1300ccの君と自力の僕。
「はぁ、はぁ」
息を切らしながら、何度かもよく分かっていない勾配の坂を登る。
「何だってこんなあちぃのに外に出なきゃならんのだ??」
愚痴をこぼすが、聞く人は誰もいない…
だが、誰もいなくて良かった。僕は正直、そんなに嫌だとは思っていないのだ。
僕の高校時代からの愛車であるクロスバイクは、そんなに専門的な整備はしていないにもかかわらず、今のところ問題なく動いている。
「はぁ…着いた…」
坂を登り切ると、赤茶色と乳白色のストライプが特徴のド派手な見慣れた校舎が目に入った。
スススッと脇道にそれて、駐輪場の中でも木々が太陽を遮っている部分にチャリを停め、鍵を胸ポケットにしまうと歩き出す。
「よーす」
「おっ!待ってたぜ!」
パソコンを開き、レポートを書いたり、資料を作ったり…でも、本当の目的はこれではない。
「なぁ、そろそろじゃないか?」
「うん、僕は行くよ」
「…ま、がんばれよ!」
僕が外に出ると、真っ黒なライダースーツを着た女性が1人、バイクに跨って僕を待っている。
「ようやく来たわね、後ろ乗りなさい」
「はいはい…」
彼女が被っているヘルメットとは違い、顎が出ていてなんとなく丸っこい感じのヘルメットを被り、僕はタンデムシートに乗る。
ウィーン
彼女は僕が後ろに乗ったのを確認すると、スタンドを払い、キーを捻った。
コックピットのメーター類が一斉に動くのを見ると少しテンションが上がる。
彼女とはインカムなどで繋がっているわけではないので、ヘルメット越しに微かに、「行くわよ」と声が聞こえる。
キュキュ、ゴォォォォォォ…
バイクのエンジンが始動した瞬間、周りの音はかき消され、世界が変わったかの様な錯覚に陥る。
車体がするすると前方へ滑り出し、僕はタンデムバーを握り締める。
初めて乗った時は、彼女の身体に腕を回したのだけど、「(タンデムバーがあるのに)積極的なのね」と言われて恥ずかしかった。
景色が流れていき風が身体に当たる。少々暑いが、チャリを漕ぐよりかは随分涼しい。
時間は数分。
大手スーパーの裏で停車し、僕はバイクから降りる。
「帰りにまた来るわ」
「ありがとう」
数歩あるいてから振り返ると、彼女はもう、曲がり角を曲がって見えなくなるところだった。
「急ごう」
僕はエプロンを装備すると、店に出る。
装備なんて言い方、カッコつけすぎか…
品出しやらなんやらして、休憩時間になる。
「そういえば」
僕は、バイクの中古車情報サイトを開く。
「これっぽいか?いやいやもっとおっきくて…」
「なに〜キミ、バイク欲しいの?」
「え、いや〜…そうっすね」
「きゃ〜カッコいいね!」
「ははは」
先輩は良い人だけど、ちょっとだけニガテだ。
その後、バイトをそつなくこなして、時刻は午後8時。
「いくわよ」
「はいはい」
彼女と僕は走り出す。
駐輪場の前に着くと彼女はバイクを止め、僕はバイクから降りる。ヘルメットを脱いで、一応匂いを嗅ぐ。僕の頭臭ったりしてないよな?…いや、大丈夫そうだ。
「今日もありがとう」
「ええ、次はいつ?」
「次は金曜」
「わかったわ」
いつもの会話、だから次に続くのは…
「じゃあ問題ね」
「はいはい…」
これだ。
「このあいだは、あなた、答えられなかったわよね」
「はい、すいません」
彼女は、取っていたグローブをはめ直す。
「問題よ、私の乗っているバイクの名前は?」
このあいだと同じ問題だ。
「分からない?」
「いや…」
ちゃんと調べてきたからな…
「GSX1300R隼」
「ふーん、正解よ」
間違ってたら恥ずかしいからな、あってて良かった。
「じゃあ次の問題よ」
…なんだって???第2問があるなんて聞いてないぞ…
彼女は少し、迷った様な素振りを見せた後言った。
「問題、私の名前は?」
僕は思考停止する。だって…
「わからない」
「そう…ざんねん、ね」
彼女は、バイクの、隼の、エンジンをかける。
世界は塗り変わり、僕の声も、彼女の声も、多分誰にも聞こえない。
彼女の姿が見えなくなった所で。僕は1つ息を吐いた。
「わかるわけ、ないじゃないか…」
僕は彼女の、顔を知らない。
文章書くのって意外と難しいからそれの練習的な奴。
物語がどうなっていくのか、続きは適当に妄想してくれ。