人生初のエリアボス戦
前回のエリアボスを倒せというミッションに挑戦するため、ティーアは暗い谷の中を手探りで進んでいた。
「エリアボスか…何処にいるんだろ…おーいエリアボス〜!かかってこ〜い!」
冗談程度にそう叫ぶと、奥から遠吠えのような声がティーアを襲った。体がびりびりする。鼓膜が破れそうな程轟くその音に、ティーアは驚いた。
(え、今の声って狼?マジかー狼かー…きちいなー…あと怖いよ…まあオバケじゃないだけマシだけども…)
「しゃーない、進むかぁ…」
しばらく奥へ進むと、開けた場所に出た。岩が立ち並ぶ道に月の光が満ちている。
「光なき谷だけど…ここだけは光があるんだ…」
そう呟きながら一歩脚を進めた時、ぐるるるる、と威嚇するような声が聞こえた。
「ま、まさか、」
ウオオオオオオオオオオン!!!!
「出た…!エリアボス!名前は…」
とりあえずはエリアボスの名前を確認する。上にはシャドーウルフ、と書かれていた。
「シャドー…そうか影!確かに、光が無きゃ影は出来ない…!だからここだけ月の光が満ちてて、大きな岩が沢山あるんだ!影をつくるために…ってことは…」
恐らく影を使って移動してくるだろう。アニメなどで見たことがある。影を扱う敵は、大抵影同士を行き来できる。つまり岩陰に隠れたら、アウト。
(隠れさせないわけね…つまり、勝つ道筋は…)
パレットと絵筆を構える。
「真っ向勝負!!」
「でやああああ!!!!」
グオオオオオ!!!
シャドーウルフがティーアに噛みつく。HPが三分のニまで削られた。
「ちっ…回復アイテムとか持ってればなあ…」
生憎、自分が持っているのは使いたいと願ったスキルを使えるものの、名前がわからなければ願う事ができない。
「とりあえず、キャンバスでも盾に…」
キャンバスを出した途端、ティーアは大変な事に気づいた。
「しまったー!鳥の絵、描いたまんまだったー!!?」
そう。キャンバスにはかわいい小鳥の絵が。
「ヤバいヤバいまだ背景描けてないのに〜!」
慌てて戻そうとした時、キャンバスの絵に変化が起きた。小鳥が、絵の中から飛び出てきたのだ。
「え!?出っ…ええ!!?」
グルルル…
突然現れた小鳥に、シャドーウルフが警戒する。小鳥はシャドーウルフに近づくと、その小さなくちばしでシャドーウルフの頭をつついた。すると、シャドーウルフが悲鳴をあげた。
小鳥には、ティーアと同じ9999の攻撃力が付与されていたのだ。何故か?それはティーアの職業である絵描きの隠れ特性にある。アルオンには、プレイヤーを楽しませるためのいわゆるお遊び要素として、隠れ特性というものがある。見つけたらラッキー位の感覚なので、あまり戦闘面には反映しない…はずなのだが、絵描きの特性は他の職業と比べ、かなり特殊かつ雑に作られている。そもそも、公式がサポートにも攻撃にも弱いというのだから当たり前だろう。だが、それはあくまで想像力を上げなかった場合の話だ。職業、絵描きの制作陣はかなり少なく、たったの二人、それも会社の中で最もプログラムが下手な二人が集められた。だが、彼らには努力する力があった。自分達の雑で変なプログラムでも、できるだけ絵描きを良い性能にしよう。その思いから、二人は絵描きと最も関連性のある『想像力』を土台にし、この職業を本当の絵描きらしく、絵を描くことによって発動できる隠れ特性を作った。想像力を100以上に上げてくれる人…その人にしか発見できない隠れ特性、想造!!
「なんかよくわかんないけど、しめた!よっしゃやるぞー!」
ティーアは気合いを入れ直すと、沢山の同じ小鳥をスケッチブックの中に描き始めた。小鳥がどんどん出てくる。数に押され、シャドーウルフは倒れ、ノイズと共に消えた。
ーーーーー
「はー、疲れたー…」
ピロリンッ
「ん?公式からメールだ」
開くとプリンセスが飛び出てきた。
『おめでとうございますわ〜!』
「うわっ!?」
ドンドンパフパフドンドンパフパフ〜とくるくる回って喜ぶプリンセスにティーアは驚いた。
「プリンセス!ってことは今私が倒したのってやっぱりエリアボス?」
『はい!エリアボスシャドーウルフの討伐完了です!一部の人しかクリア出来ないのに、すごいですわ!パワフルですわ!クリアおめでとうございますわ〜!!』
「う、うん。ありがとうありがとう。所でプリンセス、エリアボス倒したけどこれからどうすればいいの?」
『ボスモンスターを倒せば、レアなアイテムや装備、武器などが手に入る宝箱が出現しますわ!ほら、あそこ!』
プリンセスが指差した方を振り向くと、ザ・宝箱という感じの箱があった。
「こいつか……よっと!」
ガチャ…
開けると、箱から光が立ち込めた。眩しくて思わず目を背ける。しばらくして光が納まり、そっと見てみると…
「イメージブラシと、インフィニティキャンバス?」
〈イメージブラシ〉
絵描きの想像力に応じて絵の解像度が変わるブラシ。描いた物や自分に様々な設定や能力を描き足せる。レアランク・神
〈インフィニティキャンバス〉
どんな所、どんな状況下でも取り出す事ができ、キャンバスの紙が無くなることは無い。取り出す間の時間は何者も通さない。盾としても使える。このキャンバスの絵はイメージブラシでしか描けない。レアランク・神
「……やっば神アイテムじゃん」
ティーアの四日目、終了。




