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転生特典は「生物学」でした。~バンドメンバー&生物教師と往く異世界冒険譚~  作者: 片想い崩壊's
第一章:再会の時、冒険譚の始まり。
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第三十一話「グロテスクな変身」

時は少し前へと遡る。


轟々と燃える街並みを、キーラを探して駆け続ける祈光と悠誠の2人は、大きな爆発音と瓦礫が崩壊するような音を聞いた。

顔を見合わせた2人は、視線と頷きのみで意思疎通して、そちらへと向かう事を決定する。


急いで向かった二人の視界に現れたのは、傷だらけの一体のゴブリンが、倒れ伏したキーラに迫る光景だった。


それを目にした時、祈光の視界は真っ赤に染まった。

正確には、そう錯覚する程の怒りや殺意が祈光の思考を

そうして染めあげた、と表現すべきだろうか。


ギリギリと弦を引き絞り、狙いを定めようとする悠誠を置いて、祈光は静かに呟く。


「《生物学(プライモーディアム)蟲体発現(バリアンテ)完全変態(エクロール)》」


新たな力を示すその言葉を発した瞬間、祈光の身体は白い繭に包まれた。それは刻一刻と小さくなり、枯葉のような茶色で、硬質な物へと変わる。

すぐ隣の悠誠だけでなく、ゴブリンすらも祈光のその姿を眺めていた。


「蛹…?」


思わず発された悠誠の言葉通り、それは大きな蛹のような姿をしている。

そうして数秒の後、蛹の背中はゆっくりと裂け初めて…


中から現れたのは大きく、艶やかな黒い角、そして

二枚の黒い翅と、その下に覗く薄い透明の翅。

三対六本の肢を備えたその身体はカブトムシのそれに

酷似している。頭が元の祈光に角が生えただけの造り

であるという事を除けば、ではあるが。


「え?やっば、キモっ…!」


悠誠はデカいのに頭だけ元のままというアンバランスでグロテスクな祈光の見た目に嫌悪感を抱き、それを隠すことなくそのまま口に出す。

心無い言葉に祈光はショックを受けた。

その光景を見て、心做しかゴブリンすらも微妙そうな表情を浮かべている。

しかし、ようやく本来の自らの目的を思い出したのか、

ゴブリンは祈光達を放置してキーラの方へ向かおうと踏み出す。

しかし、踏み出したその足が地につく事はなかった。


元々身体の一部に外骨格を纏うだけだった《蟲体発現(バリアンテ)》から大きく進化し、全身にそれを纏い、そして特有の器官さえも再現した完全変態(エクロール)による翅は、

祈光を驚くべき速度で敵の元へと運ぶ。


ゴブリンに到達する直前、祈光は魔力特有の煌めきをその身に纏った。すると、カブトムシの「腹」にあたる部分から

二本の人間の足が現れ、同時に三対の肢のうちの一対が消え、残りは外骨格を纏った四本の人の腕となる。

角と一体化した兜と鎧、翅を身に纏った人というような姿に

なった祈光が、その飛行の勢いのままにゴブリンを殴り飛ばした。


当惑したような表情のゴブリンの頭蓋がひしゃげ、呆気なく吹っ飛ばされていく。

一仕事終えた、と祈光がキーラに向き直って聞いた。


「大丈夫ですか?」


「え、誰…?」


「!?」


キーラはそれだけ言って気絶してしまった。

窮地のキーラさんを助けた俺かっけぇ

とすら思っていた祈光にとってその反応はあまりに

想定外!青天の霹靂だった。


「いや、そりゃそうやろ。」


驚いて硬直する祈光に悠誠が近づいてキーラに回復薬をかけながら声をかけた。


「え…なんで…?」


「だってお前今、実質人型のカブトムシやで?」


「あ…。」


言われてから咄嗟に蟲体発現を解除した祈光は、

落ち込んだ表情で俯いた。


何となく祈光が可哀想に思えてきた悠誠が祈光を

慰める事数分、呻き声をあげて、キーラが目を覚ました。


「うぅ…」


「キーラさん、大丈夫ですか?」


現状に頭が追いつかないといった様子でパチパチと瞬きをして、その後キーラが叫んだ。


「祈光さん、悠誠さん!戻ってきていたんですね!」


「はい…。」


「調査は…スタンピードが起こったことからして、

あまりいい結果では無かったみたいですね…。」


街の出口へ向かいながら話しましょうというキーラに続いて

歩きながら、祈光達は深く謝った。


「ごめんなさい…間に合いませんでした…!」


それはキーラ達ギルド職員への言葉であり、

アイテムボックスの商人など被害を受けた人々への謝罪だ。

深く頭を下げる二人に、キーラは優しく微笑んで言う。


「過ぎたことは仕方がありません。むしろ…」


「……。」


「生きて帰って来て下さって、約束を守って下さって、ありがとうございます。」


優しい口調で発されたその言葉に、2人は救われたような

気持ちになった。そのままキーラは続ける。


「住民達を安全圏に避難させた後、魔物の群れと冒険者達で総力戦を行います。その為に、何が起こったのかをまずは教えて下さい。」


キーラの強い眼差しは、数多の魔物が迫る中、まだ諦めてはいなかった。この後に続くであろう闘いへの覚悟を固めて、

二人は狂人についてなどの報告を始めた。



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