第17話 モブ商人は旅支度を終える
ニールソンに仕事の引き継ぎを始めて3ヶ月、ヘンソンの『ヒノモト』への旅支度は順調に進み、出発を3日後に控えていた。
「そうか、3日後に出発か」
ヘンソンは傭兵ギルドに来ていた。
「バンバさん、もしもの時は兄たちをお願いします」
「おう、任せておけ。お前さんには色々と世話になったしな」
ヘンソンは王都で何かあった時に備えバンバに家と兄たちの保護を依頼していた。
ヘンソンの記憶通りであれば問題が発生するのは学園内だけだがそれは確実ではない。ヘンソンの知らない事が起こるかもしれない。
そこでヘンソンはもしものためにバンバに家族のことを頼むことにした。
バンバはネームドキャラの中でも上位の実力者なので大抵のことなら解決できるだろう。
そして念のためにヘンソンは傭兵ギルドにミーナに行なったスキル習得の方法を伝授した。
もしかしたらミーナのように他のレンタル傭兵たちが強化されるかもしれないと思ったからだ。そうなれば傭兵ギルド全体の戦力底上げになり、王都はより安全になるだろう。
ちなみに教えたのはアイテムを使用した安全にスキル習得の練習が行える方法だけで、スキルの習得条件については秘密のままだ。
しかしそれでも安全に訓練できるとあってバンバにはとても感謝された。
この方法は後に新人育成の一環として、傭兵ギルドだけでなく冒険者ギルドなどにも広まっていった。
ヘンソンは次に孤児院に向かう。
「カール、後のことはニールソン兄さんに任せてあるからよろしくね」
「ああ、わかった」
「あと、これを孤児院の中に設置しておいて」
ヘンソンは何かアイテムをカールに渡す。
「ヘンソン、これは何だ?」
「それは設置型の魔具で建物の周囲を守ってくれるものだよ。何かあった時に使うといいよ」
ヘンソンが用意したのは周囲に結界を張ることができる魔具。
カールをはじめ孤児院にはなんだかんだ世話になった。有事の際、最低限の身を守れるようにと魔具を渡すことにしたのだ。
「おいヘンソン、こんなものもらっていいのかよ」
「カールたちには今までお世話になったからね。そのお礼だよ」
この言葉は嘘偽りのないヘンソンの本心だ。
「こんにちはヘンソンさん」
「あ、マリアさんこんにちは。ちょうどいいところにきましたね」
「ヘンソンさん?」
いつもと違うヘンソンの態度に困惑するマリア。
「マリアさんにも渡すものがあったんですよ。はいこれ」
そう言うとヘンソンはマリアに手のひらサイズの十字架を手渡した。
「あのヘンソンさん、これは…」
「是非マリアさんが使って下さい」
ヘンソンがマリアに渡したのはマリア専用のアイテムで、ステータスやスキルを上昇させる他に強力な聖属性の魔法を使用することができる。
本来はストーリー後半で手に入るアイテムだが、ビビのスキルレベルが大幅に上がった結果
今の段階で用意することができた。
ヘンソンはマリアのことは苦手だが、危険な目にあって欲しい訳ではない。
それにマリアが強化されればその分、この先起こるであろう事件の解決が容易になるはずだ。
そういった思惑もありヘンソンはマリアにアイテムを渡すことにした。
「あ、あの、ありがとうございます…。大事にしますね」
「喜んでもらえてよかったです。それじゃあ僕はこれで失礼します。カール、元気でね」
「おう、ヘンソン元気でな」
孤児院を後にするヘンソン。
ヘンソンが次にやってきたのは魔具店の前。誰かと待ち合わせしているようだ。
「あっヘンソン、今日は豚はいないのね。ところで用事って何?」
どうやら待ち合わせの相手はリリィのようだ。
「リリィさんこんにちは。すみませんマルコは別件でいないんですよ」
「ふぅん、ま、いいわ。で私を呼び出した用は何?しょうもないことだったら怒るわよ」
「実は渡したいものがありまして、これです」
ヘンソンはリリィに紫の杖を渡す。
「これは…杖?ヘンソン、どういったものか説明してくれる?」
「はい、この杖は…」
ヘンソンはリリィに渡した杖について説明する。
リリィに渡した紫の杖。これも先程のマリア同様リリィ専用の武器でストーリー後半で入手できるものだ。
これももちろんビビ謹製の武器でステータス上昇の他様々な能力が付与されている。
「気に入ったわ!でも今の私じゃまだ使えないわね」
どうやら今のリリィのスキルレベルでは紫の杖をまだ使えないようだ。
「リリィさんならきっと使えるようになりますよ」
「当然じゃない、私を誰だと思っているのよ。すぐに使いこなせるようにしてみせるわ」
「はい、リリィさんならできますよ。それでは僕はこれで失礼します」
「ありがとヘンソン、じゃあね」
リリィは上機嫌で帰っていった。
「ふぅ、とりあえずやれることはやったかな」
帰宅したヘンソンは一息つく。これでヘンソンが王都でやれることは全て終えたはずだ。
ヘンソンは自分が生き残るために王都を出るが、残った人々を見捨てるという訳ではない。
少なくとも今まで関わってきた人々には安全に過ごして欲しいと思っている。
少なくとも事件の当事者になる可能性が高いマリアとリリィに無事にアイテムを渡すことができてよかった。
これで心残りなく旅に出ることができる。ヘンソンは全ての準備を終え就寝する。




