第28話 モブ商人は令嬢騎士の妹を治療する
「ヘンソンさんよろしくお願いします」
「ではエミリーさん少しの間じっとしていてください」
ヘンソンはエミリーの部屋にて、エミリーの鑑定を始める。
エリカの指導から数日。
「ヘンソンさん、エミリーのことなんですが…」
ヘンソンはエミリーが生まれつき魔力欠乏症という病にかかっていることをエリカから聞く。
魔力欠乏症は一度に魔力を大量消費することで起きる症状だが、ごく稀に生まれつきの体質として現れることがある。
エミリーの場合は、魔力の量が生まれつき少ないことが魔力欠乏症の原因となっているとのこと。
現在この世界では、体質的な問題の魔力欠乏症の治療法はまだ見つかっていない。
そこでエリカは高い鑑定スキルを持ち、様々な知識を持つヘンソンに相談を持ちかけた。
実はヘンソンはエミリーの魔力欠乏症の原因が別にあることを知っている。
ゲーム時代、エリカのルートに進むとエミリーを治療するイベントが発生する。
そのイベントではエミリーは魔力欠乏症にかかっていると思われたが実は違うというものだった。
そしてそれは今の状況と全く同じだった。おそらくイベントが発生したのだろう。
ヘンソンは早速エミリーを鑑定したところ、ゲームの時と同じくエミリーにはとある精霊が取り憑いていた。
「うん、これならなんとかなりそうですね」
「本当ですか!」
ヘンソンの言葉にエミリーが思わず大きな声を出す。
「あっ、すみません大声を出してしまって。それでわたしの病気は治るのでしょうか?」
「まず最初に説明しておきますと、エミリーさんの症状は魔力欠乏症ではありません」
「え、違うのですか?」
「はい、症状は魔力欠乏症と似ていますが、原因は別にあります。そして僕は解決する方法を知っています」
「ヘンソンさん、その方法とは何でしょうか?」
「これを使います」
ヘンソンが取り出したのは宝石のようなものだった。
「エミリーさん、準備はいいですか?」
「はい、いつでもどうぞ」
「ではいきます」
ヘンソンは先程の宝石のようなものをエミリーの額に当てる。
するとエミリーの全身が光りだし、その光は宝石へと吸い込まれていく。
「これで完了です。エミリーさん、調子はどうですか?」
「はい、なんだか身体が軽くなったような気がします」
ヘンソンはエミリーを改めて鑑定すると取り憑いていた精霊は消え、そして宝石には精霊が宿っていた。
エミリーに取り憑いていた精霊を宝石に無事移すことに成功したようだ。
「今は実感できないかもしれませんが、これから徐々に体調が良くなっていくはずです」
「ヘンソンさん、ありがとうございます!」
「まぁ、ふわふわですわ!」
エミリーの膝の上で毛づくろいする白いオコジョにエリカが優しく触れる。
「お姉様、あまり騒がしくしますとブランが逃げてしまいますよ」
この白いオコジョはエミリーに取り憑いていた精霊が実体化した姿だ。
あの後エミリーは宝石に移った精霊と契約を交わすことに成功し、ブランと名付けた。
今までエミリーが魔力欠乏症に近い症状に陥っていた原因はこの上位精霊であるブランが直接身体に取り憑いていたからだった。
ヘンソンは使った宝石のようなアイテムは精霊を宿すことができるもので、これを使うことでエミリーの身体からブランを解放したのだ。
精霊とはある程度意思疎通ができるのでブランに事情を聞くことができた。するとブランがエミリーに取り憑いたのは事故みたいなものでブランの意思ではないという。
そのためブラン自身もエミリーから離れる方法がわからず困っていたのだ。
ブランからいきさつを聞いたエミリーはブランを責めることなく、自身とブランの問題が共に解決したことを喜んだ。
そんなエミリーを気に入ったブランはエミリーと契約を交わした。
ブランの見た目は白いオコジョなのでエリカをはじめとする女子たちはメロメロになっていた。
チヤホヤされているブランもまんざらではない様子だ。
しかしこんな愛らしい見た目だがブランは上位精霊なのでかなり強い。
そしてそんなブランと契約したエミリーも潜在能力値が高い。
上位精霊であるブランに取り憑かれるだけの魔力を元々所持しており、それが元に戻った上に、正式に契約した上位精霊ブランの力を借りられるのだ。
実際ゲーム時代でもエミリーを治療した後のイベント戦闘でエミリーが活躍する場面を見ることができたが、プレイヤーが育てたキャラ並に強かった記憶がある。
突発的にエリカと出会いこのような形にはなったが、実はヘンソンは元々エミリーの治療を行なう予定だった。
エミリーを治療することで王都周りの戦力は底上げされるからだ。
いずれ王都内で起こるであろう出来事に対処できる人材は多いに越したことはない。
ヘンソンは旅の途中で出会えるキーキャラにはできるだけ出会い関係を結ぶことを目標としていた。エミリーもその内の1人だ。
メインヒロインを避けつつ生き残るための方法としてヘンソンはネームドキャラやキーキャラを頼ることにしたのだ。
当然マーリンやバンバもその中に含まれている。
この先訪れる先々にもヘンソンが目をつけている人物はいる。
果たしてその人物たちにとってそれは幸か不幸かなのはまだ誰にもわからない。




