4
4
「キーボードをやってくれよ。」
「はあ?」
「いやさ、薬をやって悟ったんだ。私は重低音をこの世に知らしめなければならない。だから、バンドを組もう」
「唐突ですのね。千歳の頼みなら、引き受けますけども」
「そして!バンドを組むには!メンバーが必要だ!」
「まあ、そうですわね」
「伝手でどうにかして」
「生憎ながら、千歳にはプロと組むだけの信用がなくってよ」
そらそうだ。正論パンチ。
「なら、探すぞ。レッツラゴーだ。」
「こんな夜にですの?」
「いや、なんか弾き語りとかやってる奴居るだろきっと」
そんな訳で、適当に横浜駅に降り立った訳だ。
「ほらさ、ゆずとかも横浜だし。なんかいるって絶対」
「テキトウですわねぇ」
ほら、居た!
「まあ、実力があるかは別ですわよねぇ」
「いや、可愛いし、売れるって絶対。青田刈りだ。青田刈り。ギターなんていくらでも教えてやれば良い」
「千歳、人に合わせられないでしょう。あなたが教えてどうするんですの?」
「とりあえず、声かけようぜ」
近寄ってみると、美人さんだった。ポニーテールにまとめた、いかにも大学生と言った風情。澄んだ歌声。アコギと合わさってしっとりした曲調。
「へい、お姉さん、お茶しない?」
「散々、ナンパはされてきたけど、こんな可愛らしいお嬢さんからは初めてだわ」
「まあまあ、とりあえずさぁ」
「本当にナンパですわね」
「まあ、ライブが終わってからなら。11時ぐらいになるけど、良い?」
「じゃあ、それまでここでお姉さんの歌声聞いて待つ事にするよ」
聴きながら話す。
「確かに、ルックスも良し。実力も良しですわね。でも、千歳がやりたいのはバリバリのロックでしょう?付き合って下さるかしら?」
「そこはほら、私のベースで一発よ」
「そんな訳無いでしょうに」
議論はダンスダンス。しかし、結論は出ないまま、演奏の終わりはやって来る。
「私の名前は蓬莱一姫変な名前でしょ。」
「まあ、こう言うのは洒落てるって言うんだよ、一姫さん。」
「とりあえず、私の家にいらっしゃらない?」
「それはまた、唐突だね」
「まあ、私も一姫さんの演奏に興味を持ちましてよ。少しやって下さりたい事がありますの」
「わあ、すごい豪邸だねぇ」
「まあ、お金持ちである事は否定しませんわ」
「そいで、どうすんのさ。私のベースを聴かせりゃ良いの?」
「そんな訳無いでしょうに」
「ベース?なんの事?」
「いやさ、一姫さん。バンド、やらない?」
「うーん。どちらかと言うと、一人でのびのびやってる方が好きかな。一応、エレキも弾けるけどさ」
「一度で良いですの。私とセッションしてくださらない?ピアノの腕前には自信がありましてよ」
「うーん。まあ、お手なみ拝見という事で」
防音室に移動して、アコギを出してもらう。そして、ティアはピアノの前に座った。
「自由に弾いてくださいまし。私が合わせてみせますわ」
「そんなら、ちょいと意地悪しちゃおうかな」
そう言うと、一姫はジャズっぽくアレンジを加えながら、アコギを弾いて見せる。しかし、ティアもティア。それに呼吸を合わせて完璧に演奏して見せた。
「いやぁ。完敗完敗。そして、まあ、悪く無いね。ここまで合わせられると逆に気持ちが良いってもんだ。まあ、少しはやっても良いかなって思ったよ」
「それじゃあ、結成祝いだ!こっち来て!」
「結成も何も、まだドラムを探さない事には始まらないでしょう」
私は二人の手を引いて駆ける。
「どこに行くつもりですの?待ってくださいまし?そっちはガレージ?まさか⁉︎」
この晩、豪邸に二人の悲鳴が聞こえたと言う。