表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ商人は生き残りたい  作者: わたがし名人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第1話 モブ商人は生き残りたい



 10歳のある日、王都にある中堅商人の家の三男であるヘンソンは頭を打ち自身がとあるゲーム世界に転生したことに気付く。



 ファンタジー・マジックソード・ワールド、通称『F・M・W』。


 ヘンソンが学生時代にやり込んだ学園ファンタジーRPGゲーム。


 記憶が戻った今改めて店の倉庫の風景を思い出すとゲームで見慣れたアイテムが数多く並んでいた。



「ステータスオープン」


 試しにお決まりのセリフを言うとヘンソンの脳内にステータスが浮かぶ。


 まず名前、体力魔力などの各種数値を確認するが、数値はどれも低い。


 正直そこには期待していないので問題ない。


 大事なのはスキルだ。このゲームでは所持しているスキルが何よりも重要なのだ。



 ヘンソンの所持スキルは『鑑定』。



 記憶が戻った時点ですでにわかってはいたが、改めて確認すると絶望しかない。


 正直記憶がない方が良かったまでもある。


 ヘンソンがここまでショックを受けているのには理由がある。



 『F・M・W』では戦闘スキルがないことは死活問題なのだ。


 このゲームは職業も重要な要素の一つではあるのだが、結局はどれだけ使えるスキルを持っているかが全てなのだ。


 そしてゲームであった職業の中に商人は存在しない。


 おそらくヘンソンはNPCキャラに転生したと思われる。


 後天的に新たなスキルを覚えることも可能だがそれは主人公やメインキャラの話だ。


 NPCの商人であるヘンソンでは戦闘スキルを覚えることはきっと難しいであろう。




 しかしいくらモブとはいえ商人の息子ならそんな危険な目に合わないと思われるだろうがそんなことは決してない。


 この先避けられない命の危機がヘンソンを待ち受けているからだ。


 もし仮に何事もなく平和に商人として過ごせるならばたとえ鑑定スキルだけであっても問題ない。


 だが『F・M・W』の知識を持つヘンソンはそうならないことを知っている。




 このままヘンソンが15歳を迎えると王都にある学園に入学することになるだろう。


 そしてその学園とはまさに『F・M・W』の舞台となる場所で、学園にいれば様々な事件に巻き込まれることになるのは確実だった。


 事件は大小様々あるが、一番危惧しているのは魔族が学園に侵入するイベントだ。


 それに巻き込まれたらゲームの一文で処理されたモブ達と同じ運命をヘンソンも辿ることになるだろう。





 ヘンソンにとって幸運なのは記憶が戻ったのがゲームの本編開始前だったことだ。


 今からならまだ時間はある。


 何か解決策が思い浮かぶかもしれない。


 まずは自身のことを改めて整理しよう。




 ヘンソン・ジムサンド。


 王都に店を構える中堅商人の三男で10歳、所持スキルは鑑定のみ。


 当時ゲームをプレイしていた時、名も姿も見たことも聞いたことがないまさにモブキャラといえる存在だ。


 容姿、ステータスは平凡よりやや下、しかし前世の記憶を思い出したおかげで学力は他の同年代よりも高い。


 それに加え『F・M・W』についてのあらゆる知識、これから先の未来の出来事を知っていること。


 これはヘンソンにとって一番の武器だ。




 商人の子供、鑑定スキル、そして『F・M・W』を遊び尽くした記憶。


 これらを駆使してどうにか事件に巻き込まれることなく生き残り平和に過ごす。


 理想の未来を夢見ながらヘンソンは眠りにつく。







 翌日。


 ヘンソンは朝の店の手伝いを終えると王都の広場にやってきていた。


 広場では露店が立ち並び朝から賑わっている。露店では様々な物が売られていた。


 ここでは食材や素材、アイテムなど多種多様な物が売られている。



 ヘンソンは露店を一店一店回っていく。


 露店は旅の行商人や遠くから出稼ぎにやってきた村人、農家など色んな人々が出店していた。


 しかし並ぶのはヘンソンの家の店に比べるとやや見劣りする物ばかり。


 それもそのはず。ヘンソンの親は王都に店を構えられる程の商人なのだ。


 量や質で比べたら実家の店の方が優れているのは当然で、それに見慣れているヘンソンにとっては少し物足りないだろう。




 では何故ヘンソンは露店にやってきたのか?


 それにはもちろん理由がある。


 この露店の中には極稀に希少なアイテムが見つかったりするのだ。


 この世界がゲームと同じならばきっと見つかるはずだ。




 露店巡り初日は空振りだった。


 ヘンソンもすぐには見つかるとは思っていないのでそこまで悲観していない。


 それに露店巡りには別の目的もある。


 それは鑑定スキルのレベル上げだ。


 鑑定スキルは実物を見たり、図鑑から知識を得ることでレベルを上げることができる。


 レベルが低いとアイテムの判別や真贋が見抜けないので鑑定スキルのレベル上げは必須だ。



 ヘンソンの鑑定レベルは家は商人なこともあり、すでにある程度のレベルに達していた。


 その上記憶を取り戻したことで膨大なアイテムの知識を持っている。


 露店にはヘンソンの家にはないアイテムが多数あり、ヘンソンにとって鑑定スキルのレベル上げにはもってこいの場所だった。





 ヘンソンが記憶を取り戻してから2ヶ月。


 いつものように露店を巡っているとついにお目当てのアイテムを発見する。


「あの、これ下さい!」


 ヘンソンが購入したのは、一見するとただのリンゴ。


 しかしよく見ると薄っすらUPの文字がリンゴの表面に浮かんでいる。



 『スキルアップル』


 このリンゴはスキルを上げることのできるアイテムでゲーム時代ヘンソンもよくお世話になっていた。


 本来なら今のヘンソンの鑑定スキルでは発見できないアイテムなのだが、ゲーム知識のあるおかげで発見することができた。





 『スキルアップル』を無事手に入れることができヘンソンは改めてこの世界が『F・M・W』と同じだと確信する。


 とすればあの場所も確実に存在するはずだ。


 ヘンソンは広場から離れ路地裏へと向かう。


 路地裏に着くとヘンソンは路地裏の壁を調べ始める。


 目を凝らして順番に壁を調べると僅かな歪みのようなものを見つける。


 その歪みに触れると壁だった場所に扉が現れる。


 ヘンソンは扉を開き中へと進む。



「おや、自力でここを見つけた人間なんてずいぶん久し振りだね。いらっしゃい、歓迎するよ」


 1人の女性がヘンソンを迎えてくれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ