第二十話「決意を新たに。」
祈光達が街へ帰りついたときには、もう空は明るみ始めていた。
「着いたね。なぁ二人とも、疲れているだろう?
今日は宿に行ってゆっくり休むといい。
私はこれから、君たちの無事をギルドに…というか、
ミーラに報告してくるよ。」
「はい、ありがとうございます。」
幾度かお礼を行って二人は宿へと向かう。
「はぁーー。マジやばかった…。」
「マジで、よく生きて帰ってこれたわ。」
「せやなぁー。シルヴィアさん居らんかったら
マジで死んでたな。」
「なぁー。」
そうして話しながら歩けば、直ぐに宿に着いた。
宿屋の亭主は、シルヴィアさんに回復薬をかけて
貰ったとはいえ、腕や足などにほんの僅かに跡が残り、
かつ一部が破け爛れた服を着ている二人を見て、
お金は持ってる時に払ってくれればそれで良いからね!
と声をかけて部屋に入れてくれた。
この街の人達はやっぱり凄くいい人ばかりだと
思いながら、二人はお礼を言って部屋に向かった。
祈光は後で聞きたいことがあるとだけ悠誠に伝えて、部屋に入った。
悠誠が先程黙って考え事をしていた件についてだ。
そうして、昼間までは寝ようと二人はそれぞれの部屋で、
最低限お風呂で身体を洗って、ベットに倒れ込む。
祈光にとってこの日は、非常に長い一日だった。
変異種と出会った時、強酸の雨を潜った時、
触手に襲われた時、悠誠が吹き飛ばされるのを見た時。
相打ちの覚悟すらもって核を攻撃しにいった時、
やっとの思いで変異種を倒し、ボロボロの身体で
死にかけながら歩いた先に、魔狼が居た時。
何度も、何度も、もう死んでしまうのかと思った。
何度も、何度も何度も力不足を実感させられた。
こんな事になるなんて、つい一週間前には想像すら
していなかったのに。
祈光は、世界を見ると決して平和とは言えないまでも、
それでも幸せに、ゆるゆると暮らせていた頃を思い出した。
そんな暮らしの中では経験するはずのないような
強い痛み。恐怖。それらが解け、アドレナリンの効果も
続かなくなった今、やっと祈光はそれらを直視出来た。
「良かった…。生きてて、良かった………。」
ポタポタと涙が零れる。自分が今日生き延びた事への
涙ではない。祈光はただ、悠誠の事が心配だったのだ。
自らの力不足故に悠誠に庇われて、その結果として
あんな事になってしまったのだ。
祈光にとって悠誠とは、相当な月日を共に過ごした
友達で、かけがえのないバンドメンバーの一人なのだ。
それだけ大切な存在を、もし自分のせいで失うことに
なっていたら。
この世界に来て手にした「魔法」である程度以上は
戦えるようになったとは言え、ただの高校一年生である
祈光の心は、きっと耐えきれなかったことだろう。
暫くはそうして独りで泣いて、その後祈光は涙を拭った。
先程とは変わって強い意志を宿した瞳で、祈光は誓う。
(俺はこの世界で生きていく。誰も失わないように、
知ってる人を死なせないように!)
段々登ってきた朝日が窓から部屋に差し込み、
部屋が眩しく白んでいく。
鮮やかに広がり始めた青空は、ただ祈光の決意を
表すように、雲ひとつ無く澄み切っていた。
凄く区切りは良いですが、1章はまだまだ続きます。
続きもお楽しみ下さい。