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敵影はどこ?

 ヘラオに魔獣たちの指揮を任せ、俺とモルフィは敵がいるであろう場所の偵察に向かう。


「お、おい! もう少しゆっくり!」


「えぇ⁉ 嫌です! だって……暴れると、もっとギュッとしてくれるので――」


 あまりの恐怖に、モルフィが何か言っても聞こえてこない。

 ドスドスと、杜の中を走る魔獣の背中に俺は乗っていた。 ベア型の獣で、大きく力も強い。

 間違いなく、この杜の中でもトップクラスの戦闘力をもつ種族であった。


 しかし、情けないことに、この不安定な背中に揺られ、振り落とされないように、娘の背中にガッチリとしがみついている。

 だから俺は歩いて行こうって言ったのに――‼


 

「ゼェハァ、ゼェゼェ」


 もうダメだ。 吐く……。

 敵が陣を築いていると思われる山の中腹まで一気にきた。

 山道は更に酷で、意識が遠のいてきたので、無理を言って降ろしてもらう。


「もう、本当にケトル様はだらしがない」


 ベアの魔獣を撫でながら、プンプンと怒る我が娘。 しかし、しかし‼ 苦手なものは苦手なんだから。


「でも、おかげで、かなり早く目的地に到着できたようだな」


 山頂付近に目をやると、野営で行われる煮炊きの煙が若干見え始める。

 それに、この薪を燃やしたときにでる匂いも風にのって、こちらまで運ばれてきていた。


「そうですね。ここまで侵入を許すなんて、相手は随分と余裕なようで」


「確かに、目的はハッキリしないが、ずいぶん長い間、ここに駐屯しているようだ」


 あの小川に食材カスや、汚物類を垂れ流しにしていたのだろう。

 その水を飲んでいたのかと思うと、更に吐き気が増してくる。

 

 これからは、忍び足でいかなければならない。

 ゆっくりと慎重に進んでいくと、いつくかの痕跡が見え始めた。


「これは?」


「それは、魔族が使う武器で魔弓の(やじり)が破損したやつだな」


 モルフィがそれを拾おうとしたとき、俺は止めさせた。

 魔族の弓は特殊で、飛距離を犠牲にして殺傷能力を向上させているものばかり、おそらくこの鏃にも何かしらの魔法か毒が塗られている可能性がある。


「ちなみに、人間の弓は?」


「人間のは精密で、飛距離、威力、どちらをとっても申し分ない、だが単純な威力だけなら魔族側に軍配があがるな、最悪掠っただけで、死ぬ場合もある」


 靴で鏃を蹴って、谷に落とすと歩きを再開した。

 これで、十中八九、布陣しているのは魔族であることが伺える。


「しかし、魔族五百だと? かなりの軍勢だ」


 たらりと汗が首筋を流れていく。

 魔獣も強いが、正規の軍が使用する武器を身に着け、それに人間よりも強い魔族が五百以上となれば、誰でも嫌な感じしかない。

 だが、進むにつれ、違和感を覚える。


「おかしい、何か変だぞ?」


「変? 何がですか?」


「いや、単純に見張りが居ない点、それに魔族五百以上の軍、山間部への布陣、どれをとっても違和感しかない」


 なぜ、わざわざ、こんな場所に陣を? それに、川底にある程度溜まるまで居続ける理由とは?

 まさか……? いや、深読みし過ぎかもしれない、ただ、俺が魔国を退いてから十五年という月日が経過している。


 その間に和睦が成立し、大きな争いの香りは届いていない。


「どうかしましたか?」


 モルフィが心配そうな顔でこちらを見つめてくる。

 もしかすると、予想外のことが起きているかもしれない。 それを確かめるべく、俺たちは先を目指していく。


「……」


 ベア型の魔獣が足を止め、鼻をクンクンとさせて始める。

 きっと近くに何かあるかもしれない。 俺とモルフィだけで進み、コッソリと様子を伺うことにした。


「あった」


 先に見つけたのは、モルフィで目視でもハッキリとわかる距離まで俺たちは近づいていた。

 そこには、異様な光景が広がっている。


「嘘だろ――!」


 魔国の東方守護魔族 アマイモンの旗印が見える。 地を司る紋章が目印で、幾度となく人間の侵入を拒んだ名魔族だ。

 そして、信じがたいことにもう一つ見えるのは、人間の旗印。


「あれは、西の最大勢力シルバータイガー‼」


 白いタイガー型の聖獣を印にしている、対魔族の最大組織【シルバータイガー】、いくつもの貴族、領主が集まり結成された大規模な軍隊で、その中でも爪の印を旗に結び付けているのは、第二勢力の白銀騎士団の紋章であった。


「え? 人間と魔族の混合部隊?」


 モルフィもこの異様さに気が付いて、口を開く。

 

「あぁ、間違いない。 あの二つの旗は嫌というほど見たことがある」


 兵站を見ると、かなりの量の荷物が運ばれており、山岳部にしては平たんな場所を利用して、合同訓練を行っている。


「数は、ざっと見ても人間三百に魔族が二百か」


 総勢五百の軍勢が、槍や弓をもって訓練を続けていた。

 なぜこの場所で⁉ 意味がわからない。 お互いの練度を高め、連携もとりだしている。


「まさかな」


 チラッと、あることがよぎったが、無理やり考えを戻していく。

 

「これで、なぜ小川に沈殿するまで軍がいたのかわかりましたね」


「そうだな、かなりの期間を合同演習に当てていたようだ、そして中々の練度になりつつある」


 次の段階に移行するまで、もう少しというところか……。 しかし、ここで立ち止まっていても、何も始まならい。


「よっし、手っ取り早く一人か二人、捉えて情報を聞きだせればいいんだが」


 そんな都合よいことなど起こるはずもない。 相手の出方を見たほうが賢明と思えたとき、モルフィが背後を気にしだした。


「‼ 来ます!」


 

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