第14話 モブ商人は騎獣に会いに行く
「こんにちはバンバさん」
「おう来たか」
ヘンソンはバンバに呼び出され傭兵ギルドへ来ていた。
「僕に用があるって聞いたんですけど何でしょうか?」
ヘンソンは自分が何かやらかしたのだろうかと思ったが心当たりがない。
「そう身構えなくてもいい。今回は俺の方から相談があって呼んだんだ」
何やらヘンソンに話があるらしい。
「お前さん、馬はまだ持ってないよな?」
「はい、まだ持ってないですね」
「ならちょうどいい。ヘンソン、騎獣に興味はないか?」
騎獣。
主に馬以外で人が騎乗できるモンスターがそう呼ばれており、その種類は様々で四足型の肉食獣タイプや鳥やヘビ、ドラゴンなどが該当する。
ちなみに騎獣はテイムモンスター扱いとなるのでテイムスキルがないと言うことを聞かない。
「ここだ」
バンバに案内されたのは王都の外壁近くにあるギルド用厩舎。ヘンソンが以前行った厩舎とは別の場所だ。
この厩舎は主に冒険者ギルドや傭兵ギルドの騎獣や従魔が預けられている。
放牧地エリアを様々なモンスターが自由に過ごしている。そこを進むバンバとヘンソン。
「お、いたいた。ヘンソン、こっちだ」
バンバが示す先には1頭の豚がいた。
赤毛の豚は一見ただの豚のように見えるが鑑定してみるとちゃんとモンスターだった。
赤毛の豚はフレイムボアの亜種で見た目以外はフレイムボアと変わらないようだ。
ただ座っているだけなのにダンディさを感じる不思議な豚だった。
「この豚はどうしたんですか?」
「それがな誰も知らないんだ」
この豚は数日前から厩舎に現れたのだという。
何処からきたのか、誰が連れてきたのか全くわからないそうだ。
「でだ、とりあえず俺の知ってる中で1番鑑定スキルが高いお前さんに見てもらおうと連れてきたんだ」
ヘンソンは豚を鑑定してみたが能力は高いが特に変わった点は見当たらなかった。
「そうか…、どうすっかなコイツ」
「何か問題でもあるんですか?」
「大人しくしてるから害はないんだが主人がいないのがな」
この豚には主人がおらず野良モンスター扱いなのだという。
「誰か面倒を見てくれる人はいないんですか?」
「それがな」
豚をテイムしようとすると拒否されてしまうというのだ。
どうやら豚はテイマーたちのテイムスキルよりも強い力を持っており、並のテイマーでは手懐けることができず豚は現在放置されていた。
「ところでバンバさん、フレイムボアって騎獣でしたっけ?」
「ん、ああ。何処かの地域では騎獣として運用されてるって聞いたことがあるな」
そういえばゲーム時代にゴブリンライダーがフレイムボアに乗っていたがそれとは違う話だろう。そう思いたい。
ヘンソンはここでようやくバンバの狙いに気付く。
バンバはヘンソンに騎獣を興味はないかと聞き連れてきた。そして見せられたのはこの豚。
バンバはヘンソンにこの豚を押し付けようとしていたのだ。
「なぁヘンソン、この豚なんだがお前さんのとこで引き取ってもらえないか?」
バンバから豚を引き取らないか打診される。
「えーと、僕はテイムスキルを持ってないので騎獣どころかこの豚さえ扱えないと思うんですけど…」
ヘンソンにはテイムスキルはない。なのに何故騎獣を見に来たのか。単純にヘンソンが騎獣を見たかったからだ。
戦う術のないヘンソンにとって安全にモンスターを見ることができる貴重な機会。この数少ないチャンスを逃す訳にはいかなかった。
ヘンソンも男の子だ。ワイバーンやウルフといったカッコいいモンスターが大好きなのだ。
「物は試しだ。ちょっと豚と話してこい」
「ええ…」
バンバの無茶振りにとりあえず形だけでも応えようと豚に近づくヘンソン。
「えっと、こんにちは。隣いいかな?」
豚に話しかけ隣に座るヘンソン。豚は特に反応しない。
「僕の名前はヘンソン。君はフレイムボアでいいんだよね?」
ヘンソンの問いに豚はコクリと頷く。
「えっと、一緒に旅についてきてくれる仲間を探しているんだけど、どうかな?」
単刀直入に目的を話すヘンソン。
すると豚は立ち上がりヘンソンの顔を見つめたかと思うと尻を向けた。
「あっ、もしかして乗れってことかな?」
ヘンソンが豚の意図を確認すると豚はコクリと頷いた。
「それじゃあ失礼して」
ヘンソンが豚にまたがると豚はトコトコ歩き始める。
豚の乗り心地は馬より視線は低いが思っていたよりも悪くない。
周囲を軽く一周してヘンソンは豚から降りる。
豚はヘンソンをじっと見つめる。乗り心地の感想を求めているようだ。
「うん、乗り心地は悪くなかったよ」
ヘンソンの答えに満足した様子の豚はヘンソンの足に鼻を押し付ける。
「ん?どうしたの?」
ヘンソンが豚の頭に触れると不思議な感覚がヘンソンの体に走る。
「え?何だこれ」
その直後ヘンソンと豚の体は光り出す。
「もしかしてこれって…」
「おいおいマジかよ」
様子を見ていたバンバが驚く。
光がおさまるとヘンソンの右手には何やら紋章のようなものが現れていた。同様に豚の腹にも同じような紋章があった。
これはテイム成功で現れるものでヘンソンと豚は正式なパートナーとなった。
ゲーム時代もテイムスキルがなくても低確率でモンスターをテイムできる場合があったがまさか自分が成功するとは思わなかった。
ヘンソンは慌てて自身のステータスを確認するが相変わらず鑑定スキルのみで新たなスキルは生えていなかった。
NPCキャラのモブ商人であるヘンソンは鑑定スキル以外の技能を得ることができないと思っていたがどうやら違うようだ。
この世界ではスキルに囚われない何かが存在しているようだ。
このことは今後検証する必要があるかもしれない。
「やったなヘンソン。それでコイツの名前はどうするんだ?」
「そうですね…、マルコなんてどうかな?」
豚ことマルコは満足そうに頷く。どうやら問題ないようだ。
「いやぁ、中々面白いもんが見れたぜ。何かあったらまた頼むな」
「いや勘弁して下さい…」
偶然とはいえあっさり問題を解決してしまったヘンソン。
この1件で更に厄介事が舞い込んでこないことを祈るのだった。




