第十五話「倒しようのない」
強酸の雨や触手による猛攻を、それぞれのスキルで祈光達は払い、避け、戦う。
攻撃の隙間を縫って先程の要領により触手を削る二人であったが、
そのうちに祈光はある事に気づき、叫んだ。
「なぁ悠誠!」
「なんっや!」
散らされた強酸をヘドバン飛行で避けながら悠誠が反応する。
「あいつ、さっきからずっとサイズ変わって無くね!?」
「は?」
祈光の言葉に、先程から自らが退治するその変異種スライムを、記憶の中の戦い始めの姿と照らして確認する。
「変わってない!というか…むしろデカくなってね!?」
「そうだろ!?」
「いや、でも…そうだとして、どうしてなんだ!?」
焦った様子で回避を続ける悠誠に、同じく回避行動をとる祈光が答える。
「多分やけど…」
「早く言え!」
「あいつ、分解した物を取り込んでるんじゃないか…?」
「はぁっ!?」
そんなの有り得ないという表情で叫ぶ悠誠に、祈光は苦しげな表情で俯く。
それも仕方のない事であろう。その理由は、スライムの特性にある。
基本的にスライムというのは、その身体を削ぎ落としたり潰したりして倒すものであり、
その特徴は、つい数時間前まで祈光達が倒していたスライムにも共通するものである。
祈光達はこのスライムにおいても同じように倒そうとしていたのだが…。
もし祈光の言った事が本当なら、その方法はほぼ実行不可能なものになる。
悠誠が確認の為に強酸を使用し、地面を溶かしたスライムを見ていると、
確かに僅かながら大きくなったようにも見える。
決定的なまでのその光景から目を背けて悠誠は叫ぶ。
「そもそも!それが正しいとして、どうやってそれをやってんだよあいつは!」
「知らん!魔法とかじゃないんか!」
「いや…そもそもスライムは魔法使えんはずだろ!?」
「そうやけど!魔法じゃなきゃ、なんだって言うんだよ!」
そう、スライムはその構造の特性上、魔法を使うことが出来ない。
にも関わらず、目の前のこの魔物は魔法としか言えない方法で、おそらくは自らの酸によって分解したものを取り込んでいる。
倒す方法が思いつかない絶望感と、その状況を打開しようと方法を探していること。
スライムが魔法を使っているかもしれないという常識外れの状況のせいで、集中が揺らぎ始めた二人は、徐々に傷を負い始める。
「おい祈光っ、避けろ!」
「うっぐぁっ!」
強酸に掠っただけの祈光の右腕は、それでも十分なダメージを受け、肌が爛れて
血が溢れる。苦悶の表情を浮かべる祈光に、それでも酸の雨が降り注ぐ。
「くっっ」
蔦で防ぎ、走って避けるが、それでも数滴は掠ってしまう。
「ぐっああああっ!」
「大丈夫か!?」
悠誠から声がかけられるが、今の祈光にはそれに返す余裕がない。
苦しみ、痛みに蹲る祈光であったが、スライムはその絶好の隙を逃してやるほど甘くはない。
スライムは悠誠に強酸をかけて牽制しつつも、触手を祈光に向ける。
そしてゆっくりと振り上げ、祈光を睨みつける。
今の祈光に、それを避ける術などあるはずもなく…
触手に打たれる覚悟を決めた祈光に向けて、触手が振り下ろされた。