第三十七話「本気の一撃」
祈光達がラヴェトリーの猛攻を凌いでいる一方で、
シルヴィアは迫ってきた蝙蝠のような魔物の首を切り落とし、振り抜いた勢いのまま間合いに入った数匹の魔物を切り飛ばして額に浮かんだ汗を拭った。
既に数百…いや、千にも迫ろうかという程の魔物を撃破したシルヴィアだが、依然として残る敵の量は夥しいままである。
未だケイが合流していない事もあり、ただ一人で魔物の軍勢と、Aランクの竜種、ガルトメギアとの戦闘を行っている。
本来ならばガルトメギア一体が相手であっても厳しいはずの状態でありながら、それでもなお継戦できていたのには、理由があった。
シルヴィアの右腕で腕輪が光る。それはシルヴィアの力をSランク冒険者にも匹敵しうるほどに跳ね上げ、
敵から与えられるダメージすらも和らげている。
主にはその希少性から、Sランクの冒険者でも手に入れるのが難しいほどの代物…高難易度ダンジョンからの希少出土品である。
それはシルヴィアの育ての親よりシルヴィアに形見替わりに渡されたものであったのだが、
その絶大な力は代償なしで使えるような都合の良いものという訳では無い。
与えられた力の代償は、一部身体機能の喪失。左目の視力を代償として、時間制限付きで戦場を均衡へと、否、シルヴィアが僅かな差ではありつつも優勢という程に破格の超強化を施しているのだ。
魔法、呪い、直接ダメージ。それら全てとは根本とは違った種類の喪失であるがゆえに、
少なくとも暗くなってしまった左目で明かりを認識することはもうないのだと、シルヴィアは確信していた。
獰猛な嘶きとともに、またガルトメギアが破滅を伴う熱線を放ち、すれすれで躱すシルヴィアにその牙を剥く。
一瞬の逡巡の末、シルヴィアは手中の大剣を振りかぶり、唱えた。
「《大地踏む豪剣の衝痕壁》!」
ガルドメギアの攻撃に対応するシルヴィアの隙をつこうと、数多の魔物が殺到する。
迫る竜の牙がシルヴィアの肩を喰らい千切らんとするその瞬間、シルヴィアは竜へと逆に踏み込む形で、
横薙ぎに竜の首を捉えた斬撃を、スキルによる白光と共に振るった。
刹那、辺りに暴風が、暴風と言ってもなお余りあるほどの絶大な風が吹き荒れた。
地が突然爆ぜたような衝撃と、それに伴う土砂の暴虐が周囲の魔物を貫き、潰し、物言わぬ肉塊に変える。
その剣撃を直接受けたガルドメギアも、切られた範囲の首の鱗を砕かれ、吹き出る血と共に
沢山の木々を巻き込んで、その身を地面で削りながら数十メートルも吹き飛び、止まった。
凄惨な現場に一人佇むシルヴィアに、傷はない。この一連で起きた事を纏めると、こうなる。
《大地踏む豪剣の衝痕壁》による一撃がガルドメギアに触れた瞬間、
剣の内に収められた魔力が弾け、シルヴィアを守る障壁と、大地を爆散させ、周囲に衝撃的な破壊を齎す。
同時に剣を伝わってガルドメギアの体表を覆う強固な鱗を砕き、その身に衝撃を流し込んだ。
低い唸り声をあげてまた立ち上がったガルトメギアを見据えて、シルヴィアは不敵な笑みを浮かべた。
三千もの魔物の軍勢と、シルヴィアの戦いはまだ、終わらない。




