第三十三話「きゃっち・あんど・りりーす」
ギルドマスターと別れた祈光達は、シルヴィアが居ると教えてもらった方…森の東側、その奥地へと向かった。
鬱蒼として薄暗い森は、踏み入れることを躊躇う程に不気味な雰囲気に包まれている。
しかしその逡巡も、襲いかかってきた鼠のような魔物によって中断された。
耳に突き刺さるような煩わしい鳴き声をあげ、前歯を突き出して飛びかかってきた鼠を、祈光は冷静に見据える。
「うっらぁ!」
威勢のいい声と共に振るわれたのは祈光の右脚だ。
左脚を軸にして、飛びかかる鼠の魔物の横っ面を、その勢いさえ利用して抉り込むような角度で回し蹴りにする。
無抵抗で蹴り飛ばされた魔物は、木にぶち当たり、ぐしゃりとした音をあげて動かなくなった。
「お…おお〜」
DOGが微妙そうな表情で歓声(?)をあげた。
祈光がその表情の理由を聞くと、DOGは納得いってなさげな顔で答えた。
「いや…運動神経が、なんて言うか『アレ』やった
祈光にあるまじき動きやったから…。」
「アレって何じゃアレって。はぁ…もういいや、行くぞ。」
祈光はDOGの物言いに憤慨しつつも、直ぐに気を取り直して歩き始めた。
道中襲いかかる魔物は大した強さではなく、それらを退けて二人が暫く歩いていると、何か硬質なもの同士がぶつかるような音と、連続してガラスのような物が割れるような音が響いた。
「急ぐぞ、祈光!」
「おう!」
音のする方に駆けると、二人は森の中の、少し拓けた場所に出た。否、無理やり木を倒して拓かれた場所、と形容するべきだろうか?そこには、二人が合流を目指していたシルヴィアと、その弟子であるケイ、そして…大型トラックを容易く超える大きさもあるバイソンのような魔物が居た。
「祈光かっ!?」
「はいっ!」
宙に浮かんだ状態のシルヴィアが祈光達に気づいて話しかけてきた。ん?浮かんでいる…?
「うっええー浮いてる!」
「ケイの魔法だっ!っと、揺れるから気をつけろ!」
「魔法…」
祈光は呆然として呟いた。ケイはケイで氷を放つ魔法や、
風で切り裂く魔法などを凄まじい間隔で使い続けているのだ。ガラスが割れるような音が少し離れたところからも
聞こえていたことから、相当なスピードで放っているのだとも推測できる。それを使い続けながら人を宙に浮かせる技量…前に助けて貰った時は分からなかったが、ケイもシルヴィアと同じく、驚くべき実力者である事がありありと分かった。
そうして思考を巡らせているうちに、バイソンの鳴き声が聞こえて、シルヴィアの予告通り地面が大きく揺れた。
「おわっ」
思わず声をあげて倒れかけた祈光が目にしたのは、
信じられない光景だった。
バイソンが、雄叫びをあげてシルヴィアに突撃する。
即座に加速された巨体が、それこそ高速道路を大型トラックが走るようなスピードと重量感を持ってシルヴィアをはね飛ばさんとした。
すると、不敵に笑うシルヴィアが両手を突き出して空中で避ける素振りもなく立ちはだかったのだ。
息を呑む祈光を他所に、バイソンはシルヴィアに角を突き出した。
「うらああああああああああああ!」
止めていた。生身のシルヴィアが、角を掴み取って。
「は……?」
「え……?」
二人は驚きを言葉に載せて発した。
遅れて、理解した現実に二人の森を揺らす程の叫び声が響き渡る。
「「うええぇぇぇええぇぇえええ!!」」
バイソンも焦った動きをする。
牛みたいなモウッモウッみたいな声もあげてる。
人に止められて焦るバイソンが、ちょっと哀れに見えた。




