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転生特典は「生物学」でした。~バンドメンバー&生物教師と往く異世界冒険譚~  作者: 片想い崩壊's
第一章:再会の時、冒険譚の始まり。
30/40

第二十九話「狂気的で効果的な。」

いいね、ブクマ等よろしくお願いします!

「うっぐ……。」


祈光は、腐臭のする大きな部屋で、目を覚ました。


全身が鈍い痛みに襲われ、うつ伏せになった身体は思うように動かせない。それでも何とか上半身を起こすと、地面についた左の手のひらに、鋭い痛みを感じた。


「痛っ!」


その手を見やると、小さなガラス片が刺さって血が出ているのを確認出来た。不思議に思ってガラス片を取り除き、地面を確認すると、そこには砕けて中身が零れてしまった回復ポーションや、キーラから渡されたアイテムの数々が転がっていた。

更にその横には、岩か何かに裂かれたようなアイテムボックスも落ちていたので、祈光は、アイテムボックスが破損して空間魔法が解け、アイテムボックスの中身が出てきて、その衝撃で回復ポーションが偶然割れたおかげで、ボロボロで意識を失っていた祈光が目を覚ますことが出来たのだろうと推測した。


「ってか…悠誠は?」


ゆるゆるとハッキリしない頭で立ち上がり、辺りを見渡すと、祈光は、壁際で地面に倒れ込む悠誠を発見した。


「悠誠!?」


視界がクリアになり、急速に回転しだした頭で

祈光は思い出す。自分たちは狂人に惨敗して、その結果こうなったのだと。

直ぐに悠誠に使わなければ、と散乱した回復ポーションを拾おうとした祈光の右腕は、しかし思い通りに動かせない。

青く変色しておかしな方向へ曲がったそれを見て、祈光は恐らく骨折したのだと判断した。回復ポーションにずっと浸っていた為か、痛みは感じないので、肉体の深部の損傷はポーションを飲む事でしか回復させられず、飲むとピンポイントで効力を発揮させられないために治りにくい事も加味して、祈光は一旦骨折した右腕を放置する事にし、左腕で回復ポーションを拾い上げて急いで悠誠の元へと向かった。


確認すると、心臓は動いているし呼吸もあったので

生きていると分かり、祈光は一先ず安心して、

倒れた悠誠の損傷が大きかった背中や足等に

ポーションを丸々1本分かけて、もう一本の瓶を口に突っ込んで飲ませた。

そうして暫くすると、悠誠は咳き込みながら目を覚ました。


「目、覚めたか。」


「ん、おう。って、その腕…。」


「あぁ、多分折れた。」


「…。」


「なぁ、ごめん……頼み事が、あるんやけど。」


祈光は、迷った様子でそう切り出した。


「ん、何?」


「この腕さ…多分ポーション飲んで回復させるには、時間がかかるやろ?」


「…あぁ、多分。」


「だからさ…」


その言葉の続きを聞いて、悠誠は絶句した。


「は………?正気か、お前。」


「あぁ。早く、街を守りにいかないと…あの人達が…」


途切れ途切れに発された祈光の言葉からは、多くの葛藤が見て取れる。でも、祈光の目は真剣そのものだった。


「だから…頼む。回復ポーションかけるだけでいいから。」


友人の様子に、悠誠はきっと自分がどれだけ止めても聞かない事を悟った。


「あぁ、じゃあ……分かった。」


「ありがとう。」


祈光が悠誠に頼んだ内容とは、回復ポーションを

自分の腕にかけて欲しいという簡単な事だった。

それだけなら簡単なことであるし、直ぐに悠誠も

了承しただろう。ただ問題は、祈光が、骨折した腕を

早く治すために、ポーションを飲まずに使う方法が

あまりに常軌を逸していたからだ。


(早く骨を治すために骨まで腕を切り裂く(・・・・・・・・・)なんて…

とてもあの祈光が考えたとは思えんな…。)


祈光の精神状態を案ずる悠誠をよそに、

祈光は一本の回復ポーションと大きなガラス片を

拾って、ポーションの方を悠誠に手渡した。


「よし…じゃあ……頼むぞ。」


悠誠が頷いたのを確認して祈光は座り込んだ。右腕を地面に強く当てて、震える左手でガラス片を握って、

十数秒深呼吸を繰り返す。そうしてやがて覚悟を決めたのか、大きく息を吸って、祈光は腕を深く切り裂いた。

すぐさま大量の血が傷口から流れ出る。


「うっづぅぁ…!」


呻き声をあげる祈光の右腕に、悠誠は回復ポーションを

かけた。ボコボコと傷口が蠢き、やがて塞がる。


「はぁ……はぁ…。」


狂気的な療法の末に、青黒かった腕は元の色を取り戻し、

祈光は拳を握ったり開けたりしている。


「大丈夫か…?」


「あぁ。死ぬほど痛かったけど…見ての通り…治った。」


「………。」


「よし、じゃあ悠誠、アイテムボックス壊れたから

野営道具のあのカバンに使えそうなものだけ入れて

急いで街に戻ろう。」


あまりにも平然としてこれからの予定を話す祈光に

悠誠は不気味さを覚えたが、取り敢えずは

祈光の言葉に了承して荷物を纏め始めた。


数分後、二人が荷物を纏めき、速度強化も使いつつ洞窟を

出ると、もう日が傾きかけていた。

眩しい程の夕日が木々を鮮やかな橙色に染める道を、二人はほぼノンストップで街へと駆けていく。


日が沈み切って数時間が経った頃、行きと比べれば

遥かに短い時間で二人は街の近くへと戻り着いていた。


恐らく街からは500m程であろうその位置で、二人は聞いた。


何か聞いたことも無いような咆哮と…


『ミバイルの周辺地域で、暴魔現象(スタンピード)が発生いたしました。住民の皆さんは、町長の指示があるまで

家から出ずに待機をしていて下さい。。繰り返します…』


暴魔現象(スタンピード)の発生を知らせる、

どこか諦めも含んだようなキーラの声だった。




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