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そして、
「よーけーれーるーかー!」
結局の所、すっ飛ばされた。
また意識が遠のく。
「知らない天井だ」
「目が覚めましたの⁉︎お医者様ー!お医者様ー!」
なんやかんやとこうるさい医者の説明を受けて、奇跡的に怪我が無いとの事だった。脳を調べても異常が無く、身体にも外傷は無いと医者は大層に不思議がっていたが。
「本当に、本当に心配しましたのよっ」
ティアに泣きながら言われるとバツが悪い。別に自分は何もしていないのだが、なんだか申し訳ない気分になる。
「それで、ベースとハーレーは?」
「ハーレーはオシャカですわ。ベースは無事ですけど」
「なら、良かったわ」
「命があるだけ儲けもんですわよ。トラックに轢かれたと聞いて…… 覚悟して……」
「ああ…… もう泣かない泣かないでおくれよ」
これは、ベースをやれってコトなのか?頭の中でティアをなでながら思案する。そういう縁とか、験担ぎみたいなのは大事にするクチだ。それはそれとして、ハーレーは買い直すが。
「ほれ、さっさとベッド空けて、退院するぞ」
「ウチに来なさいまし。しばらくは一緒に寝ましょう」
「それまた、なんで?」
「だって、どこかに行ってしまう気がして……」
「はいはい、分かったよ」
余命10年は知らせないでおこう。
そして、リムジンで豪邸へ担ぎ込まれる私。音楽部屋に直行だ。
「また、それですの?」
「いや、リムジンも静か過ぎてね。そろそろ、重低音の妖精が見えそうなんだ」
「重症……」
「まあ、とにかく、しばらく泊めるとお父様とお母様に連絡して来ますわ」
そう言ってティアは出て行った。
神っぽいのは、余命10年と言った。つまるところ、10年は何したって生きていると言う事である。
私は、咳薬の錠剤を引っ張り出して一瓶飲み干した。オーバードーズである。
「お?おお?身体が軽いぞ!ここに重低音を響かせたら……」
徐にベースをアンプに繋げて低音を掻き鳴らす。
「おおおおおおおおお!」
「何事ですのっ!」
慌ててティアが駆け込んで来る。
「見えるぞ!重低音の妖精が!あはははは!」
「禁断症状でラリってますわ⁉︎」
「いや、寧ろ、私が重低音だあははは!」
「よ、様子が流石におかしいのでは?」
「あっははは!あははは!」
そして、ティアは目を泳がせて、咳薬の空き瓶を見つけた。
「きゅう」
泡を吹いての気絶である。
「だ、大丈夫か?今すぐ重低音を聴かせてやるからな⁉︎」
私はティアの耳元にアンプを置いてかき鳴らした。流石に意識を取り戻す。
「お、お父様ー!千歳が、千歳がー!」
「あははは!」
閑話休題
「それで、申し開きは?」
「無いです」
「また、死ぬ様な事してあなたは……」
「いや、10年は大丈夫かなって」
「寿命の目算が短過ぎですわっ⁉︎もっと、ずっと、一緒に生きるんですのよっ!」
「まあ、その辺はおいおいね」
「こらーっ!逃げるなー!」
言えるまいて。ずっと一緒には、居てやれない事は。