ただ束縛したいだけ
前作の裏。
正直に言うと自分ほど勇者という言葉が合わない存在はいないだろう。
だけど、その名前を誰かに譲るつもりはない。
我が国の王位継承は勇者の資質があるか否かに掛かっている。
初代王が勇者として封じた魔王がいつか復活してもおかしくないので王位継承は勇者の資質がある者で勇者として、王として心身を鍛えた者が即位すべき。
その遺言によって、王族の傍流である自分が継承者になった。
「お前を育てて正解だったな!! さて、王サマになるのならいくらでも贅沢できるな!!」
と、普段から酒と賭け事をして遊び惚けている王族の末裔を嫁にした父は息子が王位継承位を得たとたんますます賭け事と酒にのめり込めると王家に僕を育てた養育費を出せと喚いたので今までの行いをすべて陛下に報告したから、今頃開拓地で昼夜問わずに働いているだろう。
そんな父の顔に騙されて必死に父に貢ぐためだけに働き続けた母は、そんな自分を親不孝者だと罵ったが、そんなの自分が一番よく知っている。
赤ん坊の頃に育てるのが面倒だとばかりに静かにしろと名付けられて、育児放棄されていたのを隣に住む娼婦が気まぐれに育ててくれなかったらとっくの昔に死んでいただろう。
そんな情の無い自分が、勇者になれるとは思わない。勇者に相応しいのは。
「山道できついけど、皆大丈夫?」
その地に向かう途中で自分も体力的にきつかったのに周りに気づかい、倒れそうになっている子供を支えている陛下の娘――ディアーナ。
自分もフラフラなのに自分の分の水を与え、周りを助けている様をじっと見ていた。そして、目的地に辿り着き、王位継承の資格を聞いた時に彼女こそ勇者だと感じた。
…………だからこそ、彼女を勇者にさせたくないとも。
「また僕の勝ちだね~」
のほほんと定期テストの結果が張り出されているのをディアーナと眺める。
「………一点差。しかも誤字で減点」
結果を眺めて落ち込んでいるディアーナに向かって。
「誤字脱字は気を付けなきゃ~。即位する時にそれで揚げ足を取られて政策が取れなくなるかもしれないしね~」
のほほんと追い打ちを掛けるとキッと睨まれる。
「次は勝つ」
「頑張ってね~」
と本気で応援をしているが気の抜けた口調なのでそんな風に聞こえないと文句を言われる。
そんな彼女が用事があるからと離れる。その途端。
「すごいですね。クワイエット様」
「流石です!!」
とどこからともなく大勢の女子生徒が集まってくる。
次々と褒め称える声に内心げんなりしつつも、
「所詮傍流のくせに」
ぼそっ
どこからか聞こえた呟きを耳で拾い、そっとそちらに視線を向ける。
あの時同じように試練を受けた子供だとすぐに気づき、その子供の傍に控えている従者を見て、従者の口の動きに注目して一瞬だけ表情を険しくする。
だけど、周りに当然悟らせない。
「失礼」
用事を思い出したとばかりに女子生徒から離れ、先程の二人を追いかける。
まあ、二人にしたらたまたまこちらに来て人気のないところまで来た都合のいい奴と思われているだろうけど。
「飛んで火にいるとはまさしくお前のようだな」
勝ち誇ったような声。
「アデイルが教えてくれたのよ。継承者候補が事故に合えば俺が王になれるとな」
と、告げて、どこからかともなく大勢の配下(?)を呼び出してこちらを襲わせる。
「――忠告しておくよ。遅いけど」
エーテリオンとたまたま持っていた羽ペンを媒介にして聖剣を召喚して、
「きちんと相手の素性と信頼できるかを調べた方がいい」
エーテリオンを一振りするだけで、配下の者たちが魔物に変化する。
「なっ、なななっ……」
「嫉妬を突かれて利用される。五代目国王の時にあった手段だね~。まあ、それはいいとして」
ちゃかっ
エーテリオンをアデイルと呼ばれた魔物の頬に充てる。
「ディアーナを襲撃するってどういう事かな?」
話してくれたら痛みを少なくして殺してあげるよ。ああ、言いたくないのなら言いたくなるまで説得するから。
にこやかに告げる脅迫の言葉。
その言葉に恐れをなしてすべてを話させたのは当然だった。
「分かり切っていたけど、いい加減面倒ね」
「なら、継承権を辞退すれば?」
にこやかに告げるが、
「お断りよ」
と一刀両断されてしまう。
(う~ん。手強いな~)
彼女の考えは分かる。魔王が復活した時に矢面に立つのが自分だとこちらを気遣っての事だと。
――まさしく勇者の資質。
そんな彼女が誰よりも勇者に相応しいからこそ譲れない。
非常事態になって勇者とか王と言われて戦って傷付く様を見ていられないし、全てを助けようとして出来ないで心に傷を負うのも分かり切っている。
そんな優しさと厳しさを持っている彼女を守りたいし、そんな彼女よりも前で戦っていきたい。
それに。
(王配じゃ嫌なんだ)
自分の周りは常に自分を利用しようとするものばかりで誰もクワイエット自身を見ようとしなかった。
そんな自分を真正面に見てくれたのはディアーナだ。
(君が王になったら僕以外の者に抱かれるつもり?)
義務だから?
そんなの耐えられないし、許せない。
「僕が王配になるよりも君が王配の方がいいと思うけど~」
側室を持つ必要はあるけど義務じゃない。ディアーナの負担は大きいかもしれないけど、ディアーナ以外と関係を持つつもりはない。
それに王族であるのなら傍流でもいいし、傍流同士で結婚させて血を濃くしていけばいい。
(英雄色を好むという困った影響で種を撒くだけが取り柄の男もいるしね)
そんな男によって生まれた母という前例も居るのだ。
そんな野望があるからこそ王位は譲れなかった。
少しは恋愛要素増えたかな~?