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巫女は神を信じない  作者: 夢々
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【雨に願いを】プロローグ

小説家になろう、初投稿作品です。


楽しんでもらえれば幸いです。

 御影澪音みかげれいんと出会ったのは、僕がこの森に住むことになっておよそ二週間が経ち、世間一般ではお盆を迎えようかというときだった。


 毎日会社で汗水垂らし働いてくれている多くの父さん母さんも、このときだけは一時の休息が与えられる。

 僕の両親も例外ではなく、よく家族三人で旅行に出かけることも度々あった。

 僕にとってのひいひい爺ちゃんのお墓参りも、この時期ならではの恒例行事の一つ。

 

 お盆と言えば、先祖の霊があの世と呼ばれる場所から帰ってきて、家族との時間を過ごし、またあの世へと帰っていく、というのがよく知られている話だけど、お盆そのものに明確な起源はないらしい。

 僕の家族に至っては、お墓参りの後は親戚の集いに参加し、普段あまりお酒を飲まないお父さんも、この日だけはと酔いつぶれるまで盃を交わし、帰りには愚痴をこぼすお母さんの車に揺られていく――そんな光景も、もはや見慣れたものである。

 

 いずれにしても今日という日が、全国各地でお墓参りやら旅行客やらで人がごった返している、お盆の真っただ中であるということは間違いなかった。

 

 そんな今日。

 

 今日という一日の、お昼を過ぎたころ。

 

 この森の管理者であり、僕がこの森に住むきっかけにもなった神薙神楽かんなぎかぐらから貰った雑な地図を頼りに、森の中を彷徨い……もとい、おおよその目的地を目指し、僕は歩き続けていた。

 

 馬鹿みたいに快晴な空下で、馬鹿みたいにわかりにくい地図を頼りに、馬鹿みたいな頼まれごとのために。

 

 ――神薙かんなぎの森。

 

 神薙神楽かんなぎかぐらの名字をそのまま宛がった、なんの細工もない、一見すれば何の変哲もない、背の高い木々が密を成しているだけの深い森。


 本来、当初の予定だけで言えば、この森は僕にとって憩いの地となるはずだった場所でもある。それがあの出来事……高校生になり、初めての夏休みを迎えた、今からおよそ二週間前の出来事。

 

 僕の十六年という短い人生のなかで起きた、壮絶で壮大な一日の出来事により、憩いの地になるはずだったこの場所は、僕にとっての永住の地へと変わった。

 

 人生なにが起こるかわからないと先人は言うのかもしれないが、おそらくこんな展開は、誰にも予想はできなかっただろうと、今の今でもそう思う。

 

 ただの平凡な高校生が、たった一日の出来事でその存在を失い、その後は森の中で生涯を生きていくことになる話など。


 このまま二週間前の話しを語りだすと、脱線どころの騒ぎで済まなくなるので、ここでは割愛するけれど、今はこの神薙の森での生活を余儀なくされることになったということだけは理解してほしい。


 そんな自己紹介も兼ねた、さらには思い出話を語りだしそうで語りはしない優柔不断な僕が向かっている先。


 渡された地図に描かれた丸印+この辺り! の文字を頼りに、景色の変わらない森を歩き続けた僕は、奇跡的……かつ偶奇的に、一人の少女と出会うことになった。


 幼顔でありながらも、利発そうな顔立ち。

 白と水色の袴に、水色の髪。髪型はツインテイルで、左右の髪留めには、てるてる坊主が括り付けられている。

 

 ――否。

 

 てるてる坊主ならぬ、るてるて坊主である。

 

 今時、てるてる坊主ですら聞き慣れない言葉だと鑑みるに、るてるて坊主に至っては死語に値するかもしれない。

 晴れを願うおまじないとして伝わるアイテムがてるてる坊主であり、照る照る坊主だとするならば、るてるて坊主はその逆。


 ――晴れを嫌い、雨を願う。

 

 事実、運動が苦手な僕は小学生の頃、翌日の運動会が中止になれと願い、こっそりるてるて坊主を作ったこともあるわけで。

 

 しかし、そんなものはあくまでおまじないの道具であり、そう願いはするものの、願った通りになるなんてことはほとんどない。

 

 過去の僕がそうだったように、そんなものを準備してまで願うときは大抵、天気予報で明日の天気はわかっているのだから。

 

 ――わかっているからこそ、願う。

 ――そうならないように、祈りを捧げる。


 明日の予報が晴れだと言っているのに、わざわざてるてる坊主を作る人は居ないし、よしんばそんなものを用意したとしても、過去から積み上げられた観測データをもとに予報された天気を、たかが一人の祈りで覆すことなど、できるわけがないのだ。

 

 こう言い切ってしまうと、ロマンがないだの現実主義者だの罵声を浴びせられそうだが、実際そうなのだから仕方がない。

 

 僕の場合は尚更、仕方がないと……諦めざるを得ないと、痛いほど身に染みる体験をしたのだから、やはり仕方がないのだと、そう思いたいだけかもしれない。

 

 願った通りにことが進むなんて、そんな都合の良い世界では、ないのだから。

 

 この世界でも……どの世界でも。

 

 るてるて坊主から飛躍してしまったが、そんなおまじないアイテムを髪留めに、しかもツインテイルで二つも括り付けている少女が、僕の目的……いや、神薙神楽が探している人物だということは大方予想できた。

 厳密に言えば、るてるて坊主ではなく、てるてる坊主であるほうが望ましかったわけだが、僕がこの森に来る以前……およそ一ヵ月半前からこの森に起こっていることに、何らかの形で関係しているのは間違いないのだろう。

 

 一ヵ月半、この森にだけ雨が降らないという、その事実に関わっている人物であるということは――


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