでようやくヘンソンは思い出す。


 フェリスを連れ出すためにとあるアイテムを用意したのだ。



「えっと、これですよね?」


 ヘンソンが取り出したのはリンゴの形をした宝石。


 このアイテムはフルーツ宝石とよばれるもので精霊が好むアイテムである。


「モモっ!」


 ココ様はジッとヘンソンの持つフルーツ宝石を見つめる。


「あらあら~。ココ様、ヨダレが垂れていますよ~」


 ハンカチでココ様の口元を拭うフェリス。


「はいどうぞ」


 ヘンソンはフルーツ宝石をココ様に手渡す。


 ココ様はむしゃむしゃと一心不乱にリンゴ型のフルーツ宝石を食べ始める。不思議なことに宝石であるはずなのにココ様がかじる度に果汁があふれ、ココ様の手や口は果汁でベタベタになっていた。



「モッ!」


 フルーツ宝石を食べ終えたココ様は満足したのかペタンとその場に座り込む。


「もう~ココ様、こんなに汚して~。ほらキレイにしましょうね~」


 フェリスが果汁まみれのココ様の体を拭く。



「あの~、それで満足していただけたでしょうか?」


 ヘンソンが尋ねると、


「モッ、モモッ!」


「ふむふむ。え~と、持っている分全部欲しいそうです~」


 ココ様はヘンソンが持つ全てのフルーツ宝石を所望した。


「はい、いいですよ」


 ヘンソンは持っている分全部のフルーツ宝石を渡すことに決めた。


 元々渡すつもりのものであったし、今後使う必要もないものだ。ここで変に断って余計なトラブルを招くのは避けたい。



 ヘンソンは様々な果物の形をしたフルーツ宝石の山をフェリスに渡す。


「わぁ~、こんなにたくさんいいんですか~。ありがとうございます~」


「モッモッ!」


 フェリスの後ろで小躍りするココ様。


「よかったねココ様。でもちゃんとお礼をしなきゃダメだよ」


「モッ」


 フィーナにそう言われたココ様はヘンソンをじっと見る。


「えーっと、お礼の言葉だけで十分ですよ」


 特に欲しいものがないヘンソンは気持ちだけ受け取っておくことにした。


「モモッ!」


「そうですよね~、こんなにもらって何もしないのは精霊王の沽券に関わりますよね~」


 どうやら何か希望しないとダメなようだ。ヘンソンとしてはすぐにでもここを出たいのだが。


「では今後王都がピンチになった時は助けてください」


 ヘンソンは妥協案として王都に危機が迫った際は協力してもらうことを希望した。




「では僕たちはこれで失礼します」


 結界から解放されたヘンソンたちは再び魔導船に乗り出発する。


「ばいばーい!それにしても空飛ぶ船なんて凄いねお姉ちゃん」


「そうね~、空飛ぶ豚ちゃんなんて初めて見たわ~」


「王都に行ったらああいうのがいっぱいあるのかな?学園に行くのが楽しみになってきたよ!」


 ヘンソンたちを見て王都への期待を膨らませるフィーナ。



「モッ!」


「ココ様、フルーツ宝石は1日1個までですよ~」


 フルーツ宝石に手を出そうとしたココ様だがフェリスにたしなめられる。



「…それにしても希少なフルーツ宝石をあれだけ集めて何をするつもりだったのでしょうか?ただの収集?それにしてはあっさり譲ってくださいましたし…」


「お姉ちゃん、どうかしたの?」


「いえ、なんでもありませんよ~」



 食い意地が張っているとはいえ精霊王であるココ様が直接会うくらいだ。ヘンソンたちが善人であることは間違いないだろう。しかしエルフである自分とフィーナに驚くこともなかったし、ダークエルフの少女を連れていたりと色々と謎が多い。


 秘密はきっと彼にあるのだろう。


 ここは1つ王都に居る旧友に久しぶりに連絡をとってみることにしよう。



 こうしてまたヘンソンは自身の知らぬところで新たなフラグを立てるのであった。




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