第二十三話「ギルドからの依頼」
「暴魔現象…!?」
「えぇ。もしBランク以上の魔物が大量に発生した場合、
シルヴィアさんの力があっても対処出来るかどうか…。」
その言葉に祈光は息を呑んだ。
脳裏に過ぎったのはシルヴィアが魔狼を葬った一撃だ。
あれだけの実力があっても対処が難しいかもしれない、
告げられた事実に驚く祈光を他所に、悠誠は聞いた。
「なら、なんで原因を調査しようとしないんですか?」
当然の疑問だ、と祈光は思った。
確かに、原因を早く突き止めてしまえば済むように思える。
返答が気になり、視線をキーラに向けると
キーラは目を伏せて悔しそうに答えた。
「シルヴィアさんに迂闊に調査に向かってもらう訳には
いかないんです…。」
「どうしてですか?」
「あの方には…万が一の事があった時に
街を防衛出来る所に居て貰わないといけないんです…。」
その回答に祈光は納得しかけたが、
悠誠は少し躊躇った様子で聞いた。
「…他の街から増援を呼べば…」
「その計画も立てられました。でもそれは
失敗に終わってしまったんです。」
「何故…?」
「現状、ここ…ミバイルが属するメギア王国は、
魔王率いる魔族との戦争を五十年以上続けています。
王国と魔族との戦線は、ずっと争いが続いて
いるのですが、特にここ一年程はその争いが激化していて、
Sランク冒険者は殆ど戦争に駆り出されてしまっています。
残るAランク冒険者はそれぞれの街で防衛の為に
戦い続けているので、他の街に手を貸す事が
難しい状況になっているんです。」
そこまで聞いて、ようやく祈光は合点がいった。
要するにメギア王国が抱えているのは圧倒的な人手不足。
長く続いた戦争が産んだ皺寄せが、この街に来たのだと。
「当然、Bランク以下の冒険者を派遣させる案も
出ましたが、この件に魔族が絡んでいた場合の危険性から、
志願者が出るはずもなく…打ち止めになってしまいました。」
祈光は数秒、俯いて考えた。
この街に来てからの、たった数日の事。
門番のおっちゃんや夕刻の街の賑わい、
値下げをしてくれた商人の人に、宿屋の人、
シルヴィアさん、そしてキーラさん。
この未知の世界に来て、通貨も何も分からない中で
沢山の人に支えてもらって、守ってもらった。
なら、自分が今するべき事は、きっと…
「なぁ、悠誠」
「…正気か?」
「あぁ。怖いし、危険を避けたいとは思うけど、
俺は俺達を見捨てなかった街の人達に報いたい。
これで、足りるかは分からんけど。だから…。」
迷いながらも、ハッキリと言葉を吐き出した祈光に
悠誠は呆れたようなため息をついて答える。
「はぁ…良いよ、やってやろう。」
悠誠のその言葉を聞いて、祈光はキーラに向き直った。
「キーラさん、俺たちが原因の調査に向かいます。」
「え、でも、もし魔族が絡んでたら!」
祈光は安心させるように、笑みを作って答える。
「その時は、どうにか逃げてきますよ。」
キーラは未だ躊躇いながら、それでも絞り出すように答えた。
「そう…ですか。…じゃあ、一つだけ約束を
させて頂いても、いいですか?」
「はい。」
「絶対に、生きて帰ってきて下さい。お願いします。」
涙ぐみながら告げられた言葉に、心配されているんだと
実感する。無事に帰ってこようと、祈光達は決意した。
「勿論です。」
「ありがとう、ございます…。」
その後目元を拭って、キーラは続けた。
「メギア王国ギルド、ミバイルの街支部より、
祈光さん、悠誠さんに正式に依頼します。
『魔石持ち』の大量発生について、原因の調査と、
可能であればその解決を…。よろしくお願いします。」
「任せて下さい。」
かくして、ギルドから祈光達に、正式な依頼が下された。