第18話 モブ商人は王都を出発する
出発の日。
ヘンソンたちは『アイテム屋マーリン』に集まっていた。
「皆、忘れ物はないね?」
「大丈夫です」
「問題ありません」
「はい、バッチリです師匠!」
マーリンの確認の言葉にヘンソン、ミーナ、ビビが返事する。
どうやらビビはヘンソンたちについて行くことに決めたようだ。
「ヘンソン君、ミーナ君。ビビのことを頼んだよ」
「はい!」
「お任せ下さい!」
「フゴッ!」
マルコが自分も忘れるなと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「ああ、すまない。マルコ君もいたね。ビビを頼むよ」
「師匠、行ってきます!」
「いってらっしゃい、ビビ」
ヘンソンたちは『アイテム屋マーリン』を後にする。
ヘンソンたちが王都から外に出るため門に向かうと、
「来たか」
「皆待ってたよ」
ハリソンとニールソンが待っていた。
「ハリソン兄さん、ニールソン兄さん!」
「ヘンソン、気をつけて行ってこいよ。ミーナさん、ヘンソンのことお願いします。ビビさんもお気をつけて。マルコも元気でな」
「皆さん、ヘンソンのことを頼みます。ヘンソンはあんまりハメを外し過ぎないようにね」
「兄さんたち、行ってきます!」
兄たちに見送られヘンソンたちは王都を出発する。
「ここも寂しくなるね」
同居人のビビや毎日やってきていたヘンソンたちはおらず、マーリンは1人店内でぼんやりしていた。
元々『アイテム屋マーリン』はマーリン1人でやっていたのでまた元に戻っただけなのだが、ここ数年は賑やかだっただけに胸に穴が空いたような気分だ。
「さて、と」
マーリンは立ち上がる。
「せっかくヘンソン君に『色々』聞いたからね。私も頑張らないといけないね」
そう言うとマーリンは店から出て何処かに向かっていった。
「ギルドマスター、ヘンソンさんたちが王都を出発しました」
「そうか」
傭兵ギルド。ヘンソンたちが王都から出発した報告を受けるバンバ。
ヘンソンが最初にやってきた時は一介の商人の子供と聞いていた。
毎回見習い傭兵のミーナに指名依頼を出し一緒に森へ出かけていく。ここまでなら普通だが、気がつけばミーナは新たなスキルを習得しその上バンバに次ぐ力を得ていた。
ヘンソンが何かしたのは明らかだ。
バンバはすぐにヘンソンを呼び出しミーナの処遇について話を切り出す。
ヘンソンはバンバの威圧にも気後れすることなく、またバンバの出したミーナの引き抜きの条件もあっさりと受け入れた。
バンバとしてはかなり厳しめな金額を提示したつもりだったが、ヘンソンは安く済んでよかったと軽口を叩いていた。
その時バンバは確信した。ヘンソンは特別な『何か』を持っていると。
その後、ギルド用厩舎に突如現れた謎の豚の処遇に困りヘンソンを連れて行き冗談でテイムを勧めてみたところ、なんとヘンソンは豚のテイムに成功した。
テイムスキルを持たない人間がテイムを成功させる事例は過去にはあったらしいが眉唾ものだと思っていた。
しかし実際にヘンソンが成功させたことでそれは事実なのだと判明した。
昔馴染みのマーリンからもヘンソンのことは聞いている。マーリンが言うにはヘンソンは例の『予言の子』ではないらしい。しかし特別な『何か』を持っているのは確実だと言っていた。
バンバがそれを実感したのはヘンソンから開示されたとある訓練方法だった。
ヘンソンに教えられたその方法は実に画期的だった。
今までモンスターを相手にした訓練方法は実戦のみで安全とは言い難いものだった。しかしヘンソンの方法は安全かつ確実にモンスターを倒せるものだった。
モンスターから身を隠すアイテムと呼び寄せるアイテム。相反する2つのアイテムを組み合わせるという発想に驚いたが、1番の衝撃はこれにより新たなスキルを習得した者が現れたことだ。
ミーナと同じ方法を使用しているのだから当然なのだが、まさか『スキルカード』を使わずに新たにスキルが習得できるとは思わなかった。
正直傭兵ギルドでは持て余す程の情報だった。
この情報の取り扱いに関してヘンソンは自分の名前を出さなければ自由にして良いと言った。
バンバはヘンソンの意見を尊重しヘンソンが王都を出てからこの情報を王都各所に公表することに決めた。
ヘンソンは自分がいなくなったあとの王都のことを気にしていた。
バンバに情報を託したのも『何か』に備えてのことだと思われる。
ヘンソンの期待に応えるべくバンバは行動を始める。
「じゃ、俺もそろそろ仕事を始めるとするか」
バンバは立ち上がり部屋から出ていった。
〜王都の中心にある城、その一室〜
「姫様、先程例の少年たちが出発したようです」
「あ〜あ、私も豚ちゃん見たかったなぁ」
「以前にも申し上げましたが、彼は 『かの方々』の庇護を受けています。我々でも手出しすることはできません」
「遠くからちょっと見るだけでもいいのにシノブが駄目って言うから」
「当たり前です。姫様が城下に出ることは陛下に禁止されております」
「むぅ〜。シノブのいじわる」
「そんな顔をしても駄目です」
「あっ、そういえば忘れてたわ」
「何でしょうか?嫌な予感がするのですが」
「シノブ、今から帰省しなさい」
「今から、ですか?」
「貴方、確か『ヒノモト』の出身だったわよね?」
「まさか姫様、私めに彼らの様子を監視しろと?」
「シノブ、『たまたま』行き先が同じなだけよ」
「…姫様、そもそも私めの帰省の許可が下りるとは思えないのですが」
「安心して、もう許可は父様からもらってきてあるわ」
「はぁ…」
「それじゃあシノブ、報告よろしくね」




