プロローグ
「あぁそうだった...」
木漏れ日が差し込む窓際で、老年の女性は一人静かに、ただ幸せそうに、声に喜色を乗せて呟いた。
まだ幼さの残る文字の羅列に目を通す彼女の表情は、少し恥ずかしげで、時折何かを思い出すかのように透き通った翡翠色の目をした視線を左に向けて思案する様子は、とても【迅雷の魔女】と各人に恐れ、怖られ、畏れられている人物には見えなかった。
それは日記だった。ところどころ擦れて見えなくなっており、自分で働いて得た金で初めて買った物で、最初は幻想的に見えていたであろう星が並んだ表紙は、もうほとんど見えない。
一枚一枚丁寧に頁をめくり、一節ずつ読み解いては過去を振り返り懐かしんでいた。
もし幼子がこれを読んだのなら、きっと物語の英雄譚を読むような気持ちで興奮し、友と語らいながら木の棒を振り回し、将来は自分も、と思い焦がれていたことだろう。
それほど彼女の冒険は濃く、何物にも代えがたいものだった。
有名になれば仕方のないこととはいえ、噂というのは尾ひれがつくものである。
そんな中ここに書かれていることだけが真実であり、彼女の冒険のすべてだった。
何時までそうしていたのか、気が付けば日が傾き淹れた紅茶も、とうに冷め切っていた。
「いけない、もうこんな時間。」
女性は一人そう呟くと席を立ち、垂れてきたウェーブがかった淡い金色の髪を耳にかけ、角が潰れて丸くなった古びた日記をまるで可愛がるように一度撫で、上から下までびっちりと入った本棚の一角の本一冊分ある隙間に大事そうにしまった。
日記は擦れてところどころ見えなくなっていたが、右下にはかろうじて読める字でこう書かれていた。
'ラルーナ'
【迅雷の魔女】
この世には何か偉大な実績を残した人物に二つ名や異名がつけられることがある。
二つ名付きにも色んな人物がいるが、迅雷は中でも比較的温厚な方だった。
だが、敵対者に対する容赦のなさから噂に尾ひれがつき、何時しか彼女に手を出す人間は少なくなった。
それでも一般市民には優しいので、密かに彼女のファンが一定数いるのはここだけの秘密である。
まずは、この作品に目を通してくださってありがとうございます。
私自身初めての挑戦ですのでどうか温かい目で見守っていただけると幸いです。
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