第二十四話「不足しているのは…」
依頼を受けた後、少しの話し合いをしてから、2人は
依頼達成金と、核石の売却金などを合わせて全部で
金貨二枚と銀貨五枚を受け取ってギルドを後にした。
「なぁ悠誠、巻き込むみたいになってごめん。」
「いや、良いよ。俺も見過ごしたくなかったし、何より慣れてるしな。」
「ありがとう。ってか、慣れてるってのは?」
「元の世界でバンドやってた時から、色々お前には振り回されてたからな。」
笑いながら言った悠誠に、祈光は同意を示して言う。
「命懸けは初じゃね?」
軽口のつもりで言った祈光に、悠誠は悩むように
長い時間唸ってから一言言った。
「そうか?」
「え?流石に初じゃないん?」
「いや、分からんなぁ。」
「引っかかる言い方するなぁ…。」
自分の言葉に祈光は思い出す。
「そう言えば悠誠、俺宿で部屋入る前にさ、
聞きたいことがあるって言ってたよな?」
「ん?ああ、確かに。」
「それ今聞いていい?」
悠誠が頷いたのを見て祈光は切り出す。
「シルヴィアさんに助けて貰った時にさ、
ずっと何か考えるみたいに黙ってたやん?
宿まで歩いてる時にも偶にそうなってるし。
珍しいなって気になるくらい真剣そうやったから
気になってんな。」
「あぁー。いや、あんまり大したことじゃないから
ちょっと申し訳ないんやけどな。
なんか、懐かしい気がしてんよなぁ。」
「懐かしい?」
「うん。シルヴィアさんに助けて貰って自己紹介してる時とか、この街に初めて来た時もそうやし、時折、
薄ら、何となくやけど懐かしいなって思う時があってな。」
「へぇ…。」
その言葉に、祈光は思い返してみる。
祈光は初めて街に来た時、夕方のその賑わいに
確かに懐かしさを感じた事があったので、
悠誠にそれらをそのまま伝えてみる。
「ただ単に、元の世界で似たような場所来たり、
似たような体験したのを無意識に思い出してるだけなんかもなぁ。」
そうして話していると、直ぐに宿に着いたので、
二人はよく感謝を伝えてから宿屋の店主に
遅らせて貰っていた分と、今日泊まる分の宿泊代金を
払って、もう一度外に出た。
二人には夜ご飯を調達する目的と、あともう一つの目的…
手が出る程度の額の武器を買うという目的があった。
夜ご飯は露天で適当なものを買って済まし、
二人は早速武器を探し始めた。
残金は金貨二枚と銀貨三枚だ。
キーラさんにおすすめの武器屋を聞いておいていたので、
地図を見ながら向かうと、コンビニくらいの大きさの
店が直ぐに見つかった。
ドアを開け、二人は中に入っていく。
ドア上部に取り付けられたベルに反応して、
店主らしき男が話しかけてきた。
「おぉ、いらっしゃい。」
二人が何となく会釈を返すと、男は続ける。
「見たとこ、駆け出しの冒険者って感じか。
武器を買いに来たんだろう?」
「はい。でも今まで武器を持った事がないんで、
何を買うかとかはまだ決まってないです。」
「おぉ、そうなのか。じゃあ、合う武器を探すところからだな。」
着いてきな、と言われて二人は言われるがまま奥に進む。
男が奥の扉を開けると、そこには簡素ではあるが
ある程度の広さのスペースがあった。
「ここは?」
「武器を試すためのスペースさ。好きに使ってくれて構わない。」
「ありがとうございます。」
「おう。んじゃ、取り敢えず…これを振ってみてくれるか?」
そう言って男が二人に手渡したのは、
普通の長さで普通の重さで普通の幅と普通の見た目の、
とにかく普通な剣だ。
「あ、はい。っっっってこれ重っ!」
何とかその重さに持ちこたえた祈光の右後ろから
鈍い音が聞こえる。祈光がそちらを見てみると、
悠誠が目を見開いて立っていた。
「は?」
「え、もしかして悠誠お前、剣を床に落とした〜?」
「黙れ。」
「あっ、はい。」
祈光が咄嗟に悠誠を煽ると、殺意すらこもった目で
睨まれたので直ぐに謝る。
それらを見て、苦笑いで店主が話しかけてきた。
「そっちの兄ちゃんは落っことしちまったし、
そっちの兄ちゃんも持つのが限界って感じだなぁ。」
「そろそろ腕が限界です…。」
祈光がそう絞り出すように言うと、店主のおっちゃんは
片手で、と言うか人差し指と親指のみで
軽々と祈光が持っている剣を持ち、
悠誠が床に落とした二本目も、残る中指薬指小指で
持ち上げる。もう片方の手には二振り、
先程のものより大振りの剣が収まっているのが見えた。
「化け物……!?」
「祈光、コイツヤバいぞ。蔓の用意しとけ。」
二人は店主のおっちゃんと臨戦態勢に入る。
「違ぇよ!」
怒鳴られて二人は正気に戻った。
「怒鳴ってすまんかった。あー、これから言うことを、
出来れば怒らないで聞いて欲しいんだが、
多分兄ちゃん達はだな……筋力が足りない。
圧倒的に。絶望的な程に。」
「マジすか…。」
二人は唖然とした。剣を振るための、筋力が足りない…。
予算は足りてるのに、筋肉が足りていない…。
ここに来て、かつて元の世界でバンドメンバーだった
筋肉(仮称)の言っていたことがハッキリと分かる。
いっつもアイツは言っていた。
『不測の事態に備えてmuscle!筋トレjustice!』
ふざけた言葉だと思っていたが、今になって
二人はただ1つ、同じことを考えていた。
もっと筋トレしておけば良かった…。と。