第20話 モブ商人はメイド忍者を捕まえる
ヘンソンたちが王都を出発し数日。
徒歩のため歩みは遅いが何事もなく順調に進んでいた。
「うん、そろそろ買い出しをしないとな。皆、次の街には立ち寄ろうか」
今まで街には立ち寄らず進んでいたヘンソンたちだが、どうやらこの先にある街に一度立ち寄ることにしたようだ。
「わかりました。ところでヘンソンさん、昨日から後をつけている方はどうしますか?」
「そうですね、ひとまずこちらに来てもらいましょうか。ミーナさん、お願いできますか?」
「お任せ下さい」
ヘンソンが指示を出すとミーナは姿を消す。
「ヘンソン君、大丈夫なの?」
「ミーナさんなら心配いらないよ。あ、相手の人のことか。それなら大丈夫。敵じゃないから安心して」
不安そうに尋ねるビビに応えるヘンソン。
ヘンソンには相手の正体がわかっていた。しっかり『鑑定』したので間違いない。おそらく彼女はヘンソンたちの監視を言いつけられてきたのだろう。
「ヘンソンさん、連れてきました」
ミーナが簀巻きにした女性を連れ戻ってきた。
「ミーナさん、ありがとうございます。それとはじめまして、ですよね?シノブさん」
ヘンソンに名前を呼ばれたメイド服の女性は目を見開く。
「手荒い真似をしてすみません。ですが怪しい行動をされていたので拘束させていただきました」
「いえ、私めが貴方がたの後をつけていたことは事実です。当然の対応かと」
メイド服の女性は弁解することなくヘンソンたちの後をつけていたことを認める。
彼女の名前はシノブ。メインヒロインである王女の専属護衛のメイド忍者だ。
シノブはメインヒロインではないものの、サブキャラとしてプレイヤーが操作でき、ヘンソンもゲーム時代はよくお世話になっていた推しキャラの1人だ。
シノブはサブキャラには珍しく、戦闘時にはメイド服から忍び装束へと転身するモーションがあり、ヘンソンはそこが大好きでスキップせず毎回見ていた。
「それで私めをどうするおつもりでしょうか?」
「そうですね…。よかったら僕たちと一緒に『ヒノモト』まで行きませんか?」
「え?」
ヘンソンはシノブに旅の同行を提案する。
「ヘンソンさん、一体どういうつもりですか?」
「ヘンソン君どういうこと?」
ヘンソンのいきなりの提案に驚くミーナとビビ。
「ごめんごめん、ちゃんと説明するよ。すみませんシノブさん、ちょっと席を外しますね」
「え…」
ヘンソンたちはシノブから少し離れる。残されたシノブの隣にはいつの間にかちょこんとマルコが座っていた。
「貴方が噂の…。近くで見るとこれは中々…」
ヘンソンたちに放置されている間、シノブはマルコをまじまじと見ていた。
「詳しい説明はまたあとでするとして、僕がシノブさんを仲間に引き入れたいのには理由があるんだ」
ヘンソンはミーナとビビにシノブを仲間にしたい理由を話す。
王都から離れることで色々なトラブルが起こることが予想される。
その1つが検問だ。
ヘンソンたちは一応商人として『ヒノモト』へ向かっているが、ヘンソンとビビはまだ13歳の子供だ。
ヘンソンは商人ギルドに登録し、父サムソンからの依頼書を持っているが怪しまれる可能性があった。
唯一の成人であるミーナもあくまでヘンソンの護衛役なので、ヘンソンの身元を保証できる立場ではない。
もし検問でトラブルがあった場合に上手く対処できない可能性があった。
そこに現れたのがシノブだ。彼女は王女専属のメイドだ。彼女がいれば王家パワーで大抵のことはなんとかなるだろう。
つまりヘンソンはシノブを便利なフリーパス代わりにしようとしてるのだ。
「なるほど、そういう理由があったのですね」
「ヘンソン君、シノブさんは危ない人じゃないんだよね?」
「うん、大丈夫だよ。少なくとも僕たちを害するような人じゃないよ」
ヘンソンの説明にミーナとビビは納得してくれたようだ。
「すみません、お待たせしましたシノブさん」
話を終えたヘンソンたちが戻ってくると、
「…癖になりますね、これは」
シノブがマルコの体に顔をうずめていた。
「…失礼しました。それでお話の方はどうなりましたか?」
「はい、シノブさんを僕たちの仲間に入れたいということで話がまとまりました」
「正気ですか?初めて会った私めをいきなり仲間にしたいだなんて」
「シノブさんは王女様が選んだ人です。悪い人ではないはずです。それに僕の目でちゃんと『見て』問題ありませんでしたしね」
「…わかりました。ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」
こうしてメイド忍者のシノブがヘンソンたちの新たな仲間として加わった。
ちなみにミーナとビビに説明したことは事実ではあるが、その本心は上手いことシノブと一緒に旅ができないかと考えた方便であった。
内心ウキウキ状態のヘンソンは自身が王女に目をつけられていることをすっかり忘れていたのだった。




