第三十六話「役割分担」
ラヴェトリーの様子に警戒心を高める三人に、また熱線が降り注いだ。
絶大な破滅を伴う熱線に狂人の様子を確認するが、ラヴェトリーに魔法やスキルを使った様子はない。
「術者はこいつじゃないのか!?」
「あはぁ!御名答!おいで、ガルトメギア。」
現れたのはグルルゥと鳴き声をあげる2.5m程の大きさの、西洋風のドラゴンだ。
サイズはバイソンと比べて圧倒的に小さくはあるが、放つプレッシャーはその比ではない。
(間違いない、こいつ…強いぞ!!)
張り詰めた空気に、森全体を揺らしてさえしまいそうなドラゴンの咆哮が響く。
直後、三人の周囲に突風が吹き荒れた。思わず目を覆った祈光は、風が止んだ時、
開けたその目に写った景色に言葉を失った。
眼の前に現れていたのは夥しい量の魔物の群れ。
ケイによる事前情報で知らされた3000匹、恐らくそれが全部目の前に集結している。
絶望的で、抗いようもない状況に早鐘を打つ心臓は、シルヴィアの声によってその拍動を抑制された。
「なぁ祈光、悠誠。魔物は全部私と、そのうち戻ってくるだろうケイに任せておけ。」
不敵な笑みを崩すことなく告げられた言葉に、祈光は正気かと問うように、まじまじとシルヴィアの目を見た。暫定Aランク以上のドラゴン…ガルドメギアと、Bランクの魔物を恐らく多数含む魔物の軍勢3000匹を相手にほぼ二人で戦うなど、馬鹿げているとしかいいようがない。しかし、それを止める間もなく状況は展開を進めていく。
「お前だけは厄介だったからなぁ!僕がぁ、自ら戦わなくていいってのはこっちとしても都合がいい!いっておいでぇ、ガルドメギア!」
ラヴェトリーの言葉に、ガルドメギアはグルゥと嬉しそうに鳴いて、シルヴィアに向き直った。
「生きてまた会うぞ、二人とも!」
「はい!シルヴィアさんもどうかご無事で!」
「ご武運を祈ってます!」
口々に答えた二人の様子に満足気に頷き、シルヴィアは
森の端の方へと向かって走っていった。
魔物達がそれを追いかけそれぞれの攻撃を放つのを
横目に、祈光はラヴェトリーに対峙した。
「あっはぁ、あの時僕に手も足も出なかった君達が、今の僕に敵うと思ってるのぉー?」
にたにたと笑みを浮かべるラヴェトリーに、祈光は恐れず答えようとする。
ゆっくりと放たれた言葉が狂人の耳に届くより先に、空震による壮絶な一撃がその身体を穿った。
「チッ、いきなりかよ…!」
舞い上がった土煙の中から現れたのは無傷のラヴェトリーだ。
ラヴェトリーは苛立った様子で悠誠を睨んでいる。
「まぁ、いい。せいぜい楽しませてくれよ…!」
瞬時にその右腕が悍ましい肉塊へと膨れ上がりぐねぐねと蠢いた。
そのうち数メートルもの大きさになったそれは地面に生えたままの巨木を掴み取り、引き抜いた。
「マジかよっ!」
投げつけられた巨木は、その衝撃から必死で逃れた祈光の背後の地面を抉り取り、ひしゃげた。
続けざまに放出された数十もの火炎弾は地面に着弾すると同時に爆発し、地形を容易く変え、
そのうちの一発が祈光に着弾する。咄嗟に一瞬甲殻を展開して防御した祈光は、それでも
その衝撃に抗いきれず、後方へと軽々と吹き飛ばされてしまった。
そんな祈光を慮る余裕もなく悠誠は火炎弾の数々を撃ち落とし、飛び上がって避ける。
実時間の数倍は長く感じられたほんの数秒間の回避行動。
その終末に振るわれた猛威に、悠誠は驚愕した。
火炎弾だけではない、先程とは比べ物にならない…数百単位の魔法弾と、
暴風さえ伴った触手のような異形の腕が同時に振るわれたのだから。




