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6-047. さよなら、先生①

 先生の笑顔が光る一方で、彼女の手からはどす黒い輝きが放たれていた。

 その輝きは、手のひらの上を浮遊する六つの宝石から放たれている。

 ……奈落の宝石に間違いない。


「これは、人間の怨念、憎悪、悔恨――そういった負の感情が、濃密なエーテルを宿した宝石を濁らせた時に生じる忌み物。長年の探索でようやく六つだけ見つかった貴重な品です」

「先生……」

「もうわかっているのでしょう。私達の目的が」

「……大海嘯(グリムス・ヴァース)

「その先は?」

「エル・ロワ全土を飲み込ませ、闇の時代を復活させること、か……」

「よくできました」


 ニコリと笑う先生を見て、俺は十年前を思い出してしまった。

 あの頃、彼女は何かにつけて質問という形で俺を指導してくれた。

 正解した時は、いつもこの笑顔で褒めてくれたものだ。


「なぜです!? なぜ先生がイスタリの目的に加担しているんですかっ!?」

「……」

「奴は諸悪の根源、人類の敵だ! そんな奴に先生が従う理由がわからない!!」

「そうですか? 弟子が師の言葉に従うのは当然のことでしょう」

「あなたに限ってそんなこと……っ」


 理性では現状を理解している。

 しかし、感情がそれを認めようとしない――できない。

 俺の頭の中は混乱の渦中にあった。


 壊れていくアン。

 疲弊する親方。

 崩れ落ちるプラチナム侯爵。

 血まみれのフローラ。

 冷笑を浮かべるガブリエル。


 その一方で、アイオラ先生との思い出が頭の中をかき乱す。


「俺の先生が……なんで……どうしてイスタリ(クソ野郎)の味方なんてしているんだよぉぉっ!?」


 感情が爆発したように俺は声を荒げていた。

 腹の底から怒りが収まらない。

 その怒りは、すべて顔すら知らないイスタリという人物へと向けられている。

 俺の恩人を――憧れを――先生を――汚しやがって!


「ジルコくん、しっかりしてっ!!」


 ネフラの手のひらが俺の頬を張った。

 突然のことに、俺の頭は真っ白になった――が、それがよかった。

 先生ばかりに意識が向いていたところ、隣に立つネフラの顔が見えるようになったのだ。

 その碧眼(ブルーアイ)を見つめたことで、激しく波立っていた心が不思議と落ち着いていく。


「あの人は敵! イスタリの手下として、この町を滅ぼそうとしてる!!」


 ネフラはらしくなく(・・・・・)眉間に(しわ)を寄せ、俺を睨みつけている。

 俺が彼女に叱られたのは初めてのこと。

 ……救われたな。


「見て。あの人の手に奈落の宝石があるのを」


 ネフラが指さすのは、六つの宝石を手にした先生だった。

 改めてその姿を目にした時、俺は冷静に状況を見定めることができた。


「ブラックダイヤにダークブルーダイヤ、それに四つの淀んだ宝石。わかるでしょう。あの人が六つの宝石を手にしているという事実が何を意味するのか!」

「……ああ」


 ブラックダイヤは、クォーツの銀行から奪われている。

 衛兵がすべて眠らされていたことから、犯人は魔導士(ウィザード)であることが濃厚。


 ダークブルーダイヤは、〈火竜の癒し亭〉で兵士長や傭兵ギルドの連中が守っているはず。

 それがこの場にあるということは、すでに……。


 さらに、残り四つの宝石に至ってはトロルの集落で封印されていたものだ。

 トロル達が素直に宝石を渡すとは思えない。

 加えて、今朝のフロスの言葉――元の体に戻れなくなったという事実から察するに、すでにトロルの集落は……。


「すぐに〈火竜の癒し亭〉へお戻りなさい」

「え?」

「銀行の件があって、夜毒揺籃歌(ララ・ヴァイラス)を警戒されていました。残念ながら無血制圧はかなわず……」

「……!!」

「運がよければ、まだ生きている者がいるかもしれません。すぐに宿へ戻り、彼らを助けてあげなさい」


 先生は澄ました表情で言い放った。


 ……これが俺の知っているアイオラ先生なのか?

 あの人は誰かを傷つけるような行為を、表情ひとつ変えずにできる人じゃなかった。

 十年前とはまるで別人じゃないか。


 戸惑う俺をよそに、ネフラが前に出た。


「いつまで慈悲深い天使の仮面を被っているの、アイオラ・ラブレス」

「ネフラさん」

「あなたはヲピダムを訪れて、封印されていた四つの宝石を奪った。その時、トロル達があなたに抵抗しなかったわけがない」

「……そうね。最後の一人まで抵抗されたわ」

「あの集落には子供だっていたのに……!」

「でも、邪魔をする以上は……ね?」

「この人殺し!!」


 ネフラが激昂した。

 彼女は胸に抱いていたミスリルカバーの本を開き、臨戦態勢に入る。


「アイオラは、イスタリと同じく不幸をばらまく悪の権化!! この場で倒さなければならないっ」

「……」

「ジルコくん、銃を構えて! あの人を撃つの!!」

「……わかってる」


 ……頭では。

 しかし、いまだその事実を受け入れられない自分がいる。

 あの人が敵だとどうしても認めたくないのだ。


「ジルコくん。私に銃を向けてはダメです」

「先生」

「私はきみを殺したくない。きみも同じ気持ちでしょう?」

「……っ」

「ネフラさんを連れて、この町から逃げなさい。そのために(・・・・・)東側と北側は開けておきました」

「そのために……!?」

「きみには知られたくなかった」

「え」

「私が人類に仇名す側にいること、きみには知られたくなかった――」


 言いながら、先生は寂しげな表情へと変わっていく。


「――だから私はきみをこの地から遠ざけようとした。パーズでそれが叶っていれば、こんな場所で顔を合わせることもなかったのに」

「先生、俺は……」


 俺は先生と戦いたくない――戦えない。

 この状況、その目的、戦うとなれば殺し合いは避けられない。

 先生と殺し合い(そんなこと)ができるわけがない。


「言いたいことはそれだけ?」

「私はジルコくんと話しているのですよ。引っ込んでいてください、ネフラさん」

「それは無理。私はジルコくんの相棒だから、どんな困難にも一緒に立ち向かうの。だから彼の本音を代わりに伝えてあげる」

「ジルコくんの……本音?」

「すぅ~……」


 ネフラは大きく深呼吸を始めた。

 ……そして。


「尊敬する先生がこれ以上罪を重ねないように! この場であなたを倒して悪事を止める!!」


 ネフラの声が町中に響き渡る。

 その声、その言葉を聞いて、俺は――


「でしょ!? ジルコくん!」


 ――心が軽くなった。


「その通りだ。ありがとう、ネフラ」


 俺は宝飾銃(ジュエルガン)を二丁とも先生へと向けた。

 俺が撃たずして、先生を止めることなんてできやしない。


「アイオラ・ラブレス。投降しないのならば、あなたを力ずくで拘束する。必要があれば、あなたの命を断つことも辞さない」

「……本気で言っているのですか、ジルコくん」

「ようやく復興を始めた世界を、またあの暗黒の時代に戻してたまるか。あなたがイスタリの悪事の片棒を担ぐなら、あなたのためにも、あなたを倒す!!」

「……残念です。本当に……残念」


 先生は深い溜め息をつくや、冷めた表情を俺へと向けた。

 その表情は背筋が凍り付くかと思うほど、情の欠片もないように思えた。


「素直に退いてくれれば、あの人達に危害を加えることもなかったのに」

「何?」


 先生が片手を空に掲げた。

 すると、彼女の手前――瓦礫の転がる地面に大きな影が二つ現れた。

 とっさに顎を上げると、俺の視界に信じ難いものが映る。


「なん……だと……」


 空から降りてきたのは、ふたつの十字架。

 しかも、十字架(それら)には人間が(はりつけ)にされていた。


「ラチア……母さん……!?」


 十字架に(はりつけ)にされていたのは、俺の妹と母親だった。

 二人とも意識を失っているようだが、両手両足ともに磔刑台へと鎖で縛りつけられ、脇の下に通された鎖が辛うじて体を支えている状態。

 しかも、鎖が肌に食い込んでいるため、赤黒く腫れ上がってしまっている。


 ……危害を加えることもなかった、だと?

 二人とも(はりつけ)にされた時点で無傷じゃ済まない!


「ラブラドラに頼んで、サンストンから連れてきてもらいました。きみ達も聞き及んではいませんか? ジルコくんの偽者のこと」

「酷い……。彼の偽者を使って、ラチアちゃん達を誘拐させたの!」


 先生は宙に浮かぶ十字架を撫でながらラチアや母さんを見上げている。

 その表情には、俺を見据えた時と同じように情の欠片すらない。


「すぐに銃と本を捨てなさい。あなた達の命と引き換えに、この二人は無事に返すことを約束しましょう。さすがにご家族を見捨てることは――」

「ふざけんな!!」


 俺は先生の言葉を遮って、感情のままに言葉を吐き出した。

 今にも踏み出して目の前の女を殴りつけたい――それほどの激情が俺の内側を巡っていた。

 家族を傷つけられるのがこれほど許しがたいことだとは、俺自身こんな事態に陥って初めて痛感した。


「まさかジルコくん、自分の家族を見捨てるつもりですか?」

「……よくそんな口が利けるな。俺の家族を磔刑(たっけい)にする資格が、あんたにあるのかっ!?」

「目的を果たすためならば手段を(いと)うな――先生の教えですもの」

「あんたが今まで俺の家族に向けていた温情は、その程度のものだったのか。イスタリの命令ひとつで切り捨てられるほど、他愛のないものだったのか!?」

「きみは私のほんの一面を知るに過ぎない。本当の私は、今きみが目にしている通り、目的のためなら手段を選ばない冷酷な女なのです」

「冷酷な女だって? 違う、あんたは悪魔だ! 天使のような顔で近づいて、あんたを慕う人達を容赦なく使い捨てる! 絶対に許せねぇ!!」

「私が与えた最後の慈悲を拒否したのは、きみ自身ですよ? ジルコくん」

「ありがとう、先生。これで心が決まったよ――」


 撃ち殺す。

 明確な殺意を持って、俺は指先をトリガーへと掛けた。


「――あんたは俺の知っている先生じゃない。俺が好きだったアイオラ・ラブレスはもう死んだ。その顔を俺に向けるな、悪魔め!!」

「悪魔、ですか。ならば引き金を引くことに躊躇(ためら)いはないわけですね」


 先生は臆することなく足を踏み出してきた。


 ……正気か?

 この距離で光線を撃てば、魔法陣を描く余裕なんてないぞ。

 否。彼女には支援型魔法武装(ソーサラーアーム)があるんだった。

 その装甲表面にはいくつも宝石がはめ込まれている他、多数の強力な魔法陣が彫り込まれている。

 自ら魔法陣を描くまでもなく、防御にも攻撃にも転じることができるわけか。


「当然、私の支援型魔法武装(ソーサラーアーム)もミスリル製です。きみに私を撃てますか?」


 先生の支援型魔法武装(ソーサラーアーム)は車輪型だが、内側は網の目のようなデザインになっているため、光線を撃ち込んでも装甲に弾かれる公算が大きい。

 だが、俺だって宝飾銃(ジュエルガン)の火力に頼ってきたわけじゃない。

 状況に応じた撃ち方だって心得ている。


「舐めるな!!」


 俺は宝飾銃(ジュエルガン)の引き金を引くと同時に、銃口の角度を下げた。

 光線は先生の足元の床を砕き、さらに両腕を開くことで水平に斬り裂いた。

 敷き詰められていた床石が一斉に砕けて生じた亀裂に、先生の足が取られる――


「!?」


 ――と思いきや、彼女はふわりと地面から浮き上がった。

 すでに飛翔戯遊(フライヤー)を使っていたのか!


「愚かな。自分の選択で家族を失うこと、後悔しなさい」


 先生はそう言い残して空高く浮き上がっていく。

 同時に、磔刑台の手前に赤い魔法陣が顕現した。


「十字架も支援型魔法武装(ソーサラーアーム)かよ!!」


 ……しくじった。

 魔導士(ウィザード)一人に支援型魔法武装(ソーサラーアーム)がひとつだなんて決まりはない。

 想定しておくべきだったが、今さら気付いたことで一手遅れた。


 俺が十字架に銃を向ける前に、魔法陣が完成して磔刑台へと火が付く。

 魔女狩りの火刑よろしく二人を火あぶりにする気か!


「任せて――」


 その時、ネフラが飛び出した。

 彼女はミスリルカバーの本を掲げて十字架へと近づいていく。


「――事象抑留(オーバーイーター)!!」


 二つの磔刑台についた魔法の火を、瞬く間に本の中へと吸い込んでいった。


 火が消えた直後、十字架は二つとも地面に落ち、そのまま倒れていく。

 幸いなことに十字架は背中から倒れたため、ラチア達が地面と磔刑台に挟まれる事態は避けられた。


「ラチア! 母さん!!」


 俺が駆け寄った時には、二人ともわずかな火傷もないことが確認できた。

 落下の衝撃を受けても目を覚まさないのは、夜毒揺籃歌(ララ・ヴァイラス)によって眠らされているからだろう。

 二人が目を覚まさなかったことは、ある意味で救いだったかもしれない。

 ラチアにも、母さんにも、俺がこれから先生を撃ち殺すところは見せたくない。


「ネフラ。二人を解放して逃がしてやってくれ」

「でも、ジルコくん一人であの人を相手にするのは……」

「心配するな。俺はあのクリスタにだって勝った男だぞ?」

「それは私と一緒に戦った結果でしょう」

「……そうだった」


 格好つけたつもりが、思わぬ反論を受けてバツが悪い。


 その時、上空で真っ黒な閃光が放たれるのが見えた。

 見上げると、動きのなかったサルビアの頭頂部に変化が生じていた。


「何をしているんだ!?」


 上空にて、先生はサルビアの頭頂部へと奈落の宝石を掲げている。

 宝石はひとつずつサルビアへと吸い込まれていき、ネフラの魔法で吹き飛ばされた頭頂部が再生していく。

 否。どうやら再生するだけに留まらない様子。


「くそっ。何かヤバいぞ!!」


 頭頂部へと狙いを定めようとしたものの、射線上に先生と支援型魔法武装(ソーサラーアーム)が陣取っていて光線を撃ち込めない。


 先生の手元から六つの宝石がすべて離れ、それらがサルビアに吸い込まれた直後、決定的な変化が起きた。

 サルビアの頭頂部に、まるで薔薇のような黒い花が咲いたのだ。

 加えて、樹木のように硬直していた胴体がうねり始め、足元――根元と言うべきか?――からは真っ黒な液体(?)が溢れ出した。


「な、なんだぁっ!?」


 その液体(?)は黒く燃え上がっていた。

 しかも、まるで海岸に押し寄せる波のように周囲へと拡がっていく。

 黒く燃える波――そう表現するほかない現象だった。


「ちぃっ!!」


 迫りくる波を打ち払おうと試みたが、斬り打ちを放っても斬った傍から新たな波が寄せてくる。

 まるで押し寄せる津波を相手にしているかのよう。


「ジルコくん、どうすれば……」

「くそっ!!」


 このままだと俺とネフラだけでなく、ラチア達まで飲み込まれてしまう。

 担いで逃げようにも、十字架にかけられた人間二人を運ぶのは無理だ。

 万事休す。その言葉が頭をよぎった瞬間――


「キュウゥッ!!」


 ――俺の目の前を大きな影が横切った。

 それは火傷痕を残したサンダーバードで、ラチアの囚われた磔刑台を鷲掴みにするや、翼を羽ばたかせて大空へと持ち去ってしまった。


「フォインセティア!?」


 その時に発生した突風は、通りを寄せてくる波を一瞬ながら押し返す。

 おかげで、この場を打開する猶予が生まれた。


「うおおおおおっ」


 俺は母さんを縛り付ける磔刑台へと光線を走らせた。

 寝そべる磔刑台を鎖ごと水平に斬り刻み、母さんをむしるように引き剥がして早々、波に背を向けて走り出した。

 すぐ後ろにはネフラが追随する。


「ジルコくん、この後は!?」

「正面右の荷馬車を踏み台に、屋根に上がるぞ!!」

「了解!」


 宣言通り、俺は通りに停められていた荷馬車を踏み台にして、建物の壁を駆け登った。

 なんとか屋根の上に着地することはできたが、すぐにネフラが心配になって通りを覗き込んだ。

 不安は的中し、ネフラは壁を踏んだ足をちょうど滑らせるところだった。


「ネフラ!!」


 とっさに宝飾銃(ジュエルガン)を離し、ネフラの腕を掴んだ。

 この子の命には代えられない――その覚悟で銃を手放したつもりだったが、なんとネフラは空中に投げ出された宝飾銃(ジュエルガン)の銃口を(くわ)えこんでくれていた。


 ネフラを屋根に引っ張り上げた頃、通りは黒い波で満たされていた。

 まるで火口から流れ出る溶岩のように、黒く燃える波が荷馬車を押し流して通りを進んでいく。


「ジルコくん、これ」


 ネフラに視線を戻すと、彼女は宝飾銃(ジュエルガン)を俺に差し出していた。

 受け取ってみると銃口には彼女の唾液が……って、それはこの際どうでもいい。


「無事でよかった、ネフラ」

「ありがとう。……ごめんね、汚くしちゃって」


 こんなものを(くわ)えさせてしまって、謝りたいのはこっちの方だ。

 その時、建物が大きく揺れ動いた。


「!!」


 波が勢いよく壁際に打ち寄せたことで、その一部が屋根まで跳ね上がったのだ。

 とっさにネフラを抱き寄せたことで波に触れることは避けられたが、その勢いは留まることを知らず、建物すらも押し流そうとしている。


「この波、どんどんクォーツに拡がってく」

「ああ。直に町全体が飲み込まれそうだ。ある意味でこれも大海嘯(グリムス・ヴァース)だな」


 波の中心――サルビアに向き直ると、最後に見た時よりもさらに全身を膨張させていた。

 頂上には真っ黒い薔薇のような花が咲き、全身を覆う炎は一層勢いを増し、根本から溢れ出る波は町を飲み込んでいく。

 もはやサルビアは魔物とすら呼び難い未知なる存在になり果てていた。

 先生は一体サルビアに何をしたんだ!?


「事情は掴めぬが、おぬしの先生は敵と見てよいのだな?」


 背後から聞こえた声に振り向くと、宿へ向かったはずのジェリカとムシリカが屋根の上に立っていた。

 すぐ傍には、ラチアを(はりつけ)にした磔刑台を掴んだままフォインセティアまで降りてくる。


「ジェリカ!」

「ジルコ、わらわの問いに答えよ」

「……そうだ。アイオラ先生は、この町を魔物の群れに襲わせた黒幕の一人――倒すべき敵だ!!」

「わかった。ならば、わらわ達が力を貸そう」


 ジェリカが鞭を手に取る横で、ムシリカが慌てている。


「姉貴! 俺、武器がねぇんだけど!?」

「お前には風の精霊(シルフ)がいるだろう」

「いや、それが……まだ修行中の身で、いつでも精霊魔法を使えるわけじゃ……」

「修行を疎かにしているからだ、馬鹿者! 役に立たなければ通り(した)に蹴り落とすぞ!!」

「ひっでぇ~~!! 黒い波(あんなもん)に飲まれたら死ぬぜ!?」

「どの道、屋根(うえ)に居てもそうなる。この黒い波は直に町を飲み込むぞ」


 ジェリカの言う通り、黒い波は少しずつ水位を増しているように見える。

 その勢いは一向に弱まる気配はないし、元凶であるサルビアを早急に叩かなければ後がない。


 先生は、サルビアの花の手前に自らを盾にするかのように浮遊している。

 彼女を倒さなければ、サルビアを狙い撃つのは難しい。


「さよなら、先生。今度は俺があなたに引導を渡す番だ」


 俺は改めて先生へと銃口を向けた。

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