プロローグ:何でこうなった
生まれたての桜です。
よろしくお願いします。
「おんぎゃ、おんぎゃ、おんぎゃ」
「まぁまぁどうしたの?お腹空いた?」
「おぎゃ」首を振る。
「じゃあ、おトイレ?」
「おぎゃおぎゃ」もっと首を振る。
「なら、寒い?暑い?」
「ん~おぎゃぎゃ」少し寒いが、そこまで気になる程ではない。
「なら、どうしたいのかな~?ちゃんと言ってくれないと分からないよ~?」
「お母さん、何してるの?」
この声、二番目の姉か。
「何って、『天使』が泣くから」
天使と書いて『エル』。相変わらず、とんでもない名前だな。
「泣いてるのは分かるけど、お母さんの言葉が乳児に分かるわけないでしょ」
「そんなことないわよね~。エルちゃんは何でもわかるよね~?」
もちろん、全て分かるさ。
「そんなわけないでしょ。全く、お母さんは何でもかんでも適当に考えすぎ」
「だって~」
「あぁもういいから。私そろそろ学校行かなくちゃならないから、先に行くね」
「は~い、気を付けてね~」
「いってきまーす」
ドアが開かれ、再び閉まった。
「本当、慌ただしい子ね~」
そう言うと、母親は俺の身体を持ち上げて、優しく抱擁した。
そうだ、これこれ。
「ばぶばぶ」
「まぁ、これが良かったのね。エルちゃんは甘えん坊さんでちゅね~」
「ばぶー」
「何て可愛いのかしら!もうタッパーに詰めて冷凍保存したい」
それは殺害予告では?
シューーー!
「あらいけない。お湯沸かしてたの忘れてた」
母親は俺の身体をウッド調のベビーベッドに乗せて、部屋から出ていった。
もう至福の時間が終わってしまったか。もう少し味わっていたかったが。
こいつが何て言うか。
『オギャー!オギャー!オギャー!』
あぁ、やっぱり。
あれだけだと足りなかったか。
でもしょうがないだろ。ヤカンに呼ばれちまったんだから。
『オギャ!オギャ!オギャー!』
分かった分かった。分かってるよ。
次母親が来た時には、お前が存分に満足するまで抱っこをし続けるよう言っとくから。
はぁ。本当に面倒なことになっちまったな。
百年経ってようやく『この世界』に戻ってきたっていうのに、何で赤ん坊の子守りなんかしなくちゃならないんだ。
どこで間違えたかと言えば、確実にあの時だろうな。
あの時。冷たい雪が燦燦と降り注いでいたあの日。
薄暗い路地裏。重苦しい空気。
男たちの罵声。女性の悲痛な叫び。
頬が殴られる鋭い響き。
胴体が蹴られるひずんだ音。
そして、赤ん坊の泣き声。
あの時、一人の男性が駆けだしていた。
屈強な数人の男たちに向かっていく、線の細いひ弱そうな若い男。
彼の勇気ある行動は、『英雄たる素質』として充分だった。
彼しかいないと思った。俺は彼に近づいた。
二人が一つになる瞬間、突然視界が真っ白になった。まるでフラッシュをたかれたみたいに。
目を開けると、俺は屈強な男たちの一人に雑に持ち上げられていた。
何が起こったか理解できないまま、俺はスキルを発動させてその場から退避した。
はぁ。つきたくもない溜息が自然とこぼれる。
俺は残りの余生を優雅に過ごしたかっただけなのに。
それをこの身体でできるのか。
不安と本体の泣き疲れから、小さな瞼を静かに閉じる。
俺の名前は、上坂トオル。
『憑依者』だ。
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