第10話 モブ商人は見習い錬金術師のことを頼まれる
「マーリンさん、ビビ。彼女が僕の護衛のミーナさんです」
「自分はミーナと言います。元傭兵ギルド所属で今はヘンソンさんの専属護衛をしています」
ヘンソンは『アイテム屋マーリン』にミーナを連れ店の2人に紹介していた。
家族会議から数日。
両親は再び王都を出発していた。
また支店候補地の調査に出るといっていたが、それは口実でただ旅行に行きたいだけなのではとヘンソンは勘ぐっていた。
その理由はハリソンがサムソンに支店候補地にいい場所はあったかを聞いていたが、のらりくらりとかわされ結局きちんと仕事をしていたのかわからなかったからだ。
まぁあの父親のことだから全く何もしていないということはないだろう。
ヘンソンとハリソンは両親について放っておくことに決めたのだった。
家族会議も終わり両親も旅立ち一段落ついたヘンソンはミーナを連れ『アイテム屋マーリン』にやってきたのは顔合わせもあるが、本当の目的はミーナにヘンソンの代わりに依頼のやり取りなどを代行してもらうためだった。
『アイテム屋マーリン』は一度店に入りマーリンから許可をもらえれば、次からは扉を探す必要がなくなる。そのため次からはミーナ1人でもここに入れるようになる。
ミーナにはジムサンド商会の手伝いをしてもらっていたのだが、サムソンからヘンソンが自ら仕事を与えるようにと言われたのだ。
本来のミーナ仕事はヘンソンの護衛なのだが、現在のヘンソンの活動場所は王都内がほとんどなので護衛は必要ない。
護衛としての実力を発揮してもらうのは王都を出発してからだ。
それまでの間は『アイテム屋マーリン』や『カール農園』にヘンソンの代行として仕事をしてもらうことにした。
「へぇ、お家から正式に援助を受けられるようになったんだ。よかったねヘンソン君」
実家のジムサンド商会から正式に資金援助を受けられることになったのをマーリンに報告するヘンソン。
「それでミーナ君にここを任せて君は何をするつもりなんだい?」
「うーん、どうしましょうかね。代行を頼んだのは父から言われたからで、僕は特にやりたいことがある訳ではないんですよね」
ヘンソンはマーリンにミーナの雇用事情について説明する。
「なるほど、そういう訳だったんだね。ところで話は変わるけどヘンソン君」
「はい何でしょうか?」
「ビビのことを頼むね」
マーリンはそう言うとビビをヘンソンの前に差し出す。
「ええっ!?」
マーリンの突然の言葉に驚くビビ。
「あのビビを頼むとはどういうことでしょうか?」
「うん、ヘンソン君にならビビを安心して預けられると思ってね」
「し、師匠、そんないきなりすぎます!私、心の準備がまだできてません」
「ビビ。君はいつまでも店に引きこもっていないでいい加減外に出るべきだよ」
「えっ?」
「ちょうど今ヘンソン君の手が空いているようだしね。この機会に外に出て勉強してくるといい」
「あ、はい。…そういうことですか」
マーリンから店に引きこもっているビビを外に連れ出してほしいと説明される。
「つまり僕がビビに王都の案内をすればいいんですね?」
「そういうことになるね。何だったらビビを『ヒノモト』まで連れていっても構わないよ」
「え、いいんですか!」
「ええっ!?」
なんとマーリンはビビの『ヒノモト』行きの同行許可をヘンソンに提案する。
ゲーム時代、ビビがこの『アイテム屋マーリン』から出たのを見たことがない。
ビビが店の外に出るだけでもレアイベントなのに、その上『ヒノモト』行きのパーティメンバーに参加する可能性が生まれた。
ミーナの時といい、ヘンソンが起こした行動により新たな変化が起きているようだ。
「師匠、ちょっと奥に行きましょう」
ビビがマーリンを連れ店の奥に消える。
「師匠、一体どういうつもりですか」
「いやなに少し手助けをしようかと思ってね」
「手助け?」
「このままだとヘンソン君と会う機会が減ってしまうだろう?だからビビがヘンソン君と一緒にいられるようにきっかけを用意したのさ」
「それはありがたいですけど…。でも師匠、王都の中ならまだしも国の外に出るのはちょっと…」
「何、私は別にビビを追い出したいつもりで言っている訳ではないんだ。世界は広い。色んな場所を回って、色んな体験をしたほうがいい」
「でも私は…」
「ビビ、君が不安になるのはわかる。でもヘンソン君ならきっと君の問題を解決してくれる気がするんだ」
「ヘンソン君が?」
「まぁ、とりあえずヘンソン君と王都内を巡るといい。なぁに、デートだと思えばいいのさ」
「デ、デート!?」
「ま、難しく考えないで楽しんできなさい」
ビビとマーリンが店の奥から戻ってくる。
「ヘンソン君、私決めたよ」
「それは『ヒノモト』までついてきてくれるってこと?」
「ううん、それはまだ保留にする。まずはお店を出るところから始めてみる」
ビビは一歩踏み出すことを決めたようだ。
「わかった。明日また来るから準備しておいてね」
「うん」
翌日。
「おはようございます」
『アイテム屋マーリン』にやってきたヘンソンとミーナ。
「おはよう。ビビ、ヘンソン君たちがきたよ」
「今行きます」
ビビが店の奥からやってくる。
「おはようヘンソン君、ミーナさん」
「おはようビビ」
「おはようございます…。あの、ビビさんですよね?」
「はい、そうですよ」
ヘンソンにはいつも通りのビビに見えるが、ミーナには違って見えるようだ。
「うん、どうやら問題なく機能しているみたいだね」
ビビは何かアイテムを使用しているらしい。
「ああ、そうか。『変装バングル』をつけているんだね」
ヘンソンはビビを鑑定し、アイテムの正体を看破する。
『変装バングル』は装備している者の姿を変えるアイテムで、主に貴族がお忍びで出かける時に使用する。
「あれ?ヘンソン君には効いてないの?」
「うん、いつも通りかわいいビビが目の前にいるよ」
「か、かわいい…。じゃなくて、師匠もしかして失敗ですか?」
「いや、大丈夫だよビビ。『変装バングル』に問題はないよ。問題なのはヘンソン君の鑑定スキルの方さ」
マーリンは『変装バングル』には何の問題もないという。
「おそらくヘンソン君の鑑定スキルは上限突破してるようだね。君、色々と『視える』ようになっているだろう?」
ヘンソンの鑑定スキルは普段の露店巡りと前世のゲーム知識が相まって急成長を遂げていた。
その結果、様々な副次効果を手に入れていた。
その1つが真贋を見破る看破の能力だった。
今のヘンソンの『眼』に嘘は通用しない。
「それじゃあビビ、行こうか」
「うん。師匠行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
ヘンソンたちは王都の街へと繰り出す。




