3 イケメン過ぎて、宮司の君。
ザザッと落ち葉を履いてみる。 え? ナニ、これ?
落ち葉の下から、菓子パンや、アイスクリームの薄汚れたパッケージが顔を出す。
はは〜ん、公園のベンチで食べて‥空袋は投げ捨てた、ってことか。
「もう‥誰よ。こんなことすんのは」
ブツブツ独りごちる。
「ここは風通しが悪く、、滞っている感じだな」
え!? 突然、背後から不機嫌な声がした。
驚いて振り返って、もう一度びっくりした。
…… うわぁ! 綺麗な男の人。
なんだろ、とても静かな気配だ…
背後に立っていることに全く気がつかなかった。
「滞る‥って?」
復唱したが、実は、その美しい姿に心は釘付けになっていた。
大きな切れ長の瞳が綺麗… どこまでも澄んで
鳶色っていうのかな? 背も高く、まったくと言っていいほど笑みは浮かんでいない唇も申し分ない色と形だ。
歳の頃は、20代半ばから後半といったところか。
そして、身につけているのは 神社の宮司さんが着ている
確か‥装束と言ったっけ。白衣と袴も真っ白。
神々しい…。
チリリン〜♩ そこに鈴の音。
いつの間にか近づいて来ていた巫女ちゃんが 甘える様子で、白い袴の裾の方にゴロゴロと喉を鳴らしてすりすりしている。
「探したぞ 」
そう言うと、美しい宮司の君は ( …うん。『宮司の君』そんな古めかしい呼び名がピタっとハマる)、巫女ちゃんを抱き上げ
冷たく閉じていた唇の口角を上げて‥それはそれは優しい微笑を浮かべた。
キツそうな人かと思ったけど
ふーん、こんな風に柔らかい表情もするんだ‥
それに、巫女ちゃんが人に抱かれているのを初めて見た。
巫女ちゃんも嬉しそう。私までそんな様子に笑みがこぼれる。
「この猫が‥見えているのか?」
宮司の君が聞く。
「はい。私が小さかった頃、神社の境内によく逢いに行ってました」
「ほぉお。そうか。名は?」
「え?」
「名前を聞いている」
ちょっと威圧的に聴こえる声に、私はおずおずと
「奏恵 (カナエ)です」と応える。
「では、奏恵。ぶしつけではあるが、その勝手口の横の汚れた大きなゴミ箱は場所を変えなさい。そこは鬼門にあたる」
「鬼門‥?」
「さっさとする!」
「は、はいっ!」
な、なによォ〜。そんなにイラつかなくても‥
でも、何故だ ろうか。この人には抗えない。
おどおどと急いでゴミ箱を持ち上げた。
「 ヒィッ!」 ゴミ箱の底と地面の間から蜘蛛がわらわらと這い出して来た。
蜘蛛の巣もびっしりと張られている。
「蜘蛛が居ることが問題なのではない。ろくに洗わず、もうずっとその場所に置っぱなしにしていることが良くないのだ」
確かに、ずっとここに置いてゴミを捨てているが、雨風に吹きさらしになって劣化している上に土埃で薄黒くなっている。
「まず水洗いして、場所を変えること」
「私が‥?」
「勿論だ。他に誰がいる」
「‥は、はい」
「落ち葉も、また明日になれば沢山落ちてくるだろう。
毎日、朝起きてからと学校から戻ったら履き掃除をしなさい」
「毎日‥!2回? 私が?」
「だから他に誰がいる。親御さんは忙しいのであろう?
ぼさっとして手の空いている者がするのが当たり前だろう」
「ぼさっと?私のこと!?」
「ああそうだ。ぼさっとして察しの悪い‥」
言いたい放題言い放つと、くるりと背を向け その人は
巫女ちゃんを連れて行ってしまった。
暫く、呆然としていたがはたと気がついた。
なっ、ナニよ〜! その言い草は。おまけに、あの見下げた目つきは!
何が、宮司の君だ!私のバカ。 やな奴‥
とびきりのイケメンだからって何を言ってもいいわけじゃないんだぞ〜。
カッとなったが、まぁ言われてみれば確かに汚いゴミ箱・・・私は ゴミを取り出し、ジャブジャブとゴミ箱を洗ってイッキに雑巾で拭きあげた。
今度はその勢いで、ホウキを手に落ち葉やゴミ屑を履いてゆく。
サッザッザッ、履く音が響いて 通りすがりの人々が何気なくこちらを見て通る。
「あら、こんばんは。ご苦労さま」と調剤薬局のあの古株薬剤師のおばさんが笑顔で通り過ぎた。
こんな上機嫌でこの人に話しかけられたのは初めてだ。
フゥ―、綺麗になった。
気がつくと、辺りは茜色の夕焼けに染まっている。
腹立ち紛れで始めた掃除だったけど、やってみると案外
気持ちがスッとした。
そこに、頬を撫でる風が吹く。 ‥あの宮司さんの名前も教えてもらえば良かったかな。 そうだ、また白猫の巫女ちゃんに逢いに神社に行ってみよう。
グゥキュルルル‥ 急にお腹がなった。
タイムトリップ?そんな特種な状態にあっても、やっぱりお腹は普通に減るんだな。
私は、ホウキを戻すと家の中へと入って行った。