第29話 モブ商人はピンチに陥る
エミリーの治療をしてから数日。
「それじゃあマルコ、行こうか」
ヘンソンはマルコと共に街の外に来ていた。
あれからビビたちはすっかりブランに夢中で、しばらくはレオンハート領から離れることはなさそうだった。
まぁ急ぐ旅でもないので問題はないのだが、ヘンソンは暇になってしまった。
ここでの目的であったエミリーの治療は済み、物資の調達なども終わっていたので特にやることがなかった。
「マルコ、いる?」
ヘンソンはマルコがいる小屋へやってきた。
マルコは現在ヴァイスと同じ小屋で過ごしている。
今までマルコはヘンソンから離れることがなかったので驚いたが、ヘンソンはマルコに仲の良い友達ができたことを喜んだ。
「マルコちょっと外まで散歩に行かない?」
ヘンソンの問いにマルコが頷く。すると隣にいたヴァイスも嘶く。
「ヴァイスも一緒に行きたいの?エリカさんに聞いてみるからちょっと待ってて」
「ヘンソンさんお待たせいたしました、ですわ!さぁ行きましょう!」
エリカとヴァイスが遅れてやってきた。
エリカに外出することとそれにヴァイスが同行したいということを伝えると喜んで了承してくれた。
街の周囲であることとエリカが一緒にいるということで外出許可はすぐに下りた。
マルコとヴァイスは草原を伸び伸びと駆ける。
ヘンソンはあまりマルコに乗らないのでこのように駆け回る機会が少なかった。
楽しそうにしているマルコを見てヘンソンは、マルコのためにも今後はなるべくマルコに乗るようにしようと思った。
はじめは楽しそうに駆けていたマルコとヴァイスだったが、だんだんヒートアップしていきスピードを上げていく。
「ちょっとマルコ、スピードを落として」
「ヴァイス、もっと速度を上げなさい、ですわ!」
ビビるヘンソンとは対照的にエリカはヴァイスたちにつられるようにテンションは上がっていた。
そのままマルコとヴァイスは競うように駆けていく。そして、
「ふぅ、ずいぶんと遠くまで来ちゃったなぁ」
「中々楽しかったですわ!」
満足した様子のマルコとヴァイスは仲良く休んでいる。
街の周囲を軽く周るだけのつもりが気がつくと街から大分離れた場所にきてしまった。
しかしマルコたちは満足しているし、ヘンソンもいい気分転換になったので結果オーライとすることにした。
「もう少し休憩したら戻りましょうか。ん?」
「ヘンソンさん!何か近づいてきます、ですわ!」
ヘンソンたちの元に何かが近づいてくる。
すぐさま戦闘準備をとるエリカ。マルコとヴァイスも警戒する。
「皆、上からきます!」
ヘンソンが注意を促す。
空から近づいてくるものの姿が徐々に明らかになる。
「あれはグリフォンですわ!」
現れたのはグリフォン。本来この辺りには現れない強力なモンスターだ。
「エリカさん、グリフォンってこの辺りにいましたっけ?」
「いえ、そんな話は聞いておりませんですわ」
どうやらグリフォンはどこからかやってきたらしい。
何故グリフォンがやってきたのか?それを考えている余裕はヘンソンにはなかった。
何故ならヘンソンたちの現在の状況はピンチだったからだ。というのもエリカには遠距離攻撃がなく、当然ヘンソンには攻撃手段がない。そのため空を飛ぶグリフォンに対抗する術がないのだ。
グリフォンは空から風魔法を発動させる。
「っ!エリカさん!」
「任せてください、ですわ!『聖騎士の守り』!」
エリカがヘンソンたちの前に立ちグリフォンが放つ風の刃を受け止める。
特訓してスキルレベルの上がったエリカであればこの程度の攻撃は問題なく防げる。だが、
「このままではジリ貧ですわ!」
「何か、何か攻撃が届く方法を…」
ヘンソンは必死に考えるが、慌てているせいで考えが纏まらない。
今までヘンソンは常に余裕を持って行動していたため、このような突発的な状況に陥ったことが一度もなかった。
焦れば焦る程、思考が鈍っていく。
その間にもグリフォンの攻撃は続き、そして攻撃は激しさを増す。グリフォンは安全圏から決して動くことはなく空中から風魔法を放ち続ける。
近づけばエリカに敵わないことに気付いているようだった。
激しいグリフォンの攻撃に徐々にエリカのシールドが削られていく。
「ヘンソンさん、マルコ。今のうちに逃げてください、ですわ。…ヴァイス、貴方も一緒に行きなさい」
「でもエリカさんを置いていけません」
「わたくし1人ならなんとかなりますですわ!」
確かにエリカだけならグリフォンの攻撃に耐えることができるだろう。しかし本当にそれでいいのだろうか?今のヘンソンには冷静な判断ができない。
「早くするのですわ!っ、ヴァイス何故座り込むのですわ。貴方も逃げるのですわ!」
ヴァイスはその場に座り込んだ。どうやらエリカと共に残るつもりのようだ。
「僕もここに残ります!マルコもいいよね?」
そんなヴァイスを見たヘンソンはこの場に残る決断をする。マルコもヘンソンの言葉に頷く。
「ふぅ、仕方ありませんですわね。さぁ根比べといきます、ですわ!」
エリカはこのままグリフォンの魔力切れを待つことを決めたようだ。
「何か、何かあるはず」
ヘンソンはマジックバッグから使えるものがないか手当たり次第に取り出しはじめる。
「あっ、マズいですわ」
攻撃が通らないことに苛立ったグリフォンは範囲攻撃の準備をする。
その攻撃はエリカのスキルではヘンソンたちを守ることができないものだった。
「エリカさん!一か八かこれを使います」
ヘンソンは大量の『ウシミツ君』を取り出す。グリフォンの攻撃を『ウシミツ君』で防げないか賭けに出たのだ。
ワラワラと『ウシミツ君』がグリフォンの元に歩き始めたその時、
「『ライトニング』」
突如、稲妻がグリフォンに落ちる。
「何事ですわ?」
「誰かがグリフォンに攻撃したみたいです」
ヘンソンが周囲を確認するとグリフォンの遥か後方から魔法が放たれていた。
稲妻を受けたグリフォンは地に落ちるとそのまま動かなくなる。
わずか一撃でグリフォンは倒れたのだ。
「凄いですわ!たった一撃でグリフォンを倒すだなんて」
魔法耐性の高いグリフォンを魔法でしかも一撃で倒したことに驚くエリカ。
「やーっと倒れたわね!ふぅ、たかだかグリフォン相手に手間取るだなんて私もまだまだね」
魔法を放った人物はいつの間にかグリフォンの近くに立っていた。
ヘンソンたちが駆け寄ると見知った人物がそこにいた。
「リリィさん!」
「あらヘンソンじゃない、久しぶりね」
その人物は紫電の魔女こと、リリィだった。




