表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

狂気の始まり2

乃斗はその本のページをめくり続けた。目に飛び込んできたのは、奇妙な文字や不思議な図像だった。彼はそれらの意味を理解できなかったが、その謎めいた雰囲気が彼の好奇心を一層かき立てた。ページには、異世界の風景や未知の存在についての記述があり、その一部は明らかに地球のものではなかった。


乃斗の手が震え始めたが、彼はページをめくる手を止めることができなかった。そして、あるページに到達したとき、彼の心は急に冷え込んだ。そのページには、巨大な都市の描写があった。文字はさらに奇妙で、その都市を「ルルイエ」と呼んでいた。図像には、巨大な海底都市と、それを支配する巨大な姿のものが描かれていた。乃斗はその姿が、夢の中で見た影と酷似していることに気付いた。


「これが…ルルイエ?」


乃斗は声に出して呟いた。心の中で何かが警告を発していたが、その都市の詳細を知りたいという欲望が勝っていた。彼はさらに読み進めた。


『ルルイエとは、太古に眠る邪神クトゥルフが封印された都市である。この都市は深海の底に沈み、彼の目覚めの時を待っていると言われる。クトゥルフの信徒たちは、この都市を聖地とし、その復活を祈り続けている。クトゥルフが目覚める時、彼の力は再びこの世界を支配し、人間の理解を超えた恐怖が訪れるだろう。』


乃斗はページをめくる手を止め、冷たい汗が背中を伝うのを感じた。彼が手にしているのはただの本ではない。そこには、現実のものとは思えない世界の知識が詰まっていた。そして、彼がその知識を深く掘り下げるにつれて、その世界が現実に近づいてくるような気がした。


その時、突然のノック音が家の静けさを破った。乃斗は驚き、本を閉じて立ち上がった。玄関に向かうと、ドアの向こうに立っていたのは、見知らぬ男だった。長いコートを着た彼の顔は影に隠れていたが、何か異様な雰囲気を漂わせていた。


「君がその本を手にしたのか?」


男は低い声で尋ねた。乃斗は警戒しながらも頷いた。


「その本は、君のような者が持つべきものではない。返してもらおう。」


乃斗は男の要求に困惑したが、なぜか本を手放すことに抵抗を感じた。それは単なる所有欲ではなく、本能的な何かだった。


「なぜ僕にそんなことを言うんだ?この本が一体何だというんだ?」


男は冷たい笑みを浮かべた。「その本は『ネクロノミコン』の断片だ。邪神たちの秘密が記された禁書だ。持っているだけで危険だ。君は既に何かを見てしまったのだろう?」


乃斗は何か言おうとしたが、言葉が出なかった。彼は夢の中で見た巨大な影と、その本に書かれた内容が頭を離れなかった。


「君はすでに選ばれてしまったのだよ、少年。古きものたちの計画に巻き込まれたのだ。」


男はさらに一歩近づき、乃斗の肩に手を置いた。「だが、まだ遅くはない。その本を返して、元の生活に戻ることができる。さあ、渡してくれ。」


乃斗は本を握りしめ、目を閉じた。何かが彼をその本に縛りつけているようだった。そして、その何かが乃斗に対して語りかけた。


「君は我らの秘密を知ってしまった。もはや後戻りはできない。」


乃斗はゆっくりと目を開け、男を見つめた。彼の中で何かが変わり始めていた。


「僕は…僕は、この本を返すことはできない。」


男は冷たくため息をつき、頭を振った。「そうか。では、君がその選択をしたことを後悔しないように願うよ。」


その言葉を最後に、男は闇に消えた。乃斗はドアを閉め、本を握りしめたまま、その重さを感じていた。それは彼の人生を一変させるものになるだろうと、彼は直感的に理解していた。


乃斗は再び机に戻り、本を開いた。その時、本のページから一筋の光が溢れ出し、彼の視界を覆った。乃斗は光の中で一つのシルエットを見た。それは巨大な、触手を持つ影だった。


「目覚めの時は近い…古きものたちの復活が始まる…」


その声が再び彼の頭に響き渡った。乃斗は恐怖と興奮に震えながら、本のページを見つめ続けた。彼の運命はすでに決まっていたのかもしれない。そして、彼はその運命に抗うことができるかどうか、まだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ