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消えない傷痕

愛はお金に負けるらしい。

作者: 水紅

 愛はお金に負けるらしい。


 肯定する人もいれば、否定する人もいる。

 賛否両論が分かれるだろう。


 そして、この一つの真理を私に教えてくれたのは、血の繋がりのある実の姉だった。




 私の姉は、誰よりも自分勝手で、でも誰よりも人の目を気にする人だった。

 暴れ出したら手がつけられない。叫び声はアパート中に広がって、母が言うには道路を挟んだ向かい側にまで聞こえてきたこともあったそうだ。



 今ではもう思い出せないくらい些細なことで、小学生のとき机を壊されたことがあった。姉の一蹴りは容易く机の引き出しを壊した。

 姉が暴れ出したら手をつけられないことなんて、そのときにはもう既に理解していて。


 壊れた引き出しを見て思うのは、悲しみじゃなかった。

 ただただ、何か心の奥の大切なものが少しずつ壊れていくような。


 それは、キッカケに過ぎなかった。




 怒声。狂声。奇声。

 一体、どの言葉で表すのが最も適切なのか。

 私には分からない。

 大事な部分は既に麻痺して、これが“普通”で“当たり前”。

 小学生だった私は本気でそう思っていたのか、それとも気づいていて気づかないフリをしていたのか。

 私には分からない。



 “普通”も“日常”も、そんなもの人によって環境によって変わる。

 家族は愛するものだって、そんなの誰が言ったのだろう。

 きっと、世界の大半の人にとっては、それが真実で、それが普通で、疑うことのない当たり前。



「お前らがいるから、私の使う金が減る。早く出てけ。」



 それは、言ってはいけない一言で。

 超えてはいけない一線で。

 私たち家族の、家族なんて名前の醜いヘドロのような何かを崩壊させる決定的な一言だった。





 姉にとっての真実は、愛よりお金。家族よりお金。

 それが“普通”で“当たり前”。

 不確かで朧気で見えない何かよりも、金の方がきっと彼女を幸せにする。

 家族なんて綺麗な言葉で飾っていて、それでもその歪さが醜さが隠せない私たちよりも、金の方がきっと彼女を幸せにする。

 するんだろう。


 だって、そうでなきゃ。

 血の繋がった実の妹である私は、あっさり金なんかに負けたことになる。

 お金が悪とは言わない。

 でも、それを簡単に受け入れられるほど私は大人でもないし、物分かりがいいわけでもない。



 暗い夜の中、確かあれは水曜日で、次の日も学校があって、それでも母と二人で家を追い出された。

 父は姉が暴れ出してすぐに、空気のようにいなくなっていた。

 それもまた私にとっては“普通”のことで、どうせパチンコにでも行ってたんだろう。


 次の日家に帰って来て、私と母がいないことに気づいてあの人が何を思ったのか、私は知らない。

 そもそも、居ないことに気づいていたのか。

 まあ、今更だ。



 それから、家を追い出さた私たちは、母の姉の家に転がり込んで、それなりに紆余曲折があって。

 私が小学六年生に進級するくらいの頃に、離婚が正式に成立した。


 こうして、私と母と姉と父の四人で構成されていた家族のような何かは、きちんと終わりを迎えた。

 なるようになったのだ。

 最初から、きっとこうなる運命だった。




 愛はお金に負けるらしい。

 私には何が真実か分からない。

 でも、これも真実の一つなんだろう。


 愛かお金か。

 私の答えが出るのはいつか。


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