面会
女性弁護士は緊張していた。
今まで、多くの事件の被疑者の弁護をしてきた。こうやって面会に行くのも、決して初めてではない。
だが今回は、勝手が違う。相手は学校の頃からの知り合いで、しかも有名人。その上、かかっている容疑は大きい。彼女は凶悪事件被疑者を弁護したことはない。些細なご近所トラブルや、子どもがかんしゃくを起こして学校で問題を起こしたとか、認知症の老人が万引きをしたとか、そういうことをまるくおさめるのが主な仕事なのだ。凶悪なものでも精々、ロッカールームでふざけた揚げ句に学校の備品を破壊したとか、その程度である。
それに、どうして事件が起こったか、どんな事件なのか、くわしいところを彼女は知らない。ただ、彼女の友人がまきこまれた、という話から、彼女の友人が犯人だ、という話になり、そして友人の親族から連絡が来た。警察に対してなにも喋ろうとしない「犯人」をなんとかしてほしいと。
彼女の友人は、病院に居る。怪我をしているのだ。それになにか、体に問題が起こっているらしい。
事件が起こったのは一昨日だ。彼女が警察官に連れられて、リノリウムの床を踏み、友人の病室へ行くと、点滴につながれた痛々しい姿が目にはいった。彼女は涙をこらえ、努めて冷静な声を出す。「ハイ、久し振りね、……」
弱々しい頷き。どうしたことだろう? 結婚したばかりで、しあわせだと思っていたのに。どうして?
椅子が用意されていた。女性弁護士はそれに座る。警察官が出ていく。
「話を聴きに来たの」事件の被疑者に対して、こういう話しかけかたが適当なのか、判断がつかない。それでも話すしかなかった。「あなたの身に起こったこと。あなたがとった行動について。あなたがどうして……」
友人は天井を見ていた目を、彼女に移した。耐えがたいような沈黙があって、友人は口を開いた。
「一年前のことから話したほうが、いいかな」